現在は群雄割拠の“アイドル戦国時代”。同時に、アイドルファンばかりか音楽ファンをもうならす名曲が続々と誕生している。
そして今、リスナーの層にも確実に変化が起きてきているという。

アイドルに造詣が深いニューウェイブバンド、ロマンポルシェの掟ポルシェ氏は語る。

「いやー、時代は変わりましたね。少し前までアイドルソングを聴いてるなんて言うと、周りから『ロリコン』と呼ばれ変態扱いされたもんです」

しかし、今はアイドルソングを聞くことは音楽ファンにとっても「普通」のこととなった。ハロプロ応援歴がかれこれ13年になるという大手CDショップ、タワーレコードの代表取締役社長、嶺脇育夫氏も言う。

「ウチのスタッフは洋楽やJ−POPが好きで入ってくるんですけど、そんな連中が『アイドル、いいね』って言ったのは、Perfumeと、ももいろクローバーなんですね」

Perfumeは従来のアイドルがやらなかったテクノポップで、音楽ファンを開拓。
前出の掟氏によると、まさに彼女たちがアイドルソングのターニングポイントになったのだという。

「彼女たちがロックフェスに出るようになったでしょ。それを見て、アイドルソングって恥ずかしくないんだって考えを改めた人は多いと思いますよ。それがAKB48のブレイクや、今のアイドル戦国時代を招いた一因だと思うし」(掟氏)

大ヒットした『チョコレイト・ディスコ』(2007年)をはじめ、Perfumeは楽曲の良さを武器に着実にアイドルソングのファン層を広げていった。そして、その流れに拍車をかけたのが「ももクロ」だった。

「ももクロは自分たちを『週末ヒロイン』とか『いま、会えるアイドル』って呼んだり、初めはAKB48に対抗するようなことをやって話題でしたけど、やはりヒャダイン(前山田健一)さんの作る音がすごかったんですよね」(前出・嶺脇氏)

アイドルソングもかかるDJイベント「申し訳ないと」を17年間主催してきた、DJのミッツィー申し訳氏も同意する。


「テンポがすごく速くて、転調が多い。ボク、『行くぜっ!怪盗少女』(2010年)をラジオ『ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル』で初めてかけたとき、宇多丸氏と『革命的アイドルソングかも』と話したのを覚えてます」

ももクロが革命的だったのは曲だけではない。

「色分けされたコスチュームを着るとか、パッケージはすごくアイドルっぽいんだけど、プロレス的なギミックを入れたり、アクロバティックなダンスをしたり。アイドルの枠組みを広げましたね」(前出・掟氏)

こうして従来のアイドルの概念を大きく超えたPerfumeやももクロに対し、AKB48の音楽的な立ち位置とは?

「AKB48は、彼女たちがデビュー当時に人気だった、ハロプロのやらないことをやろうと徹底した結果、音楽的には、つんく♂さんと真逆をいったんだと思うんです。アイドル的な王道のメロディをユニゾンで歌う“ド真ん中”なんですよ」(掟氏)

いつ、誰が聴いても親しめる魅力を追求したAKB48は、なるべくして“国民的アイドル”になったといえる。Perfume、ももクロ、そしてAKB48……彼女たちが、アイドルソングの音楽的評価を大きく押し上げたのだ。


(取材・文/大野智己 撮影/関根弘康)

■週刊プレイボーイ20号「アイドルソング戦国時代の神曲ベスト10」より

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