ども、CBCNET栗田です。

先日、ICCで開催された配信イベント「座談会:インターネット・リアリティとは?」にエキソニモ、思い出横丁情報科学芸術アカデミー、ICC畠中さん、そして特別ゲストyoupyとともに参加してきました。

APMT6のカンファレンスにて「インターネット・リアリティ」というテーマを設定したのですが、そのテーマを参加いただいたエキソニモの千房さんがもっと掘り下げて考えてみる価値あるんじゃない?ということで、まずは座談会を行って、ネット展覧会みたいのができたらいいね、という進行形プロジェクト。
トークはかなり広がって、まとめるのが大変なところもありました。

「インターネットでできることじゃなくて、インターネットそのもの」というキーテーマはでてきましたが、これもなかなか解釈が難しい。

「GIFとJPEG、どっちが硬いか」という問いは面白い。ただ、感覚的にGIFが硬いと感じるが、Webデザイン視点から考えると、それは色数が少ない、ピクセル概念が強い、だから硬いという感覚なのだと普通に思える。

あと、youpyさんが終盤で加えてくれた「なるべく労力が少なく、最大の結果をだす」という流れはよかった。ちょっと目線は違うかもしれないが、これはEvan RothやParker君など近い海外のネット界隈のアーティストからよく聞いてることだったので。
これも表裏一体ですが思うところはありますよね。


そこで参考までに、昨年WebDesingingで書いた記事「ネットとアートの関係とは ?」を転載しておきます。
これは2010年7月号のエキソニモ特集内の1ページです。
雑誌なのでわかりやすく書こうとして、それでも伝わりにくいんだろうなと悩んだ覚えがあります。このあたりに言及している記事は日本語ではほとんどなく、実態も掴みにくいムーブメントなので。
作品例などはもっと追加できそうですが、またの機会に。

個人的にはこの1年で「インターネット・リアリティ」の感じ方は変わった気がします。
その何というか、昨年のリアリティの感覚を思い出せない。あのときの景色、匂いや手触り感というのはもう戻ってこないのかなとノスタルジー感もありつつ、次のフェーズに入っただけなのかも?と思ったりも。

ということで興味ある方は以下どうぞ。

参考:センボーさんのブログにもこの座談会について書いてあります

このあたりの話と日本でのn次創作界隈との接点および言及があまり見られないのも何なんでしょうね。



Web Designing2010年7月号
特集2:エキソニモが知っている

ネット と アートの関係とは ?



Space in Veda



「ネットアート」ってなんだ?


新たなメディアが登場すれば、それを使った新たな表現が生まれてくる。インターネット上でも、誰もが初めて体験するツールだった当初から、表現の試行錯誤が繰り広げられてきた。


1999~2001年頃に、日本のネット上では日記やBBSなどの個人サイトや商業的なWebサイトが急増した。Webが一般的に普及し、Flashが盛り上がりはじめたその裏側で、エキソニモによる「DISCODER」や「Space in Veda」などの作品が発表され、「インターネットという砂場でどう遊んだらいいのだろうか?」という試みが行われはじめた。日本でしばしば「ネットアート」という言葉が使われるのを見かけるが、これはけっして、既存のアート作品をWeb上で閲覧可能にすることではない。簡単に定義してみると、「インターネット特有の要素をテーマにしたアート作品」となるだろうか。Webブラウザ自体であったり、ソースコードであったり、ハッキング文化的なものであったり、ネットに潜む事象を新たな解釈で捉えて、提示している作品たちを指している。

jodi.org http://wwwwwwwww.jodi.org/
ネットアートの先駆者的アーティストJodiのサイト。ページ数が膨大で、謎の構造をしている作品が多数


初期は1990年代半ば、オランダのjodi.orgやロシアのオリア・リアリナアレクセイ・シュルギンなどのアーティスたちが、インターネットというプラットフォームの開拓を始めた。それらは、しだいに「net.art」(ネット・ドット・アート : wikipedia )と呼ばれるムーブメントを形成する。ハチャメチャで挑戦的な作品が多く、Webブラウザが落ちてしまうことだって珍しくなかった。

こうしたネットアートたちは主にスクリーンベース、つまりモニタで閲覧するための作品だ。しかし、例えば「0100101110101101.org」(※1)のように、ネットを使ってハッキング的なプロジェクトを行う過激なアーティストなども登場し、ネットアートの多様な表現は同時に多くの論争を巻き起こすものでもあった。

※10100101110101101.org
Franco&EvaMattesの二人が、「オリジナルとコピー」などネットの特質をテーマとしたプロジェクトを行う。例えば、他人のサイトを丸々コピーしたり、架空のアーティストを創造したり、といった作品で知られる。
http://www.0100101110101101.org/

世界各地で行われるインターネットの再解釈



Ten Thousand Cents http://www.tenthousandcents.com/
100ドル札を10,000パーツに分割し、1人1セントで10,000人に模写してもらって構成された作品。グローバル化した社会への批評の意味も込められている


最近ではたとえば、川島高Aaron Koblinによる、Amazonのサービス「MechanicalTurk」を利用した2008年の作品「TenThousandCents」が、新たな作品形態を見せている。ネットアートとして定義されることはないが、これもやはりインターネットの本質に切り込んだ作品だ。「インターネットという仕組み自体」をコンセプトとしているが、Webブラウザ内で展開されるコンテンツが主題ではないので、初期のネットアートよりも広義な取り組みと言えるかもしれない。

paper toilet.com http://www.papertoilet.com/
ラファエル・ローゼンダールによる2006年の作品。トイレットペーパーをクルクルと引っ張れる、というだけのFlash作品。彼は、作品のあるドメインそのものを販売して、末尾を「.com」や「.org」に変えることでエディションを作っている。作品は買い取り後も公開されたままなので、誰もが常に閲覧可能だ


また他方では、ミルトス・マネタスやラファエル・ローゼンダールらが中心となって、「Neen」※2と呼ばれるネットアートのムーブメントを形成つつある。彼らは「一つのドメインに一つの作品を置く」というスタイルで多くの作品を発表し、実際にそのWebサイトをドメインごとアート作品として販売している。これらの作品それ自体は、たとえばトイレットペーパーを引っ張るだけの作品papertoilet.comなど、ネットの本質を問うようなテーマ性を持ったものではない。ネットを使って「アート」という概念への新たなアプローチを模索しているという意味では、こちらも従来のネットアートからの断絶を感じさせる。

2010年になってUstreamやTwitterなどのメディアが一気に普及し、今まで交わることがなかったデザイン、現代アート、商業なども巻き込みながら、ネットとアートの関係はさらなる境地へ進んでいる。1990年代は未開拓の分野であったインターネットが周知のツールなった今、まるでテレビとネットとの関係のように、既存の価値観、経済の仕組への「挑戦と接続」を試みている。そこには、僕らがまだ気付いていない現代の価値感や、便利なシステムへの新たな解釈のヒントが眠っているはずだ。


※2Neen
2000年にギリシャ人アーティストのミルトス・マネタスによって作られた概念で、ネット上で作品を発表しているグラフィックデザイナーやアーティストを指す。
http://www.superneen.com/




初出:Web Designing2010年7月号(毎日コミュニケーションズ)
Web Designing2010年7月号(毎日コミュニケーションズ)