日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件

藤原編集室 @fujiwara_ed さんによる「日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件」
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藤原編集室 @fujiwara_ed

23年前、1989年の今日、宇野宗佑内閣が発足。リクルート事件で竹下首相が辞任し、事件と関係の薄い、クリーンなイメージの宇野氏が急遽担ぎ出されたのだが、この一報に国書刊行会(巣鴨)は俄かにいろめきたった。

2012-06-03 11:31:30
藤原編集室 @fujiwara_ed

読書家で音楽や俳句の趣味をもち、文人政治家ともいわれた宇野氏には、自身のシベリア抑留体験を綴った著書『ダモイ・トウキョウ』(1948)があり、国書ではこれを〈シベリア抑留叢書〉の一巻として復刊していたのだ。

2012-06-03 11:32:18
藤原編集室 @fujiwara_ed

新総理の本は売れる。同社では急ぎ新装版を制作して勝負に出た。

2012-06-03 11:33:29
藤原編集室 @fujiwara_ed

しかし就任3日後に女性スキャンダルが噴出、宇野首相はわずか2ヶ月で辞任に追い込まれてしまう。あとに残ったのは行き場を失った在庫の山。皮算用は無惨についえたのであった。

2012-06-03 11:34:34
藤原編集室 @fujiwara_ed

これが日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件のひとつである。

2012-06-03 11:35:28
藤原編集室 @fujiwara_ed

これは1976年のことだから、いまから36年も前の話。国書刊行会では「企画いらいじつに十六年!ついに実現した世界最高・最大の怪奇叢書!」を謳った《ドラキュラ叢書》全10巻を発刊した。《世界幻想文学大系》につづく海外文学企画第二弾である。

2012-06-03 13:44:47
藤原編集室 @fujiwara_ed

その新聞広告を見たある旅行代理店が「ドラキュラ・ツアー」という企画をもってやってきた。ドラキュラ城のモデルとされるブラン城をはじめ、ルーマニア各地をめぐるパック・ツァーである。

2012-06-03 13:46:07
藤原編集室 @fujiwara_ed

当時共産圏のルーマニアには日本からの観光客はほとんどなく、また「ドラキュラ」を観光の目玉とする発想もなかった。(ドラキュラ=ヴラド公の史実を探ったマクナリー&フロレスク『ドラキュラ伝説』の邦訳が78年)

2012-06-03 13:47:01
藤原編集室 @fujiwara_ed

代理店の口先三寸に、新し物好きの社長はひとこと、「やりましょう」。

2012-06-03 13:47:38
藤原編集室 @fujiwara_ed

かくして国書名物、出版情報をぎっちり詰め込んだ全5段の新聞広告の一画に、「ドラキュラ・ツアー参加者募集!」の文字がデカデカと躍ることになった。

2012-06-03 13:48:12
藤原編集室 @fujiwara_ed

しかし、盛り上がる社内の期待をよそに、読者の反応はほとんどなく、そのまま募集期限がきてしまう。申込みはわずか一名。惨敗である。

2012-06-03 13:48:42
藤原編集室 @fujiwara_ed

こういう場合、ツアー不成立にすることもできるのだが、それでは面子が立たないとでも思ったのか、会社では不足分を社員で補うという手に打ってでた。要するに、社員旅行みたいなものだが、もちろんツアー代は各自の自腹である。(それにしても、一人だけまじった一般のお客さんは、どう思っただろう)

2012-06-03 13:49:53
藤原編集室 @fujiwara_ed

これを日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件その二に認定したい。 (さすがにこれは入社前の事件。むかし、社の古老から聞いた話である)

2012-06-03 13:52:37
藤原編集室 @fujiwara_ed

ついうっかり「国書刊行会三大がっかり事件」などとつぶやいてしまったために、「がっかり」を三つひねりださねばならなくなってしまった。自業自得である。しかし、最後のひとつが仲々むずかしい。

2012-06-07 09:28:28
藤原編集室 @fujiwara_ed

もちろん「がっかり」が種切れな訳ではない。国書にかぎらず、会社というものは「がっかり」のかたまりみたいなものである。本が売れなくてがっかり、お願いした先生が全然仕事をしてくれなくてがっかり、苦労して見つけた作家を後から来た大手にさらわれてがっかり、なんてのはよくあること。

2012-06-07 09:29:54
藤原編集室 @fujiwara_ed

また、いくら面白くても、口に出すのは憚られる、シャレにならないネタもある。世の中には言っていいことと、言うと面白いことがある、とはいうものの、調子にのって迂闊なことを口走って、志村坂上のミスターXから虎の穴の刺客を差し向けられては大変である。

2012-06-07 09:32:04
藤原編集室 @fujiwara_ed

社員旅行で行ったソ連時代のウラジオストックで、軍港をカメラでパシャパシャやってた業務部員が、スパイに間違えられて拘留されそうになった話とか、

2012-06-07 09:33:53
藤原編集室 @fujiwara_ed

魔術本企画のからみで海外の某人物から呪術戦を仕掛けられそうになった話なら(朝、出社すると「おまえの会社に呪いをかけてやる」(大意)という英文のFAXがきていたときはさすがに驚いた)、今となっては笑い話だが、これは「がっかり」じゃなくて「どっきり」だ。

2012-06-07 09:34:25
藤原編集室 @fujiwara_ed

会社の電話番号とまちがえて自宅の番号を販促パンフに刷ってしまった先輩もいたが、これは「うっかり」。

2012-06-07 09:35:17
藤原編集室 @fujiwara_ed

というわけで、最後のひとつは「がっかり」といっていいのかわからないが、ある日、国書刊行会に振りかかった奇妙な事件を。それは一本の電話から始まった。

2012-06-07 09:37:18
藤原編集室 @fujiwara_ed

年配の男性客からの電話で、「御宅から直接本を買ったが、開けてみると頁に黴が生えていた。取り替えてもらいたい」というのである。

2012-06-07 09:37:50
藤原編集室 @fujiwara_ed

電話を受けた営業部員はもちろん平謝り。至急、新しい本をお送りすること、お手元の本はお手数ですが着払いで返送してほしい、と伝えて電話を切ると、その足で隣接するビルの出庫倉庫へ行き、本を確認して発送の手配をした。

2012-06-07 09:38:24
藤原編集室 @fujiwara_ed

これで一件落着、のはずだった。

2012-06-07 09:38:44
藤原編集室 @fujiwara_ed

しかし、数日後、件の男性客から再び電話があった。「届いた本を開けてみたら、やっぱり黴が生えている。いったいどういうことか」さすがに今度は怒りを隠せない御様子。それが本当ならお怒りはごもっとも。しかし、そんなはずはない。

2012-06-07 09:41:03
藤原編集室 @fujiwara_ed

再送した本は電話を受けた社員が、函から抜いて点検した上で送ったものだ。

2012-06-07 09:41:27