トルコ新首相に大統領側近 ユルドゥルム氏が内定
【イスタンブール=佐野彰洋】トルコのイスラム系与党・公正発展党(AKP)は19日、辞任を表明したダウトオール首相(党首)の後任党首にユルドゥルム運輸海事通信相を内定した。AKPの党規では党首が首相を務める。エルドアン大統領の長年の側近であるユルドゥルム氏の首相就任が確実となった。
今回の首相人事でエルドアン氏の影響力が一段と強まるのは確実とみられる。AKPは22日に首都アンカラで臨時党大会を開き、ユルドゥルム氏を新党首に選出する。国会の信任投票を経て、月末にも新政権が発足する見通しだ。
「結党の指導者と完全な調和をもって働く」。ユルドゥルム氏は19日、AKP本部での演説で、エルドアン氏への忠誠を誓う発言をした。
エンジニア出身のユルドゥルム氏は1990年代、エルドアン氏が市長を務めた最大都市イスタンブールで海上交通網の整備に手腕を発揮した。2002年のAKP政権発足後はほぼ一貫して運輸相を務めた。海底トンネル、大規模橋梁など日本企業も絡むインフラ整備を指揮し、エルドアン氏の厚い信頼を得てきた。
辞任を表明したダウトオール氏は14年、エルドアン氏の後継指名で首相に就いた。だが、大統領権限の拡大やテロ対策を名目とする学者やジャーナリストの拘束問題などを巡り両者の溝が深まり辞任表明に追い込まれた。
新内閣の発足を前に、内外の投資家は経済政策を仕切る、米投資銀行出身のシムシェキ副首相の処遇を注視する。同国の中央銀行は低金利政策による消費や建設投資の拡大を望む大統領周辺の利下げ圧力にさらされる。シムシェキ氏は中央銀行の独立性を訴え「盾の役割を一定程度果たしてきた」(エコノミスト)。
シムシェキ氏の起用はダウトオール氏主導だったとされるだけに、交代観測が浮上している。後任の人選次第では中銀への風当たりが増すのは避けられない。中銀が政治の圧力で利下げを急げば、一時的な成長の底上げと引き換えに、通貨リラの下落やインフレ率の上昇といった副作用が生じるとの懸念もある。
先行きへの懸念は内政や外交にも広がる。エルドアン氏は現行の議院内閣制から行政権を含む権限を自身に集める大統領制への移行を悲願とする。国会では抵抗勢力であるクルド系政党を狙い撃ちにしたとみられる議員不逮捕特権剥奪を巡る採決が20日に迫る。