筆者のJohn Goerzen氏はプログラマー、フリーOS「Debian」の開発者、そして2児の父親でもあります。彼は以前より「子どもとPC」との引きあわせ方について考えてきました。その結果、愛する息子たちに与えたのは、GUIの一切ないコマンドライン方式のPCでした。彼はなぜ、WindowsやMacを渡さなかったのでしょう?

私は2年前、当時3歳だった息子のJacobと一緒に、彼にとって初めてのコンピューターをつくりました。『Debian』はインストールしましたが、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)はいっさい入れませんでした。つまり、コマンドライン方式のマシンです。そのマシンはこの2年間、折に触れてたくさんの楽しみを提供してくれています。「うちの息子は3歳のときから『Linux』シェルに自分でログインできたんだよ」と、至極当然のように説明したときに相手の顔に浮かぶ驚きの表情は、愉快でもあり、意外でもあります。なにしろそれは、そんなに難しいことではないのですから。『Xbox』の使い方を覚えるかわりに、息子はバッシュの使い方を覚えたわけです。私はそれをいいことだと思っています。現在5歳のJacobは、そのマシンにあまり長い時間を費やさなくなっています。息子はまだ、自分の限界を遠くまで押し広げたがる時期には来ていないと思いますが、おなじみのものには飽きるようにもなっています。そこで、そろそろ限定的な形でGUIを息子に引き合わせるときではないかと考えました。VTech社の子ども用カメラ(低解像度ながら本物の写真や動画を撮影し、それをUSB1接続でダウンロードできる)から、写真や動画をダウンロードさせてもいいのではないか、と。GUIのコンセプトに、息子は少なくともある程度はなじんでいました。母親であるTerahのコンピューター(『GNOME 2』)や、私のコンピューター(『Xfce 4』+『xmonad』)のGUIを目にしていたからです。

そこで昨晩、2歳のOliverを連れて地下室へ下り、マウスを探しました。案の定、地下室には古いPS/2マウスがあり、まだ十分に使えそうでした。それを子ども部屋のデスクトップにつなぐのを手伝った息子たちは、コンピューターの電源が入り、マウスの下に赤い光が灯るのを見て、ものすごく興奮しました。本当に、興奮を収められないほどでした。私が初めてマウスを手にしたときも、少なくとも似たような反応だったことを覚えています(もうちょっと年上だったと思いますが)。

私の手助けを得て、息子は生まれて初めて、ルートでログインしました(Jacobが「root」と入力し、私がパスワードを入力し、なぜ自分たちが「ルート」だとコンピューターに教えなければならないかを説明しました)。JacobとOliverは、apt-getコマンドラインの断片を交代で入力しました。そのあと、ソフトウェアのダウンロードを待つあいだ、「マウスはいつになったら動くの?」、「『インストール』ってどういう意味?」といった質問に、私は繰り返し答えるはめになりました。

ようやくダウンロードが終わり、Jacobに「startx」と入力するように言いました。ディスプレイマネジャーはあえてインストールしていませんでした――それについては、また今度。Jacobがエンターキーを押すと、スクリーンが5秒間空白になり、それからXが現れました。息子たちの反応は「興奮」という言葉では言い表せません。ふたりはかわるがわるマウスで遊びました。今回は、まず『Xfce』から始めたのですが、ごみ箱のアイコンで、ごみ箱のなかにごみが表示されるのが大いに気に入ったようでした。

でも、息子たちはマウスの使い方を覚えはじめたばかりです。一般的なGUIには、マウスに慣れない人にとっては不親切なものがたくさんあります。「閉じる」ボタンはがっかりするほど小さいし、デスクトップ上のものはあまりにも簡単に引きずられ、パネルやメニューに現れたり消えたりします。一般的なGUIデザインは、子どもが使いやすい「いつでも同じように動く」良いインターフェースとはいえないようです。

そのとき、思いついたのです――子どもにとって完璧なGUIとは、単純に『xmonad』だろう、と。 ほぼすべてをキーボードで操作でき、たいていはマウスを動かす必要がない、タイル型ウィンドウマネジャーです。デスクトップ環境もなく、ルートウィンドウのファイルマネジャーもない。クラシックなX式のウィンドウマネジャーだけ。完璧です!

そこで、息子たちが眠るのを待って、『xmonad』をインストールしました。Jacobのアカウントで、ターミナルと『xmonad』を起動する簡単な「.xsession」ファイルを作成しました。

今日、Jacobは自分のコンピューターを「パパのとそっくり」の見た目にしたいと言いだしました。まさに作戦どおりです! ところが、意気込んで「startx」と入力したJacobは、「パパのとそっくり」ではない、と言ったのです。あれあれ? よく聞いてみると、Jacobが望んでいたのは、私がコンピューターで使っているものと同じ壁紙でした。やれやれ。ふたりで目的のものを探し、xli(1)がそれをルートウィンドウにロードしているのを探りあてた私は、3つ目のラインを.xsessionファイルに追加しました。さらなる喜びの声が上がりました!

Jacobは、『xmonad』の基本をあっというまにマスターしました。「Alt-Shift-C」でウィンドウを閉じる。「Alt-Shift-Q」で終了して「大きな黒いスクリーン」に戻る。「Alt-Shift-Enter」でターミナルウィンドウを開く。

Jacobと私は、『Xfce』ファイルマネジャーである『Thunar』を起動させ、Jacobのカメラを接続しました。Jacobは大いに楽しみながら、写真や動画を眺めました。でもそのとき、私は息子のために、その日の真のハイライトを投下しました――『Tux Paint』のインストールを提案したのです。それは、Jacobがおそらくこれまででいちばん気に入っているプログラムです。

『Tux Paint』とそのライブラリーがインストールされる1分30秒をapt-getがカウントダウンするあいだ、Jacobは辛抱強く眺めていました。それから、私たちはプログラムを起動しました。Jacobは、「ぼく専用のコンピューター!」を使って『Tux Paint』で遊びつづけたいがために、夕食を抜こうとさえしました。

私はずっと以前から、子どもにGUIを引き合わせる方法を考えてきました。私の観察によれば、『Commodore』や『TRS-80』や『DOS』を使う子どもたちのほうが、『Windows』や『MacOS』を使う同じ歳の子どもたちよりも、平均的に見て、自分のコンピューターの仕組みについてずっと詳しいように見えます。息子たちには、自分の使う技術の仕組みをしっかり学習してほしかったのです。私はこの解決策に満足しています。息子たちはいまでも、コマンドを使っていろいろなものを起動させていますが、テキストベースのプログラム以外のもので遊ぶようにもなっています。

おやすみの時間に、Jacobがこんなことを聞いてきました。とても真剣に。

「パパ、もういちど『Tux Paint』をスタートさせるには、どうしたらいい?」

「まずログインして、『startx』と入力するんだ。そのあとは、マウスを使えるよ」

じっくり考えこんでいるような表情を浮かべながら、Jacobはうなずきました。

「それから」と、私は続けました。「ターミナルで『tuxpaint』と入力すれば、すぐに起動するよ」

Jacobは再び、たいそう真剣にうなずきました。このきわめて重要な情報を、長期記憶に書きこんでいるかのように。それから、興奮気味に手をひとつ叩いて「すごいや!」と叫び、駆け出していったのでした。

I introduced my 5-year-old and 2-year-old to startx and xmondad. They're DELIGHTED! | The Changelog

John Goerzen(原文/訳:梅田智世、合原弘子/ガリレオ)