就活生の親がやるべきこと、やってはいけないこと
「就職活動が本格化すると、学生は一気に孤独になります。友人もライバルだから、悩みやうれしいことを気軽に報告できない雰囲気が出てくるんです」。2010年春にアパレル商社と航空会社から内定を受け取った青山学院大学4年生の小島聡子さん(21)はそう就職活動(就活)を振り返る。120社にエントリーシートを送り、60社の面接を受けて内定にたどり着いた就活は、「親の精神的、金銭的なサポートがあったおかげで全力を注ぐことができました」と話す。
『こんな親では就職できない』(廣済堂出版)、『正社員は危ない!~"リストラなう"を生き抜く方法』(朝日新聞出版)などの著書がある採用コンサルタントの尾方僚さんは「『親が就活にまで口を出すなんて』という意見もあるが、友人と少ない採用枠をめぐって戦わなくてはならない時代です。せめて家庭はシェルターの役割を果たしてほしいと願います」という。
まず、知っておきたいのは、就活事情の大きな変化だ。文部科学省の学校基本調査によると、1979年の大学(学部)への進学率は26.1%(男子39.3%、女子12.2%)だったが、2010年の進学率は50.9%(男子56.4%、女子45.2%)とほぼ倍増した。「大卒にある程度の希少価値が残っていた時代とは様変わりしています」(尾方さん)。また、手書きの資料請求はがき、応募書類によるエントリーが当たり前だった時代とは違い、ネットの活用がスタンダードに。活動の「量」も増えた。就職情報サイト「日経就職ナビ」を共同運営するディスコの調べでは、2010年7月1日現在の1人当たり平均のエントリー数は94.4社、エントリーシート(ES)提出は25社、筆記・Web試験は17.4社、面接は12.9社に上った。
では親は子どもをどのようにサポートしていけばいいのだろうか。
尾方さんは「まずは子どもの選択を見守る姿勢が大事です。受験のように手取り足取りでは自立の妨げになりかねません」と話す。
「たとえ受けている企業が大企業でなくても頭ごなしに否定しないであげてほしい。大企業も採用を絞っており、中堅、ベンチャー企業に目を向ける姿勢は現実的な選択なのです」
都内の私立大学に通い、第1志望に内定した女子大学生(22)は「父は内定が出るまでは心配でも何も言わないでいてくれたし、つらいときには母が『私も心が痛む』と寄り添ってくれた。二人のその気持ちがありがたかった」と話す。
その上で尾方さんは「お子さんがアドバイスを求めてきた場合、新入社員として職場に入ってきたらどういう印象を持つかを伝えてみてほしい」とも提案する。状況を設定することで、親の視点ではなくビジネス人としての目から見た子どもの長所・短所が的確に伝えることができるという。
サポートした費用は就職後に返す約束を
費用面でのサポートはどこまでOKだろうか。ディスコの調べでは、2011年春就職の就活費用は平均16万7166円。交通費8万1531円、スーツ3万7886円という内訳だ。遠方への「遠距離就活」では、さらに交通費や宿泊費の負担が増えてくる。
「無理をしてアルバイトをすると就活が圧迫されることもあるので、援助自体は構いません。就職後には返す約束をするといいと思います。それによって本人も就職しなくては、という気持ちにもなります」(尾方さん)。
また親せきや友人、仕事仲間などのツテをたどった「企業・業界研究の相談相手探し」も、親の出番の一つ。先方に「何も知らなくて失礼があると思うが許してほしい。悪かった点はフィードバッグして」と依頼し、改善すべき点を本人に伝えてもらうといい。第三者から指摘されるほうが、親から言われるよりも素直に受け入れる傾向にあるという。そのほか、学生にはあまりなじみのない投資家サイトや新聞、経済誌などで企業情報を集めるバックアップをするのもいいだろう。
・「そんなにつらいなら就活やめてもいいよ」 |
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・「留年・留学してもいいんだよ」 |
・「そんな誰でも入れる会社に入ってどうするの?」 |
・「もっと大きな企業や公務員がいいんじゃない?」 |
・「(娘に)一般職にしておいたほうがいいと思うよ」 |
逆に「絶対にやってはいけないこと」は、就活の厳しさを目の当たりにして「留学・留年」を安易に認めること。「社会人未経験のまま年齢を重ねた場合、就活は新卒時よりも格段に厳しくなる。留年についても採用時に理由を問われます。今は経済的に余裕があっても『学費は4年間しか出さない』という強い覚悟を持ってください」(尾方さん)。厚生労働省が発表した2010年9月の有効求人倍率は0.55倍(100人の求職者に対して55人の求人がある)。一方、リクルートの研究機関「ワークス研究所」の大卒求人倍率調査によると、2011年3月卒業予定者の求人倍率は1.28倍。前年比0.34ポイント減とはいえ、一般に比べずっと高い水準である。
さらに娘の場合は注意したいことがある。親世代では一般的だった「一般職で入社して職場結婚で寿退社」というモデルは、バブル崩壊後に一般職の求人自体が減っただけではなく、男女共に働き方も多様化したために実現が困難になっている。
「ステレオタイプな幸せ像を押し付けたら、お嬢さんを追い詰めることになるので気をつけてください」(尾方さん)。日本女子大学キャリア支援課の茂木知子さんも「本人の意思に反してご両親が強く安定志向の志望先を提示した場合、就活が長引くこともあります」と話す。
なお、女子学生の就職については日経ウーマン別冊「女子学生のための就職☆バイブル」(日経BP社)を参考にしてほしい。
親の「器」も問われる
また兄姉からのサポートも親が確認をしておきたいポイントだ。「2006~2008年の好景気のときに就活を体験したお兄さん、お姉さんからのアドバイスは、今の状況下ではやや甘いものになっている場合があります。頼りきっているようでしたら、大学などのガイダンスに参加を促し、早めに外部の意見を聴くように軌道修正をしてあげてください」(茂木さん)。
子どもの就活を成功させるためには、親自身が的確に就活の現実を把握し、不安を受け入れるキャパシティーを持つ準備が必要だ。まずは自分自身と子どもの今の状況を、上の2つのチェックリストを参考にして、把握してみてほしい。
(日経ウーマン 常陸佐矢佳)
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