『奴隷契約』大石圭

奴隷契約 (幻冬舎アウトロー文庫)

奴隷契約 (幻冬舎アウトロー文庫)

 大石圭幻冬舎アウトロー文庫に初参戦!


 三ヶ月に渡って南の島に滞在する、ある秘密を抱えた日本人「ゴミ」は、夜ごと娼婦を呼び、自らのサディズムを満たし続けていた。ある日、死んだ母を思わせる日本人のマッサージ師に会った彼は、高額の紙幣をちらつかせ、彼女にその「アルバイト」を持ちかける。自分の言うことを聞き、恥辱に満ちた性癖に耐えることを……。ためらっていた女も、その島では決して手に入らない収入に目がくらみ、ついにそれを受け入れるのだが……。


 正直、こりゃ半ばポルノみたいなものになってるんじゃないか……と心配だった。果たして、オープニングから娼婦にローソクを垂らし、鞭を飛ばす主人公! そしておなじみの口淫の大盤振る舞い! ぎゃっ!
 延々このサド描写が続くのか……と、いささか辟易したのだが、主人公の過去の明かされる中盤から、急速に興味が高まってくる。妻を失った辺りの展開が特に……正気じゃないよね! なに、この嫌な悲劇! 安いポルノにありがちな自慰的設定など超越した、自傷的なまでの大石イズム!
 「ゴミ・レイ」という偽名を名乗る主人公は、それによって日本での生活から姿をくらまし、この南の島へ逃れて来ている。美形で知的、柔らかい物腰、金も腐る程持っている。だが、もはや彼には何の望みもない。いつか逮捕されるであろう日まで、自分の性癖を満たし続けることだけを考えている。


 いつもより、ちょっと分厚いめ。情景描写多いんだが、これが素晴らしい。南の島の風景と空気感までが感じられるようだ。他社ではやや削るところか? 初の幻冬舎からの作品ということで、結構好きにやらしてもらった部分が多いんだろうか。この美しさがSM描写と絶妙な対比を為していて、殺人などストーリーに派手な動きがないにも関わらず、完成度を一段押し上げている。
 後半は、主人公と、彼より11歳年上の(またか!)日本人の女との関係が中心に。金でつながった二人の心理が絡み合い、立場の違いが対比される。金を払う側と受け取る側、サディスティックな行為をする側とされる側。最終章での一人称の移動によって、それまで不明瞭だった女の側の心理が明らかになるのだが、そこで突きつけられるのは、二人の間の徹底的なまでのすれ違いぶりだ。互いに互いをまったく理解しあえず、自分の都合だけを考えている。だが、それに対して少しも強欲さや浅ましさなどは感じられない。男はただ自然なまでに欲望に忠実なだけで、女は生きることに必死なだけなのだ。隠された女の意図をはらんで、クライマックスは衝撃の展開へと突き進む。


 『甘い鞭』はいささか低調に感じたのだが、今作では盛り返したな〜。派手な新要素は一切なく、また同じような舞台で同じようなキャラクターで同じような話を書いてる、とも言えるのだが、人物配置と構成の妙味で一気に読ませ切る。作者はまた一つ階段を上がった、と言っていいんじゃないか?


 あと、このタイプの主人公が復讐の対象にされる、というシークエンスは、今までありそうでなかったよね。一瞬、想起したのは『ハンニバル』においてレクター博士がメイスン・ヴァージャーに狙われる展開。こっちを掘り下げても一編書けるんじゃないかなあ……。

甘い鞭 (角川ホラー文庫)

甘い鞭 (角川ホラー文庫)

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