天然ウナギの卵、大量採取に成功 東大など世界初
マリアナ諸島付近で
東京大学や九州大学、オランダ・ライデン大学などの国際研究チームは10日、天然ウナギの卵を大量採取することに世界で初めて成功したと発表した。太平洋のグアムから西に200キロメートル以上離れたマリアナ諸島付近で100個を超える卵が見つかり、一部を持ち帰った。世界のだれもが陸揚げできなかった実物を都内に帰港した調査船上で公開した。ウナギの産卵場所は謎だったが、産卵直後の卵がマリアナ諸島近くに多数あり、長年の議論に終止符を打つ貴重な発見となった。
海洋研究開発機構の調査船「白鳳丸」が6月28~29日、マリアナ諸島付近の西マリアナ海嶺南部の水深150~180メートルの海中で147個を採取した。目の細かい網ですくった。
卵1個は直径約1.5ミリメートル。遺伝子を調べ、日本の近海を回遊するニホンウナギと断定した。研究チームは「海底山脈があり、海水の塩分濃度が急に変わる場所を選んでウナギは卵を産む」と結論づけた。マリアナ諸島付近は条件を満たす。
東大などは2009年、マリアナ諸島付近で天然ウナギの卵31個を世界で初めて採取。09年の採取場所から推定し、今度は大量の卵を見つけた。
多数の卵はそれぞれ産卵後の経過時間が異なり、産卵の様子にも迫れた。親ウナギは複数の集団を作り、新月の2~4日前に毎晩産卵することが分かったという。
研究チームは「今回の調査でウナギの産卵場所を絞り込めた。産卵やふ化の条件が分かり、卵から成魚までを人工的に育てる完全養殖の実現に一歩近づいた」と話す。
09年に初めて採取したときは遺伝子解析のためにすべての卵を船上ですり潰してしまった。標本が公開されるのは世界で初めてという。
研究チームは来年、潜水艇「しんかい6500」を使って世界で初めてウナギの産卵シーンを撮ることを目指す。
食卓に上るウナギの99%は養殖だが、現在はシラスウナギという稚魚を日本近海で捕まえて育てている。完全養殖への期待は大きい。ただ稚魚を育てるのは難しく、今後は養殖技術の向上が課題となる。
21日はウナギを食べる風習がある土用の丑(うし)の日。気候変動の影響などで稚魚が不漁になる年が増え、ウナギの価格は高止まり傾向にある。
ウナギの産卵には謎が多い。欧米でも研究が進んでいるが、ニホンウナギ以外で天然ウナギの卵を採取した例はない。
10日会見した東京大学大気海洋研究所の塚本勝巳教授は「ウナギは落語など日本文化にも根付いた生き物。研究を食資源の保全や管理に役立てたい」と話した。