バスケは第3の人気プロスポーツに育つか
編集委員 北川和徳
分裂していたバスケットボール男子の日本リーグ(JBL、8チーム)とbjリーグ(13チーム)が2013年をメドに統合し、新たなプロリーグを創設するという。国内の競技者登録約62万人の球技でトップチームが結集したプロリーグが誕生すれば、野球、サッカーに続く日本で第3の人気プロスポーツに育つ可能性もある。だが、実現へのハードルは高い。企業依存から地域密着へと転換を図る日本のスポーツ界の「生みの苦しみ」を象徴している。
「この雰囲気の舞台に立たせたい」
23日、東京・有明コロシアムで開催された今季のbjリーグファイナルを制して新王者となった浜松・東三河フェニックスの中村和雄ヘッドコーチ(HC)は笑顔で3年前の思い出を披露した。「テレビ中継の解説でbjファイナルの会場を訪れ、その時からこの雰囲気の舞台に選手たちを立たせてやりたいと思っていたんだ」
浜松は3シーズン前までオーエスジーフェニックスとして企業チーム主体のJBLに所属。だが、地域密着型のプロチームを目指して08-09シーズンからbjリーグに参加した。
にぎやかなbjの試合会場
JBLに比べてbjリーグの試合会場はにぎやかだ。特に上位チームが駒を進めて優勝を争う「ファイナル」は例年、観客席1万人の有明コロシアムで開催し、満員とはいかないまでも8割程度は埋まる。場内は米プロバスケットのNBAを目指して光と音の演出で盛り上げる。女子の強豪・共同石油や日本代表も率いたことがある国内屈指のバスケットボール指導者である中村HCの目にも、プロリーグの雰囲気はあこがれの舞台と映ったようだ。
bjは05年にスタート
bjリーグは「バスケ界をプロ化する」と明言しながら、企業に依存する体質から抜け出そうとしない日本バスケットボール協会の態度に業を煮やした新潟アルビレックス、埼玉ブロンコスの両クラブチームが旧来のリーグを飛び出して設立、05年にスタートした。日本協会は当初、徹底して無視し、bjの選手の登録を認めないばかりか、協会傘下にあるチーム・選手とbjのチーム・選手との私的な接触さえ禁じた時期もあった。
それがリーグ統合へと方針転換した最大の理由は、男子日本代表の弱体化にある。05年まではアジアで5、6番手の地位を保っていたが、07年の日本開催のアジア選手権で8位、09年は同10位。もともとプロ化に踏み切れなかったのは、日本で開催した06年世界選手権を控えて代表選手の大半を抱える企業チームにそっぽを向かれるわけにいかなかったため。だが、ここまで成績が落ちたら、失うものは何もないというわけだ。
分社化の方針、風向き変わる
今春、「2013年をメドに分裂した両リーグのチームを結集し、次世代型トップリーグを創設する」と発表した日本協会は、同時に「JBLの企業チームは地域化・分社化を原則とする」との方針も打ち出した。チームに地域名を入れ、独立採算の本社とは別組織にする。企業依存からの脱皮の宣言だった。ところが、ここに来て風向きが変わってきた。
「企業チームは分社化しなくてもいい。リーグ戦の興行権を買い取って、外部の会社に委託する形でも構わない」(JBLの伊藤善文理事長)。JBL8チームのうち、企業チームはアイシン、トヨタ自動車、パナソニック、三菱電機、東芝、日立の6チーム。うちパナソニック、三菱電機、東芝は興行権をすでに持って外部委託しており、ほとんど今の体制を変えることなく新リーグに参加できるという。
早くも腰が引ける?
企業側はプロ化に難色を示しているとされる。しかし、今のところ協会やJBLの幹部が、各社経営陣に直接プロ化を打診した様子はない。チーム関係者を通じて思わしくない反応が戻ってきた段階で、早くも腰が引けてしまった感じだ。
日本体育協会の次期会長に内定しているトヨタの張富士夫会長に、bjリーグが発足した05年ごろ、尋ねる機会があった。「サッカーでは、トヨタはチームを独立させた上で支援は続け、Jリーグ創設に協力した。バスケットではそうはできないのですか」。こんな返事だった。「日本のバスケット界の総意として、プロ化するので協力して下さいと、正式に要請されたことがない。これでは会社としては是非の検討も始まらない」
地域での体制作り急務
男子バスケットボールの企業チーム運営に必要な資金は年間4~5億円という。一方、現在の構想では新リーグに参加するチームの経営規模は2億5千万~5億円。JBLのチームを持つのはいずれも日本を代表する大メーカーだ。問題は資金面の負担ではなく、分社化に伴う煩雑な事務手続きや組織作りだろう。
日本協会の関係者は「今、協会やJBLがすべきことは、企業に代わるチームの受け皿を地域に作り、企業には出資者やスポンサーとして引き続いての支援をお願いすることだ」と話す。チームを支える地域の体制作りは、リーグや協会がチーム関係者と協力して進めるべきなのは言うまでもない。
バスケットの現在の競技者登録は約62万人。サッカーの約89万人には及ばないが、競技にこだわらずに楽しむ愛好家を加えれば、すそ野はこの数倍にもなる。バスケット漫画「スラムダンク」の総発行部数は1億部を超えた。潜在的なファンの存在を考えれば、日本のバスケットは大きなビジネスに成長する可能性を秘める。国内第3のプロスポーツに育てられるのか。バスケット界の強い覚悟と決意が求められている。