大阪府近郊、住宅地として人気の中核市T市に住むAさん家族が、ある建売物件の購入を検討していた。が、現場見学会で手に入れた敷地図面で、気になることを見つけた。その図面には、敷地の上に建物の平面図が描かれていたが、上から斜め下に建物を切るように線が走っている。その線の左側に「都市計画道路予定地内○○-○○○(番号) ○○通り線 幅員16m」とあり、右側に「都市計画道路予定地外」となっている。
普段、図面を見慣れているわけでもないAさんでも、どうみてもこれは、購入しようとしている宅地の左半分ほどが、道路予定地ということは分かった。早速、不動産会社の営業担当者に聞いてみた。
「ここは将来、道路になるのですか」
「はい。都市計画道路予定地に含まれています」
「じゃ、ずっとは住み続けられないということですか?」
「計画そのものは昭和33年に決定しています。でも、実際にその道路がいつ建設されるか、今のところ、分かりません」
「はっ?」
つまり行政が道路として計画した土地が販売され、その上に住宅が建築され売り物件となっている。多くの人にとって住宅は、一生のうちに一度しか購入する機会のない資産だ。子どもたちにも引き継がせたいと考えている人もいるだろう。その土地が、将来立ち退きを求められ、道路になるかもしれない。これはいったいどういうことなのか。
そもそも「都市計画道路」って何だろう。「都市計画道路」とは、都市計画法に基づいて計画された道路だ。都市計画法は、道路だけではなく公園等の施設の他、建物の用途、規模などの規制を盛り込んだ、まちづくりの根幹を担う重要な法律である。その計画そのものは、多くは昭和30年代40年代に策定され、これから長年にわたって少しずつ実現していきますよ、といったまちづくりのマスタープランだ。
先程の道路の例でいうと、計画決定されたのが昭和33年。まさにモータリゼーション(最近、聞かれない言葉ですが、簡単に言うと家庭でクルマを持てる社会)が進展し、将来にわたって、あちこちひろ~い道路が必要になると、誰もが予想した時代だった。
ではこれから先はどうだろう。多くの都市で人口は減少し、物流も減る。50年以上前に計画されたまちづくりの理想が、そのまま生きているといえるだろうか。計画道路そのものの必要性が失われているものも多いと言える。その辺はようやく行政の方でも、都市計画の見直しに向けた工程を示している。
例えば、大阪府豊中市では、大阪府の「都市計画(道路)見直しの基本方針」に基づき、直近では平成26年に都市計画変更の決定を行っている。「都市計画道路に求められる機能、交通の円滑化、防災機能、環境やまちづくりに寄与する機能などの必要性や事業の実現性も考慮して、必要性が低下している都市計画道路の見直しを行っています」(大阪府豊中市 都市計画課)
実現の可能性という点では、今の時点で財政的な裏付けがあるものではない。20年後、さあ、道路をつくるぞ、となった場合、お金があるのかないのか。新たな公共投資の予算は、近年大きく削減されているのが現状であり、戦後、整備されてきた都市基盤の補修、更新の費用もますます増大してきている。計画通りの道をつくるためには、どこの自治体でも財政の問題が大きい。
都市計画道路予定地を宅地として販売することは、もちろん、違法ではない。が、実際に、道路予定地とされた土地に建物を建築するためには、いろんな制限がかけられている。「2階建てまで(自治体によっては3階建てまで可能)」「地下はつくれない」など、建物の構造にも規制がある。宅地としてこの土地を購入し、注文建築で家を建てる場合は、「建築確認申請」とは別に、「都市計画法53条の許可申請」が必要になるため注意が必要だ。ちなみに、建物付きの建売住宅として販売されている場合は、そこはクリアされている。
ただ、道路予定地内の土地には税制上のメリットもある。固定資産税・都市計画税の軽減措置を取っている自治体も多い。将来の相続にあたって、相続税評価額が軽減される場合もある。
が、税制上のメリットがあるということは、資産価値をそれだけ低く見積もっているということだ。つまり、やはりなんといっても、将来計画から事業決定に移行し、道路建設が始まるかもしれない。廃止決定しない限り、そのリスクはあるということだ。
「計画の見直し議論をしたとしても、あくまで計画の必要性があると判断されれば、将来的には事業化されます」(大阪府豊中市都市計画課)
もちろん、計画が事業化され道路建設が進んだ場合、不動産が没収されてしまうことはない。行政の方で買い取ってくれたり、代替地を用意してくれたりする。しかし例えば、宅地の一部が道路予定地で、そこだけ買い取ってもらっても、同じ家が建たない場合どうなるのだろう。買収が一部なのか宅地全体なのか、これもケースバイケースになるという。
話を戻そう。上述のAさんのような場合、どうすればいいのか。まず、現場周辺を歩いて見てみよう。その土地の延長線上に新しい大きな道路ができていないか。すでに道路用地として確保されている空地がないか、など。それを確認し、市役所へ行く。都市計画課を訪ね、都市計画図を見せてもらう。そこには都市計画道路のすべてが記載されている。で、該当する道路がどうなっているのか聞いてみよう。廃止の話が出てきているなら、教えてくれるはずだ。
大阪府では未着工道路の95%が、計画決定から30年以上経つという統計もある。実現性が不明確なまま、建築の規制が残ったままでは、消費者にとっても行政にとってもいいことはない。人口の減少時代に、限られた財源をどのように公共投資に向けていけばいいのか、国土の将来のあり方についての議論も盛んだとはいえ計画の見直しがはじまったとしても、廃止決定されない限り、計画は計画のままだ。残念ながら不動産販売の現場では、そのような土地を販売するとき、明確な答えは持ち合わせていないのが現実。消費者にできることは、自分の目で確かめて役所へ行き、話を聞き判断することだ。