「常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応に関する専門家会議」が始動
7月7日、文科省庁舎にて標記の会議が開催されました。既にいくつかの報道がなされています。
- 新常用漢字 学校対応検討へ(NHK)
- 常用漢字追加で文科省会議 中高での扱い、秋に結論(共同通信)
- 鬱・彙、書き方教えますか?専門家会議発足(読売新聞)
- 漢字の「鬱」や「彙」、どう教える? 文科省、教科書や入試の扱い検討(日本経済新聞)
この会議が立ち上げられた理由は、改定常用漢字表(PDF)にある次の文言に明らかです。
(前略)改定常用漢字表の趣旨を学校教育においてどのように具体化するかについては,これまでどおり教育上の適切な措置にゆだねる。(答申 p.(16))
つまり、学校教育への適用方法についてここでは言及しないので別途文科省で審議してね、ということ。そこで「適切な措置」を講ずるために立ち上げられたのが、この「常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応に関する専門家会議」というわけです。
メンバーはこのページをご参照ください。漢字小委員会から金武(前日本新聞協会)、杉戸(前国立国語研究所)、高木(横浜国立大学)、武元(東京書籍)の各氏が入り(このうち高木氏は副主査)、そこに全国の小・中・高の教師と校長、それに教育学者を加えた陣容です。
この会議での検討事項については「資料3 検討事項(案)」にまとめられていますが(小熊さんが公開してくれないかな…)、大ざっぱにまとめると、次のようになるでしょう。
- 中学(読み)、高校(読み・書き)での対応
- 筆写(手書き字形)をどう教えるか
- 高校・大学入試、そして教科書への対応
資料3では学年別配当表の改定も盛り込まれています。本当にこれが改定されるなら一大事ですが、この資料にあるように、この会議自体が冬に予定されている改定常用漢字表の制定までに結論を出すことを至上命題としているため、今回は配当表の改定までは踏み込まず、これは次回の学習指導要領の改定以降に先送りする模様です。
具体的に会議で挙がった声については、先に挙げた報道をご参照ください。個人的には「今回の改定は大幅なものだから、早く結論を出さないと現場が混乱する」という声が印象に残りました。たしかにねえ……。
さて、この会議で最も大きな収穫だったのは「参考資料8 学校教育における音訓の取扱いについて」です。これは1991年に作成されたもので、本当に画期的な資料。
学習指導要領では、中学・高校で学ぶ漢字について、以下のように定めています。
- (第3学年)第2学年までに学習した常用漢字に加え,その他の常用漢字の大体を読むこと。(中学校学習指導要領 第1節 国語)
- 常用漢字の読みに慣れ,主な常用漢字が書けるようになること。(高等学校学習指導要領(平成11年3月告示、14年5月、15年4月、15年12月一部改正) 普通教育 第1節 国語 言語事項)
ここでは「大体」「主な」という曖昧な表現が使われています。この文言自体はとても有名なものですが、従来これが具体的にどんな漢字を指すのか不明でした。例えば漢字小委員会でもこの曖昧な表現についても触れられていましたが、具体的な内容については文化庁も含め識者である委員会の参加者の誰もが説明できませんでした。
ところが、この「参考資料8 学校教育における音訓の取扱いについて」でその詳細が明らかになったのです。その内容について説明したいところですが、すみません、明日は早いので時間ができたらまたゆっくりと。
一言だけ書くと、ここでは音訓を小・中・高のそれぞれに配当するという考え方になっています。つまり同じ字種であっても小学校に配当された訓と、高校に配当された音は区別されます。だからこそ「小学校で○字」というような表現ができず、「大体」「主な」という曖昧なものになってしまったわけです。
しかし、文科省はなぜこの資料をこれまで積極的に公開しなかったのでしょう? 学校関係者に聞いても、この資料の存在は全くといってよいほど知られていないとのこと。資料公開を惜しんで、かえって混乱を招いているのではという気もします。