小泉純一郎元首相は12月4日、講演で次のように語った。

 「首相当時、2004年チリでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で胡錦濤国家主席との2国間会談を巡り中国側から『来年、靖国神社を参拝しないなら受ける』との打診があった」

 「その際、『必ず参拝する』と突っぱねたところ、おじゃんになるかと思ったら『会談前後に参拝を明言するのはやめて』となった。結局、会談は実現したが、外交とはそういうものだ」

外交は血を流さない戦争である

日中首脳会談実施、衝突事件以降初の公式会談

APECで握手する菅直人首相と胡錦濤国家主席〔AFPBB News

 11月13日夕刻、横浜で行われたAPECでの菅直人首相と胡錦濤国家主席による日中首脳会談とは対照的だ。この会談は日本側が「やってほしい」と頼み込み、中国側が「仕方がない」と応じたとされる。

 外交は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す外交と言われる。

 首脳会談一つとっても国益をかけての熾烈な戦いである。戦いであるがゆえに足元を見透かされた方が負ける。外交交渉は願望が強いことを見せた方が弱い立場に置かれるものだ。

 日本側が「会談をやってほしい」と頼み込んだ時点で勝負はついていたと言える。

 9月の尖閣沖漁船衝突事件以降、菅政権の拙劣な対応により、日本は血を流さない戦争に全面敗北した。日中首脳会談の菅首相は、さながら降伏調印式の全権代表のようだった。

 実現した会談たるや通訳を入れて約20分間。ほとんど内容もなく挨拶程度に終始し、何ら見るべき成果はなかった。会談を持つこと自体が目的化した茶番劇であり、むしろ日本の外交戦略のなさを白日の下にさらす結果となった。

 さらに悪いことには、菅首相は挨拶程度のコメントさえメモを読むのに終始し、対峙する胡錦濤と目を合わせることもなく、蛇に睨まれたカエルよろしく、格の違いを露呈した。