2016.11.30

「住宅過剰社会」の末路 〜不動産業界の不都合な真実を明かす

15年後には空き家2100万戸!

最近、なんだか自分の「まち」が住みにくくなったと感じることはないだろうか? その原因は、人口が減少し、空き家が増加するなかでなお過剰につくられる住宅そのものにあるのかもしれない――。

そんな不動産業界の「不都合な真実」を明かした一冊『老いる家 崩れる街』が話題を呼んでいる。発売1週間を待たずしてたちまち重版が決まった本作の著者・野澤千絵氏が、タワーマンション・戸建て住宅が、無計画かつ無秩序に建ち続ける日本社会の末路を憂う。

東京五輪に沸く湾岸エリアの「リスク」

「湾岸エリアはタワーマンションを建て過ぎですよ……。これからさらに建てられたら、自分たちの住宅の資産価値が低下してしまう」

「自治体は、今建っているマンションの資産価値を守ろうという意識はないのか……」

これは、東京湾岸エリアのタワーマンション所有者から、実際に聞かれた嘆きである。

湾岸エリアは、右を見ても左を見てもタワーマンションというまちへと急激に変貌している。2020年東京オリンピックの選手村や競技会場の整備計画に豊洲新市場への移転問題なども重なって、注目度は一気に上がっている。

中央区・江東区の湾岸エリアの人口は、2014年末で約8.6万人だが、東京オリンピック後には約14.7万人、将来的には約19.0万人になると予測されており、いわば、東京23区が24区になるといっても過言ではないような人口増加が見込まれている(既に検討されている開発事業等をもとに算出した東京都のデータ(注1)による)。

湾岸エリアは、タワーマンションが林立し、人口が過密化している割には、生活インフラが貧弱な側面があり、何をするにも人であふれかえる過密な住環境だ。

個人的には、住宅単体としては現時点で住みやすいかもしれないが、次世代も安心して暮らせる魅力的な「まち」として引き継げるのか? 将来もそれなりの資産価値を維持できるのか? と、疑問に感じるエリアもある。

特に、分譲のタワーマンションについては、火災・災害時のリスク、多様な所得階層・多国籍の所有者同士の合意形成、高額な維持管理費、大規模修繕や将来の老朽化対応など、一般的な分譲マンションに比べて様々なリスクを抱えた不安定な仕組みで成り立っていることから、将来、「不良ストック化」するリスクがあると、様々な専門家から警鐘が鳴らされているのだ。

こうした問題は、住宅・建設業界も国も十分に認識しているはずである。しかし、見て見ぬふりを決め込んでいるのか、所有者に多大なリスクを負わせ、根本的な解決方策を講じることなく、今もタワーマンションはつくり続けられている。

タワーマンション林立のカラクリ

さて、都市計画や建築の規制によれば、高さが200m近いタワーマンションが建てられない区域ではあるにもかかわらず、湾岸エリアではなぜそれが可能になっているのだろうか。

それは、国や自治体が、(経済対策という意味合いもあるが)「都心居住の推進」や「市街地の再開発」のためということで、特定の区域だけ容積率等の都市計画や建築の規制を大幅に緩和している場合が多いからである。

自治体の中には、タワーマンションの建設を伴う市街地再開発事業に対して、容積率等の大幅な規制緩和に加えて、1地区で数十億円もの補助金を出している場合もある。そして、これら補助金の半分は、私たち国民の税金から出されているのだから、看過しがたい。

この背景には、かつてオフィス開発ブームや地価高騰で都心部の夜間人口が極端に減少するという都市問題が深刻化し、「都心居住の推進」が自治体の悲願だったことがある。

特に、湾岸エリアは、倉庫や工場跡地、埋立地などの低・未利用地が多く、地権者の多くが企業等で、既成市街地に比べて比較的、再開発に取り組みやすいという側面もある。

しかし、問題なのは、「都心居住の推進」として必要な住戸タイプや住戸数の将来目標量を設定したうえで、その目標量をエリアごとに割り当て、都市計画規制の緩和を行っているというわけではないことにある。

つまり、個々のプロジェクトごとに、国や自治体が容積率等の規制緩和を行うだけで、都市計画や住宅政策として、全体として積み上がっていく住宅総量をコントロールする仕組みがないまま、タワーマンションがつくり続けられているのだ。