森亮氏が2002年に起業したオークニーは、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を専門とし、クラウド型地図連携ツール「Orkney GeoGraph」などを提供する企業だ。創業当初は成長より安定を志向した受託開発中心のビジネスを展開していたが、ある時期から成長路線へと大きく舵を切り、第1回で紹介したように米セールスフォース・ドットコムなどからの出資も得た。現在50歳となる同社代表取締役の森氏が同社をベンチャー企業として成長させる道を選んだ理由などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


最初に起業した理由を教えてください。

オークニー代表取締役の森亮氏
オークニー代表取締役の森亮氏

 そもそも最初は起業しようと思って起業したわけではないんです。以前勤めていた外資系企業が日本オフィスを閉じて失職した。次のテーマ探しとして会社でも始めようかと、準備なしで始めました。

 元々地理情報システム(GIS)の世界に身を置いており、15年ほどの経験もあった。その世界でやりきっていないこともたくさんあったので、それを生かしていこうと分野は決めたんですが、どうやって食べていくか。何も準備しないで始めたので困りましたよね。

オフィスも立派で順風満帆な感じもしますが。

 起業してから、会社自体は資金繰りに窮したりとか、お客さんがいなくて途方にくれたりとか、そういうことがないように細心の注意を心がけてきた。成長よりも安定で来たのが最初の10年です。

 食わなければならなかったから、最初はコンサルティングという名のレポートを書く受託や、営業の支援とか、これを納品したら月額いくらもらえるとか、確実にお金がもらえるものをやっていました。ビジネスモデルなんかないですよ。お金が確実にもらえることからやっていったので、なし崩し的に受託開発が現実的な選択肢になった。

 ただ、下請けとして大手の下に入るのではなく、誰もやっていないところを狙い、高い技術力を会社としてつけて、他社よりも結構割高でも仕事をもらえるようなポジショニングを心がけた。会社のブランディングには気を付けてきた。受託開発という構造的に広がらないモデルでありながら、収益的には安定していた。意識してそうしてきた。それが2010年くらいまでです。

安定していれば、ファミリービジネスとして続けていくのも悪くないとは思いますが、なぜ安定から成長へと舵を切ったのでしょうか。

 上手に“逃げきれれば”おいしいですよね。なぜ変えたのか。ファミリービジネスで自分の人生を終えたくないという理由もありますが、現実的な問題として受託開発中心のやり方はトレンドからすると、ぼちぼち社会の構造的には賞味期限が切れているのが見えたんですね。

 「1個1個高い技術力でがっちり作ってくれ」というありがたいお客様がいっぱいいらっしゃるが、ちょっと引いて見たときに、このモデルが長続きする条件はもうそろそろおしまいだよね、というのが分かって悩み始めたんですよね。