13.5mでも「2級河川」 和歌山に日本一短い川
自然の宝庫、植物256種を確認
大阪・天王寺駅からJRで南へ。本州最南端の串本駅で鈍行に乗り換え、ほどなく無人の下里駅に着いた。予約のタクシーで5分ほど。「ここですよ」。運転手さんが言う。
下車すると足下に川。何の変哲も無いように思えるが、これが日本最短の川なのか。「違うよ、そっちは粉白(このしろ)川。こっちこっち」。運転手さんが指さす方を見ると、いかにも頼りない水路のような流れが。あまりに細くて短いので見落としてしまった。
川べりに下りてみた。全長13.5メートル。民家と畑の脇にある石組みの下から湧き出た水は石垣沿いに流れ、あっという間に本流の粉白川へと流れ込む。川幅は最大でも1メートル足らず、水深は20センチくらいだろうか。
地元の那智勝浦町の粉白区長、福田和由さんに聞いた。「飲むとおいしいし、野菜を洗う人もいる。昨夏の台風で断水が続いた時は本当に重宝したよ」。地下から水が湧き出る際、ぶつぶつと気泡がたつ様子から命名されたという。水は清らかで通年セ氏で15~16度、夏は冷たく冬は温かい。地域に密着した川なのだ。
正確に言うとぶつぶつ川は「日本で最も短い法指定河川」。国内の川は管理者が国の1級河川、都道府県の2級河川、市町村の準用河川に分かれるが、最長の信濃川以下、日本で数あるこれらの川のうち、最も短いのがぶつぶつ川なのだ。ちなみに、最も長い2級河川、日高川も同じ和歌山県を流れている。
ぶつぶつ川が和歌山県から2級河川の指定を受けたのは2008年。県河川課の松本耕次さんによると「周辺は自然環境が豊かなので、粉白川と一体で県が環境保全に努めるべきだと判断しました」とのこと。
同年、京都大学紀伊大島実験所が現地の植物を調査した。これだけの狭い場所で256種が確認され、絶滅危惧種も見つかったという。地域で大切にされてきたからこそ、多くの貴重な種が保存されてきたのだろう。細く短い流れが、実に誇らしげに見えてきた。
ところで、08年にぶつぶつ川が法指定を受けるまでは、日本最短はどの川だったのか。調べると、2級河川としては北海道島牧村のホンベツ川が全長30メートルで最短だったという。現在は日本で2番目に短い。地元では悔しい思いをしているのではないか。島牧村役場に電話した。
島牧村は札幌と函館のほぼ中間にあり、人口1800人足らず。藤沢克村長に聞くと「いや実はぶつぶつ川のことを聞くまで、村では誰もホンベツ川が日本最短と知らなくて」。何ともゆるい答えが返ってきた。「遠い和歌山の町とご縁ができた。機会があれば、短い川のある自治体同士で交流してみたいですね」とも。どんな川でも地域にとっては大切な存在。それが「日本一」や「2番目」となれば、なおさらだ。今後は「最短の川」をアピールした町おこしや村おこしなども期待したいところだ。
(大阪・文化担当 田村広済)
[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年12月12日付]