「SE(システムエンジニア)や情報システム部門の担当者は言われたことを真面目にこなすが、自分から提案したり変えようとはしない」。経営者あるいは営業や生産など事業部門の担当者は、SEや情報システム部門をしばしばこう評する。

 冒頭の一文を読み、むっとして「それは違う。変えたくても変えられない現状がある」と言いたくなった方はぜひ本稿を読んでいただきたい。うなずいて「その通り。自分から何かを提案しても疲れるだけ。粛々とやっていくのが一番」とつぶやいた人は失礼ながら読み進まなくて結構である。

 「変えたくても変えられない現状」には自分の周囲の状況とその中にいる自分が含まれる。周囲とは顧客や上司、組織、契約、技術などがある。

 顧客の横暴な担当者に辟易しているが、顧客は顧客であって「あの担当者を変えて下さい」とはなかなか言えない。頑迷な上司の下で仕事がやりにくくて仕方ないが、「あなたの下では私の力を発揮できないから来年異動させてほしい」とはなかなか言えない。

 組織同士が協力すれば片付く案件を、一つの組織内で何とかしようともがいている。組織に壁があるからだが、「壁を作るのは止めよう」と言おうにも壁があるから伝わりそうにない。

 前任者が締結した契約がおかしいため、理不尽な作業を余儀なくされている。妥当な条件の契約に修正してほしいが、契約相手に言っても上司に言っても「決まったことだ」とはねつけられる。

 この技術をなぜ選んだのか理解に苦しむ。対象とする業務アプリケーションの特性をみても、コスト面でも、技術者を集めることを考えても、別の技術に切り替えるべきだ。そう進言したところ「お偉いさんがその技術をお気に入りなんだよ」と言われた。

 あちこちで見られる「変えたくても変えられない」「周囲」の一例である。では渦中にいる自分自身はどうか。

 現状を変えるために交渉や問題解決の力を身に付けたい、と思っているが機会がない。とにかく目前の仕事に追われており、考える余裕すらない。つまり自分を「変えたくても変えられない」。

 しかし周囲も自分も変えられないとなると、「言われたことを真面目にこなすが自分から提案したり変えようとはしない」という冒頭の評通りになってしまう。これでは面白くないし健康に悪い。