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検察審査会議決の不透明・補助弁護士はワケあり元検察幹部

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
不起訴不当の議決を受けて記者会見する「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」

陸山会事件の捜査報告書に虚偽の記載をした、東京地検特捜部の田代政弘元検事や上司の佐久間達哉元部長らを不起訴処分としたのはおかしいとして、市民団体が検察審査会に申し立てていた件で、東京第1検察審査会は4月19日付で、田代元検事に関しては不起訴不当、佐久間元部長ら上司については不起訴相当とする議決をした。検察は再捜査を行うことになるが、その後で再び不起訴処分とするのは目に見えている。この議決が出る過程には、自身が不祥事で処分を受けた元検察幹部が、審査補助員として関与しており、制度の不透明さも改めて問題になっている。

「検察はごまかしている」

検察の主張は、検察審査会には受け入れられなかった
検察の主張は、検察審査会には受け入れられなかった

議決書の中には、検察に対して厳しい言葉が並んでいる。

田代報告書に関しては、次のように認定した。

〈田代報告書の内容が事実に反することは、A(小沢一郎氏)の公判における裁判の決定等でも指摘されており、このような指摘は一般常識に照らしても納得できる。

まだ、田代報告書の実際の弊害として、田代報告書の提出を受けた東京第五検察審査会は、田代報告書を基に、B(石川知裕氏)がAへの報告・相談等を認める旨の供述を維持した再捜査の供述の信用性を認めるなど、公文書の内容に対する公共的信用を害している〉

〈読み手に誤解をさせるおそれを払拭できない〉

虚偽の内容を書く故意を否定し、事実と異なる記載になったのは、「記憶の混同」とした田代元検事の弁明やそれを是認した検察の判断を〈簡単に記憶の混同を起こすとは考えられない〉と一蹴。さらにこうも書いている。

〈何らかの意図があってこのような報告書を作成したのではないかと推察される〉

〈故意がなかったとする不起訴裁定書の理由には十分納得がいかず、むしろ捜査が不十分であるか、殊更不起訴にするために故意がないとしているとさえ見られる〉

不起訴理由を説明した検察官に対しても、検察審査会の委員は率直な疑問をぶつけたようだ。次のような記載がある。

〈田代は40才台半ばのベテラン検事であり、同一の被疑事実で同一の被疑者とはいうものの、2日前と約3か月前の取調べの記憶を混同することは通常考えがたい。この点、検察審査会において説明した検察官は、審査員からの「駆け出しの検事ならいざ知らず、40才台のベテランの検事である田代が、簡単に記憶の混同を起こすとか、勘違いをすることが有り得るのか」という趣旨の質問を受け、「検事も人の子ですから、間違いはあると思う」旨答えているが、それでは答えになっておらず、むしろ、答えに窮して、表現は悪いが、誤魔化していると評さざるをえない。〉

まことに適切な質問であり評価である、と思える。

ここまで、検察の判断の問題を理解していれば、当然「起訴相当」の議決が出ていてもおかしくない。なのに、議決書は結論においてにわかにトーンダウン。

〈以上に指摘した点を踏まえて、本件についての不起訴処分は、不当であると判断し、より謙虚に、更なる捜査を遂げるべきであると考える〉

今後の対応を、検察に預けてしまったのである。

検審はブラックボックスだ

それだけではない。

佐久間元部長らに関しては、あっさりと不起訴を肯定してしまった。

〈供述に不自然な点はあるものの、虚偽公文書作成・同行使罪の成立を認めるような証拠は見当たらないし、検察庁の捜査差においても、関係人に対する捜査は尽くされている〉

検察が組織を挙げて、彼らの不起訴のための証拠作りをしたのだろうから、簡単に「成立を認めるような証拠」があるとは思えない。

しかし、田代元検事に関しては、検察の「誤魔化し」を見抜いた検審が、佐久間元部長らに関しては、その言い分をすんなり信頼してしまったのだろう。

これについて、検審への申し立てを行った「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」の八木啓代代表は、次のように語る。

「検察はごまかしていると言い、『記憶の混同』についての田代供述は信用できないと言いながら、佐久間元部長らは関与していないという田代供述を採用しているなど、おかしい。非常に検察に甘い議決だ」

「起訴相当」と「不起訴不当」では、その後の展開がまったく違う。「起訴相当」であれば、検察が再捜査を行い、再度不起訴にしても、もう一度検察審査会が起訴議決をすれば強制起訴となる。「不起訴不当」であれば、形だけ再捜査を行い、再度不起訴にすればそれで終わり。今回の一件について、検察関係者を免罪する議決だ。

記者会見する八木代表
記者会見する八木代表

こうした議決となったことについて八木代表は、以下のように指摘する。

「こんな議決のために9か月もかかっているのは変だ。その間に、委員の交代が2度あった。起訴議決を出しそうな雰囲気になると引き延ばしていたのではないか。そういうことを調べたくても、検察審査会はブラックボックスで、委員に対して非常に大きな影響を与える補助弁護士がどのように選ばれたのか、どのような助言をしたのかも分からない」

元検察幹部が審査補助員に

まさに、その補助弁護士が、このような「検察に甘い」結論を出すキーパーソンだったのかもしれない。

今回、審査補助員として関わった澤新弁護士は、元検察幹部である。新聞各紙の過去記事からその足跡を追ってみると…

1989.3.28 横浜地検総務部長(その前は、東京高検検事兼東京地検検事)

1991.4.1   東京高検検事

1991.9.17 水戸地検次席検事

1993.7.2 東京高検公安部長

1993.12.1 福岡地検次席検事

1995.7.31 秋田地検検事正兼仙台高検秋田支部長

1996.10.1 最高検検事

1997.6.4  新潟地検検事正

1998.6.10 最高検検事

そして、翌年3月に弁護士登録をしている。

法律問題には素人の一般市民が集まって判断する検察審査会。そこに、唯一の専門家として助言をする補助弁護士の発言が、どれほどの重みと影響力を持つかは、想像に難くない。

検察組織全体の問題にも発展しかねない今回の審査に、元検察幹部がどういう「助言」をしたのだろうか…。

補助弁護士自身が、不祥事で退職

それだけでも様々な疑問が生じるが、問題はこれだけではない。実は、澤弁護士自身が、不祥事で処分を受け、検事を辞職をしているのだ。

原因となったのは、相続税の申告漏れを指摘した税務署に対し、「検事正」の肩書きで抗議文を送るなどした問題。1998年6月18日付の読売新聞が、以下のように報じている。

〈関係者によると、沢検事が秋田地検検事正だった1995年12月、妻の父親である元検事長が死亡し、同検事は、遺産を相続した妻と義母に代わって、東京・玉川税務署に相続税の申告を行った。その後の税務調査で割引債など2億数千万円の申告漏れを指摘されたが、同検事側は「割引債などは見たこともない」などと否認し、同税務署との間で争いとなった。

沢検事は昨年6月、新潟地検検事正に異動。今年初め、同地検の封筒を使い、「新潟地検検事正」名で抗議文を送付したが、中には「検察庁法上、有効な書面」という記載もあったという。〉

その後、「沢検事」は修正申告に応じたが、法務・検察当局は、この抗議文が「(国税当局への)圧力とも受け取られかねないものだった」として、98年6月10日付で最高検に異動させた。

法務省は、「検事正名で抗議をしたことで、国民から見てその地位を不当に使ったのではないかとの疑いが生じる恐れがあり、不適切な行為」として、同月19日付で「沢検事」を国家公務員法に基づく戒告処分とした。「沢検事」は同日付で辞職。6月19日付の読売新聞には、本人のコメントが掲載されている。

〈沢検事は同省に対し、「検察全体の名誉にかかわることで、申し訳なかった」と話している。〉

「検察全体の名誉にかかわる」不祥事で処分を受け、検察を辞職した人が、今回のように、まさに検察全体の信用にかかわる事件で、検審の補助弁護士を努め、本当に公正な立場から、もっぱら法律的な助言のみを行った、と信じ切ることができるだろうか。

様々な疑問が湧いてくる。だが、検察審査会の議事録は、補助弁護士の助言内容すら公開されない。

真相解明が必要だ

それにしても、そもそも、なぜ、このように疑問を持たれかねない人が補助弁護士に就任したのか…。

八木さんは言う。

「補助弁護士は、弁護士会の推薦ということになっているようです。なぜ、どのような経緯で彼が補助弁護士となったのか、日弁連に質問書を出すつもりです」

様々な疑惑や疑念を抱かれるのでは、検察審査会の制度まで、国民の信頼を失ってしまう。

少なくとも、補助弁護士の助言の内容、検察官の説明と審査員のやりとりくらいは、議事録を明らかにすべきだ。

また、今回の議決書の中でも明らかなように、この虚偽捜査報告書問題についての検察の主張は、「ごまかし」と言われて仕方のないものだった。このまま幕引きをしても、検察に対する信頼が回復することはないだろう。今回の八木さんたちの検審への申し立ての目的は、田代元検事らに対する刑事罰ではなく、きちんとした真相解明だった。

強制起訴となり、指定弁護士が検察官役となって法廷で真相解明を行う道が閉ざされた以上、法務大臣が主導して、第三者による検証委員会を立ち上げてもらいたい。谷垣法相の検察改革に対する本気度が問われる。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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