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歌は、シンガーの声というのが
ものすごく大きな要素ですよね。
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| 糸井 |
言うならば、声ですらないっていうかね。
声ですらないエネルギーっていうか、
発しているなにかみたいな。
『真夜中の動物園』のなかにも
「♪Dadada‥‥」とか
歌詞のない部分がたくさんあるんですけど、
その、歌詞のない部分ができる時の物語を、
もし訊けるものなら訊いてみたかったんです。
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| 中島 |
ありましたかね。
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| 糸井 |
「まるで高速電車のように
あたしたちは擦れ違う」
のスキャットとか。
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「真夜中の動物園」のラストと、
あとケチャみたいなのも‥‥
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| 糸井 |
ケチャみたいなのもありましたねえ！
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| 中島 |
そんなんありましたかね？
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| 糸井 |
あるんですよ。確かラストの歌も‥‥
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| 中島 |
「負けんもんね」？
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| 糸井 |
「負けんもんね」や「サメの歌」もね、
音にしか過ぎないぐらい
壊しちゃって歌ってる。
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| ── |
「夢だもの」でも、
普通は「ゆ・め」って２音なのに
「ん」が入ってるから
２文字を３音で歌ってるというような。
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| 中島 |
コーラスさんたちが
重ねる時苦労してました。
「サメの歌」でも、
「みんな揃って“サんメ”って
歌うんでしょうか」と（笑）。
いいですから、サメって言ってください、
みたいなね。
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| 糸井 |
苦労するでしょうね。
方言を真似ているみたいなもんだもんね。
言葉がないんだけど、
メロディがあって歌があるっていう
状態のところって、
やっぱりぼく、けっこう興味あって。
‥‥言葉が出ないから
そうしたんじゃないんだよね？
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| 中島 |
はははは！
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| 糸井 |
いや、ぼくはね、職業作詞家の時期に
「まあいいや、ここは」って、
「出ないから」にギリギリ近いような
ところがあったんですよ。
「ここはもうラララ‥‥でいいや」って。
それで間（ま）を取っといて
２コーラスに行ったほうが楽だわとか
みんなのためになる、みたいな。
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| 中島 |
いや、でも、それが正解のときって、
けっこうあるでしょう。
やっぱりそこ、文字が入るべきじゃない
ところなんですよ、きっと。
だからなんぼ考えても入らないんですよ。
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| 糸井 |
文字は入らないんだけど、
時間は欲しいんだよね。
一緒にいたいんですよ。
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| 中島 |
そういう、時間のほうで、
「喋るな」っていう間（ま）が、
なんかあるんじゃないですかね。
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| 糸井 |
破裂音みたいな「ダ」みたいなので
言いたいときもあるし、
「ラ」みたいなので言いたいときもあるし。
そこは歌ならではじゃないですか？
詞にはそんなものないもん。
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| 中島 |
表記はなかなか難しいでしょうね。
この「真夜中の動物園」も、
「Da」と表記していますけれども、
コーラスさん達に歌ってもらうときに、
ダとラの間でお願いしますって言ってるんです。
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| 糸井 |
指示出してるんだ。
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| 中島 |
はい。「ダ」ではないんですね。
「ラ」でもないし、その間ぐらい。
どっちとも聴こえるぐらいの。
「ダ」も「ラ」も字に書けちゃうでしょう。
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| 糸井 |
書けないんだよね。
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| 中島 |
書けないんだよね。
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| 糸井 |
彫刻を作っているみたいなものだよね、
かたちに名前の付かない。
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| 中島 |
そうですね。「これはなに？」って、
「いや、なにって言われても」っていうふうな。
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| 糸井 |
アブストラクト。
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| 中島 |
うはははは、そうかぁ。
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| 糸井 |
そうか、スキャットはアブストラクトなのか！
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| 中島 |
そうなのね、たとえようがないんだもの。
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| 糸井 |
でも、明らかにそれが作りたいわけだよ。
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| 中島 |
ないのとは違うのね。
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| 糸井 |
そこもいいんだよなあ。
さっき言ったように
言葉がどんどん機能になっちゃって、
「言いたいことがあるんだったら
言ってごらん」とか
「ちゃんと意見を出し合って
ぶつけて解決を」とか。
もちろんその考えはあっていい。
だけどこの、確か歌詞の中にもあった、
「言葉持たない命よりも
言葉しかない命どもが
そんなに偉いか」っていう話（＊）、
そこなんだよ。
＊『真夜中の動物園』収録の
「小さき負傷者たちの為に」
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| 中島 |
泣いてちゃわかんないから、
泣かないでちゃんと言いなさいって言うけれど、
その鳴き声の調子からわかんないかなあ？
っていうこともあるのね。
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| 糸井 |
お前だって赤ん坊だったとき、
そうだったろうって。
「うんこ！」とか。
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| 中島 |
あはははは、言ったつもり（笑）。
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| 糸井 |
「ふにー」とか。
だからそこを代弁できちゃうんですよ、歌は。
スキャットどころじゃなくて他の場所でも、
それは言葉で言っているフリをしているけど、
言葉以上の、なにか‥‥
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| 中島 |
赤ん坊返りか。赤ん坊って鳴るよね。
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| 糸井 |
鳴ってる。
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| 中島 |
あんなちっちゃい身体でさ、
大人以上のボリュームが。
身体が鳴ってるもんね。
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| 糸井 |
だから振り向かせるわけだよ。
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| 中島 |
振り向かせなきゃならないんだもんね。
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| 糸井 |
必死ですよね、魂の音色ですよね。
その赤ん坊の鳴っているものと、
歌っていうのは、本当は一緒で。
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| 中島 |
はい、切なる思いを込めて。うーん、そうかあ。
（つづきます） |
