2011.03.27
# 雑誌

人気の湾岸・高層マンション地帯 豊洲~浦安が「恐怖の液状化」

東京・千葉のウォーターフロントを記者が歩いた
【浦安市高洲1丁目】フタだけではなく、マンホールごと浮き上がったのだから驚く。住宅街の路上だ

泥水が噴水みたいに

「本当にまいりました。5年前に新築した家が、こんなことになるなんて・・・」

 千葉県浦安市高洲1丁目に住む主婦はこう嘆いた。新築間もない3階建ての自宅が地盤沈下で傾いてしまったのだ。

 東日本大震災で、東京湾岸部は震度5強の揺れに襲われた。都心でも九段会館の天井が崩落して2人が死亡するなど犠牲者が出たが、高層マンションが林立する、セレブな住宅地として人気のウォーターフロントにも衝撃が走った。地盤の液状化が起きたのだ。2月のニュージーランド大地震でも見られた液状化とは、どんな現象なのか。愛媛大学防災情報研究センター准教授・森伸一郎氏が説明する。

「水を多く含んだ緩い地盤に強い揺れが加わると、土の粒子が密になろうとして隙間にある水に圧力がかかる。すると、水は圧力の低いほう、つまり地表に向かって押し上がろうとする。その結果、泥水が噴き出す。いったん出始めると、まるで水道管が破裂したように、20~30cmの高さになり、場所によっては飛沫(しぶき)が2mに達することもあります」

 液状化が起こりやすい土地は、埋め立て地、河川の近く、昔河川が流れていたような土地だ。東京湾を埋め立てた湾岸地区は、最も液状化が起こりやすい環境というわけである。冒頭の主婦が続ける。

【江東区新木場4丁目】 地震後、公園のタイルの隙間からブクブクと泥水が吹き上がる。なかなか止まない・・・

「家から飛び出すと、足下のアスファルトがグニャグニャ波うつように揺れて、バリバリと音をたてて割れた。底が見えないほど深い亀裂が入っていました。隣の家の庭の真ん中から、泥水が噴水みたいにビュービュー噴き出して。

 駐車場が30分もかからずに泥のプールになりました。家を建てる時は、このあたりの地盤が緩いことを知っているので、基礎に人一倍おカネをかけ、マンション並みにたくさんのパイル(杭)を深く打ち込んだのに。家屋は壊れなくても、これではね」

【浦安市富岡3丁目(右)】 悲しみの風景。ご覧の通り、右側に大きく傾いてしまった交番。がんばってほしい 【浦安市高洲1丁目(左)】 外塀が一気に崩れて、植栽された樹木も傾いてしまった。液状化でこうなるのだ
【浦安市高洲1丁目】 5年前に新築したが、地盤沈下した。「家自体は阪神・淡路大震災でも壊れないと言われた」(住人)
【新木場1丁目】 歩行者も指をさして驚いている。液状化で地盤が沈下し、軽トラックの前輪がはまってしまった。新木場はかなり地盤が弱いようだ
【江東区豊洲5丁目(左)】 マンション前の歩道部分に泥水が噴き出し、乾いた後には、大量の砂がたまった  【江東区豊洲1丁目(右)】 「立ち入り禁止」のロープが張られたマンションの共有地。ここも液状化した

 千葉県建築指導課によると、

「家を建てる際、液状化の危険がある土地の場合、杭を打つなど地盤改良の方法を取って、地盤が耐えうる建物を建設しなければならないという基準がある」

 主婦が住む家は、こうした基準以上の頑丈な構造だったが、それでも致命的なダメージを受けたのである。その近所では、地盤沈下でマンホールそのものが、1mあまりも飛び出していた!

*

 果たして液状化現象は、他の東京湾岸でどれぐらい発生しているのか。本誌記者は、この目で確かめるべく、千葉県・浦安、舞浜から東京・江東区の豊洲、辰巳、東雲、新木場エリアを歩いた。

【新木場4丁目】 こんなところにも液状化の爪痕が・・・。普段は美しい模様を見せている煉瓦のタイルタイプの歩道も、大穴が空いて崩れてしまった

 まずは、運営停止を余儀なくされている「東京ディズニーランド」への玄関口、JR舞浜駅前。歩道橋や駅の支柱が根本から浮き上がり、アスファルトがあちこちでめくれ上がっている。

「ロータリー内の縁石の隙間という隙間から、泥水がジャブジャブと噴き出して水浸しになったんだよ」(駅前で客待ちしていたタクシー運転手)

 今は乾いた泥が黄砂のように舞い上がり、中近東の国のような光景だ。東京ディズニーランドの近くでは、道路のアスファルトを剝がし、その下の砂利をならす工事が始まっていた。作業員に聞くと、

「道路が凹んだり盛り上がっているところが数えきれないぐらいある」

【新木場3丁目】 「こ、これは!」。本誌記者も思わず唸った、液状化による自転車の悲劇。タイヤの半分まで埋まっている。放置自転車なのだろうか

 東京・江東区に移動する。同区役所によると、「区内で液状化が発見されたのは13ヵ所。一番酷いのは、新木場の周回道路」とのこと。さっそく向かう。

 新木場では東京ヘリポート前の道路が陥没し、重機で穴に土砂を入れていた。「液状化のあと、土砂が下水道に流れ、陥没した」と作業員。いたるところに液状化の痕跡が残っており、集められた泥が人の背丈ほどの高さになっている。

 辰巳の「辰巳の森緑道公園」沿いの道路で、作業員が泥をスコップでかき集めていた。近くのマンション入り口の地盤が下がり、地割れが起きている。

 管理事務所で聞くと、「地震後すぐに泥が吹き出て何時間も続いた」という。近くの老朽化した辰巳港湾住宅ではベランダが落下寸前で、入り口の地盤が下がり、段差ができていた。自転車置き場の自転車のタイヤが黒い泥に埋まっている。

ニョキニョキと次々に高層マンションが建てられる江東区・湾岸エリア。人気住宅地の一つだ

 ここ数年、高層マンションが多数建てられた豊洲。マンションを購入しようという人たちの人気スポットの一つだ。

「都心に近い上に、町自体が新しいため道路も広く、町全体が整然としている。その割に価格が安いので、買いやすく、人気が高いのです」(住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏)

 しかし、高層マンションは地震の際、大きく揺れる上、エレベーターが止まると避難するのも難しい。今回の地震はどうだったのだろう。36階建ての15階に住む68歳の女性は、こう言う。

「部屋がグルグル回っている感じで揺れました。余震が怖くてドアを開けましたが、外には出ませんでした。エレベーターは4~5時間止まっていましたね」

 3階に住む子供連れの女性(30代)は、耐震システムに絶大な信頼を寄せている。

「地震の揺れが収まった後、急いで階段で外に出ましたが、人の姿がほとんどなかった。マンションの住人は屋内のほうが安全だと思っているようなんです。防災訓練では、免震構造で頑丈にできているので、地震が来ても外に出ないほうが安全だと聞きました」

 高層階の住人である老女(75)も、自信満々にこう話すのだった。

「年に数回行われる防災説明会で、マンションの中のほうが安全なので、地震が起こったら、逆にマンションに逃げ込むように言われているんですよ」

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