すき焼きも食い続けたら飽きる『エンジェル ウォーズ』

予告がすさまじく良く、観る前からサントラも買って、とてつもなく楽しみにしてたのだが、先に観て来た人たちがそこまで褒めてはなかったので、ある程度緩い気構えで『エンジェル ウォーズ』こと『サッカー・パンチ』を観て来た。

チャーシューメンを喰らいに行ったら、乗ってるチャーシュー全部にそれぞれ違う味付けがしてあり、バラ肉やロース肉を使い分け、さらにご丁寧に炙ったりしてあって、チャーシューメンにしてはやたら凝ってるなぁと、その作り方と旨さに感動するんだけど、いかんせん肝心の麺とスープがおいしくなく、とりあえずチャーシューのおかげでメンを全部喰えたなと、そういう感じだった。元々じぶんはチャーシューが大好きで、チャーシューがうまければたいがいのラーメンは満足してたクチなのだが、そもそもこれはラーメンにして出さなくてもいいのでは?という疑問すらわいた。ただ、そのチャーシューはホントに絶品なのでチャーシューだけだったら飽きると分かっていてもまた食べたいかなとは思った。

物語は義理の父から妹を守ろうとしたのだが、とあるアクシデントでその妹を殺してしまった女の子が精神病院に入るところから始まる。その子が精神病院から脱出するために、カギや地図やナイフなどの道具を仲間と一緒に集めるわけなんだけど、それが全部妄想の世界で繰り広げられ、その妄想世界でそれらのアイテムを獲得するシーンになると、そこからもう一度妄想をして「戦場」でバトルスタート。そして戦いが終わると「戦場」から再び妄想の世界に戻って来るという非常に凝ったもの。いわゆる入れ子構造というのをそのまま映画の展開に使うというありそうでなかったユニークな発想なのだが、恐らくセーラー服を着たちゃんねーが日本刀を持ってロボやゾンビをバッサバッサと切りまくる絵を使いたかっただけというのが本音だろう。

ぼくは映画を観る際、物語をかたることに趣をおいておらず、脚本がずさんであっても、ハッタリの効いたかっちょ良い映像が延々続けばいいやと思ってるのだが、『エンジェル ウォーズ』に対してそう思わなかったのは、妄想の世界に入った瞬間、その妄想だけが延々続くからである。ハッとさせられるような視覚的な変化が一切訪れないため、観ていて単純に飽きるのだ。これは日本刀を持ったパツキンのちゃんねーがゾンビをバッサバッサ切る絵が好きだという個人的嗜好とは関係のない別の問題であって、大好きなすき焼きだってそればかりをずっと喰い続けたら、お腹いっぱいとは関係なくそのくどさに飽きてしまう。その辺『マトリックス』はその視覚的な変化をうまく使っていたなと改めて感心した。

入れ子構造であることはおもしろいと感じたが、基本的に妄想の部分が延々続き、現実の部分が一切描かれないため、その妄想が効果的に使われていない。現実の世界から妄想の世界へジャンプして、さらに妄想の中で妄想して――――というのが物語の基本的な構造であれば、そこを行き来しないと妄想の世界を舞台にした意味がない。『パンズ・ラビリンス』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のように「現実にここまで救いがないから妄想の世界では多少の苦難があっても光輝いていたい」という芯の部分が映像として抜け落ちてるのは致命的な欠陥だ。

ちなみに本編の妄想世界である「劇場」と妄想の中の妄想である「戦場」の間を行き来するのは台所でのシーンのわずか一回のみ。んで、頭とケツが現実である。実際、映画を見始めて1時間ほど経ち、この行き来するところが出た瞬間に「何か物足りないなぁと思ってたけどこれだったか!」と感じたので、もっと頻繁にやるべきだった。そして現実に戻ってくるラストでちょっとした安堵感もあったりしたから、『カリートの道』のようにその一連のシーンをド頭に持ってくるなんていうのもアリだったかもしれない。まぁ、そうしてしまうと映画がとてつもなく長くなってしまうんだけど……

ハッキリいってダメなところをあげつらったらキリがないが、そうは言ってもさすがザック・スナイダー、ビジュアルのクオリティはハンパじゃない。寺田克也風味全快のキャラクターが、日本刀でゾンビやロボットをバッサバッサとなぎ倒して行くさまはなんだかんだ言っても恐ろしいほどにテンションがあがった。特に後半、ビートルズの“Tomorrow Never Knows”にのせて、爆弾を積んだ列車に突入し、そこから長回しでロボを倒しまくるくだりは今年一番のベストシーン。それまであの曲は「サイケでオリエンタルなビートルズ一番の実験作」というイメージだったのにあのシーン一発で「突撃だー!」の音楽に変わってしまった。かっちょよい映像だけで精神病院に入ることになった経緯を説明したのも『ウォッチメン』のオープニングを彷彿とさせて素晴らしかったし、そのテンションのままビョークの“Army of Me”にのせてガドリングガンサムライと戦うシーンもとてもよかった。

というわけで、結局のところとてつもなく良いところととてつもなく悪いところが同居してしまった印象を持った『エンジェル ウォーズ』だったが、それでもBD出たら買うだろうなぁ。どうも嫌いになれない世界でしたよ、いくら飽きてもしばらくしたらまたすき焼き喰いたくなるのと一緒。あういぇ。

Sucker Punch

Sucker Punch

ちなみにサントラはマジでおすすめ。この音楽にあった映像がとにかく延々続く。