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過労死遺族にワタミ渡辺氏を質問者に選ぶという自民党からのメッセージ

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
渡辺議員は謝罪したというが・・・。(写真:NATSUKI SAKAI/アフロ)

 さすがに温和な性格とよく言われている私でも腹が立ちました。

 それは、3月13日に開かれた参院予算委での中央公聴会のことです。

 自民党の渡辺美樹議員が「働くのは悪いことか」「週休7日が幸せなのか」などの妄言を、あろうことか、公述人として出てきた過労死した労働者のご遺族に向けたことです。

 その後、「東京過労死を考える家族の会」が同議員に抗議し、渡辺議員が一部発言について謝罪したとのことです。

過労死遺族に「週休7日が幸せ?」 ワタミ渡辺氏が謝罪(朝日新聞)

「週休7日が幸せなのか」過労死遺族にワタミ創業者の渡辺美樹氏発言、抗議に謝罪(産経新聞)

ワタミ過労自死事件

 言うまでもなく、渡辺議員は、居酒屋チェーン「和民」を展開するワタミの創業者です。

 そして、そのワタミでは、2008年6月、居酒屋で働いていた若い女性の新入社員が過労で自死するという痛ましい事件が起き、2012年に労災認定されているのです。このことも、また多くの人が知る事件です。

 取締役会長であった渡辺氏は、過労死が認定された当時、次のようなツイートをし、物議をかもしました。

 この時点でこの人は感覚がおかしいとしか言いようがありません。

 従業員が自死し、それが過労が原因と認定されたのに、何が「労務管理できていなかったとの認識は、ありません。」なのでしょうか?

 過労死を出した企業の会長がこのような無責任な発言をすること自体、許しがたいものがあります。

 また、ワタミ自体も労災認定を受け入れず、「当社の認識と異なっておりますので、今回の決定は遺憾」と発表しました。

 当然ですが、渡辺氏の意向を酌んだ同社の発表となっているはずです。

自民党の参議院比例区から立候補

 ところが、こんな感覚の持ち主を、自民党は2013年、参議院選挙の比例区の候補者として担ぎました。

 そして、比例区の自民党の当選者18人中、16番目で彼は当選したのです。

 それから5年になろうとしていますが、彼が政治家として何か実績を上げているという話は聴きません。

 ところが、何故か、「働き方改革」の法案に関連した予算委員会の中央公聴会で、公述人として過労死をした労働者の遺族が出てくる場面で、彼は質問者となるのです。

 政治の世界は、黙していても、その中に多くのメッセージが込められています。

 誰が質問者として立つのかも、それ自体に重要なメッセージ性があります

 ましてや、議員の数が多い自民党であれば、それは顕著です。

 つまり、自民党が、彼を質問者としたこと自体に、自民党が思い描いている「働き方改革」の実態が垣間見えるのです。

過労死遺族に過労死企業の創業者を質問者としてぶつける異常

 まず、過労死した労働者のご遺族が公述人として来るということが分かっていながら、過労死を出した企業の創業者をぶつける感覚が理解できません。

 自民党の中で、「さすがにそれはまずい」という人はいなかったのでしょうか?

 もちろん、渡辺議員が真に反省していればよかったのかもしれませんが、あろうことか「国会の議論を聞いていますと、働くことが悪いことであるかのような議論に聞こえてきます。お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」と発言するのですから、反省どころから、労働時間を減らそうと言う流れに冷や水を浴びせるのです。

 言っておきますが、長時間労働に反対する団体、個人(私も含めて)が、「働くことが悪いことだ」などと言ったことは一度もありません。

 そして、「週休7日が人間にとって幸せ」などと言った人もいません。

 誰も言っていない極論を、議論の相手方が言ったかのように設定して、それを論破してみせるという安っぽい手法はないわけではありませんが、国会における公聴会でそれをやるという感覚も異常です。 

 公述人は、国会議員でも、公務員でもない、民間人です。ましてや、相手は過労死をした労働者のご遺族です。

 公聴会の趣旨が分かっていれば、こんな妄言を相手にぶつけるのは失礼というものです。

自民党の「働き方改革」に対する姿勢

 自民党が彼を質問者として選んだのは、ようやく醸成されてきた「長時間労働はよくない」という流れを、心の底では苦々しく思っているというメッセージなのでしょう。

 そうでなければ、わざわざ渡辺議員を質問者に選ぶ意味が分かりません。

 自民党の狙いは、過労死遺族に対し、過労死を出した企業の創業者を質問者に立てる「嫌がらせ」をすることにあったのでしょう。

 ただ、奇しくも、ブラック企業との批判を受けたワタミの創業者である渡辺氏が、高度プロフェッショナル制度(=高プロ)について、「この制度を望んでいる方もいらっしゃるわけですから」といって持ち上げていることで、逆に同制度が労働者にとって危険な制度であることを力強く物語ってくれてもいます。

 皮肉なことですが、渡辺氏が高プロを持ち上げれば持ち上げるほど、高プロがブラック企業に栄養を与える制度であることが立証されることになるわけです。

 自民党が、渡辺氏を質問者に立てた意図は、上述のような意味ではない、というのであれば、そして、本当に「働き方改革」を実行するつもりであれば、高プロを法案から外すことを、政府に働きかけるべきでしょう。

 それができないのであれば、上記の誹りを免れることはできません。

 是非、与党として政府に、高プロを外すことを提案してほしいものです。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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