セルフブランディングという言葉がある。wikipediaによると
企業や組織に所属しない「個人」が、自らをメディア化し、自らの力でプロモーションすること
のことを言うらしい。
企業もある程度の大きさになるとコーポレートブランディングを行うが、それの個人バージョンと考えればそんなに間違いはなさそうである。人間、生きていればそれなりに評判というものも出てくるような気がするが、そういった自然発生的な評判ではなく、ソーシャルメディアなどを利用して、ある程度意図的に自分のブランドイメージを作り上げる行為を「セルフブランディング」というらしい。
「セルフブランディング」は、いわゆる個人事業主(ノマド)界隈の人たちと親和性の高い言葉のようである。というのも、人から仕事をもらうという業態で個人事業を行うのであれば、その事業主の評判は、当然ながら営業力に関わってくる。また、誰かに何かを販売するという業態をとるのであれば、やはりこれもその事業主の評判は重要になる。無名で聞いたことがない人に仕事を頼んだり、あるいはそういう人から何かを買ったりするという勇気ある人はあまりいないだろうから、営業の一貫として、自分という一個人をブランディングしようという気持ちはわからないでもない。
ただ、僕は安易に「セルフブランディング」に手を出そうとしている人には、「ちょっと待て」と言いたいと思っている。セルフブランディングには、大きな危険性が潜んでいる。それは、「セルフブランディングは基本的には不可逆的行為であり、一度変なイブランドイメージがつくと、払拭は簡単ではない」ということだ。特に、実名で行う場合は注意が必要である。
例えば、twitterやfacebook、ブログあたりをフル活用して、本名と顔写真付きでセルフブランディングを行ったとする。ある日、うっかりブログに書いた内容が炎上してしまう。軽率な発言はそれこそソーシャルメディアでネット上を駆け巡り、「いい意味で」有名になろうとしたのに、「悪い意味」で有名になってしまった。そういうケースも十分に有り得る。
そして、問題はこうやって一度出来上がってしまった「悪評」を消すのは簡単ではないということである。もちろん、人の噂も七十五日と言うし、そこまでみんな暇では無いので一回の炎上ぐらいはすぐに忘れさられるのが普通だと思うが、それでも度々やっていると、「炎上キャラ」といったような評判が定着しはじめる。HNなどを使って匿名でやっていたとすれば、その存在をネット上から抹消すればそれでリセット可能だが、本名と顔写真付きでやっているとそういうわけにもいかない。これはなかなか辛いことである。
もちろん、「よい評判」を作り上げることができれば、様々なメリットがあるので、一概にセルフブランディングがいけないと言うつもりはない。誰がどう考えても「よい評判」に繋がるものがあるのなら(例えばオープンソースコミュニティへの貢献とか)、それを実名でネット上に公開することは基本的には悪くない。全面的に押し出してもいいだろう。ただ、賛否が分かれそうなものを実名で公開する時は、それなりの覚悟と戦略をもって望む必要があるということを忘れてはならない。
思うに、「セルフブランディング」なる活動をわざわざ積極的に行わなくても、よい活動をしている人の評判はよいものになるのが普通である。逆に、「よい活動」をしていない人が「よい評判」を作ろうとしてもそれは難しい。1を100に見せようとすると、その魂胆を見ぬかれた時に「あの人は、1を100に見せようとする人だ」という悪評がたちかねない。背伸びは、あくまで少しだけにしたほうがよい。
たまに、「無価値な人間がセルフブランディングを成功させる方法」みたいな記事を見かけることがあるけど、仮に自分が無価値であるならまずは価値を生み出せる人間になる方にエネルギーを使ったほうが絶対によい。「セルフブランディング」が、自分の実力の無さをカバーするための役割しか持たないのであれば、まだセルフブランディングに手を出す段階ではないと僕は思う。
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