バリューコマースは、日本最大のアフィリエイトネットワークを構築した業界大手だ。アフィリエイトマーケティングサービスのほかに、ストア側に向けた検索連動型広告であるストアマッチサービスも提供している。そして、EC業界で長くビジネスを展開してきた同社は、11月22日に東証一部に上場した。

上場に先駆けて公開された2012年12月期第3四半期連結業績報告によれば、7四半期連続の増収、1株あたりの四半期純利益は過去最高となっており、株価も年初来高値を更新中だという。10月にはヤフーの連結子会社にもなり、その事業シナジーによって、さらに数年で収益倍増を目指すなど同社の勢いは止まらない。そこで、同社を牽引する飯塚社長に、今後の戦略を聞いた。

バリューコマース 代表取締役社長 執行役員 飯塚 洋一氏
1949年3月24日生まれ。1973年に住友商事入社。同社 プロジェクト金融部次長、日本サテライトシステムズ(現スカパーJSAT) 取締役執行役員副社長 企画管理部門長を経て、2011年3月にバリューコマース 代表取締役社長兼最高経営責任者に就任。現在に至る。

バリューコマース(ValueCommerce)

1996年に設立され、ECサイトを対象とした成果報酬型広告「アフィリエイトマーケティングサービス」とオンラインモールに出店するストア向けの検索連動型広告「ストアマッチサービス」を提供する業界大手。資本金は17億2,766万円(2011年12月31日現在)で、本社は東京都港区赤坂。2006年7月に東証マザーズ市場に上場し、2012年11月22日には東証一部上場を果たす。

人口減でも世帯数増ならEC市場は拡大

今後日本の人口は減少し、それにともなってECサイトの利用者も減っていくように思えるが、飯塚氏はこれを否定する。

「確かに人口は減っていますが、世帯数は増えています。世帯数の伸びというのは、EC需要の伸びです」と飯塚氏。

核家族や単身者が増加したことで、一世帯にあたりの家族は減ったが、逆に世帯数は増えている。化粧品や衣類といった個人が消費するものは人口とある程度連動するが、家具や家電といった世帯単位で購入するものは世帯数の増加に応じて需要も増える。世帯数が増えている今、国内のEC市場はプラス成長に向かっているというのだ。

「特に大きなもの、運ぶのが大変なものを通販で買おうという傾向があります。実物を見ずに高額商品を購入することになるので、売る側のブランド力も必要ですね」と飯塚氏は語る。

また、現在の世界情勢が日本のEC市場にとってプラスになっている部分もある。円高の中、海外メーカーからバリューコマースへのアプローチは増えているという。

「件数ベースで前年比13%ほど海外製品の取り扱いが増えています。日本をGDPではなく個人消費で見た場合、世界第2位くらいの位置にあるのではないでしょうか。日本のマーケットは非常に大きく、まだまだやれることがあると感じています」と、飯塚氏は国内市場の大きさを改めて指摘した。

2012年12月期第3四半期累計ハイライト(1月~9月)

スマートフォン普及で高齢者もECターゲットに

市場的な展望に加えて、もう1つ大きな成長の鍵となりそうなのがスマートフォンだ。バリューコマース内でのスマートフォンによる注文件数は大きく伸びており、現在は全体の10.6%を占めるまでになっている。そして、スマートフォンの普及は、利用者層の拡大という効果も生んでいるという。

同社のスマートフォンでの受注件数の推移(右)

「我々はフィーチャーフォン向けの事業では出遅れましたが、これが今よい形で影響しています。他社がまだフィーチャーフォン向けのサービスからスマートフォン向けへの転換に苦労している間に、スマートフォンサービスを充実させることができました。また、スマートフォンのおかげで利用者の年齢層が広がったという効果もあります」と飯塚氏。

従来はPC所有者がECを利用していたが、多くの人がスマートフォンやタブレットを利用するようになった結果、利用者層が広がり、特に高齢者のEC利用が伸びているのだ。

「良いものを安く手に入れたいのは誰でも同じです。ヨーロッパではECを最も利用しているのは55~64歳の層で、それに次いで64歳以上の層が利用しているようです。ECといえども買い物ですから、若い人が買うのではなく、お金を持っている人がメインユーザーです。特に高齢者は時間に余裕があるため、旅行のような商品もよく購入します。お孫さんにプレゼント、というような需要もあります。海外では1日に2,000台の車がネットで売れるといわれますが、日本でもそうした大型かつ高額な商品もネットで買う時代が近く来るでしょう」と飯塚氏は語った。

2011/2012の同社のカテゴリー別売上高構成比率。金融、旅行関連は堅調に推移する

収益倍増の鍵となる3要素とマーケットポジション

飯塚社長は、さらに業績を伸ばし、2010年代中に収益倍増(2011年度比)達成を目標に掲げる。具体的には3~5年程度での達成を目指しているようだ。

マーケット自体が成長している中、マーケットシェアを維持し続けることで自然に成長するという形をとってきたバリューコマースにとって、数年で倍増というのは決して無謀な目標ではない。

飯塚氏が具体的な成長への鍵として挙げたのは、海外製品取り扱いの強化、ヤフーと共同開発を行ってのO2O、利益率のよいメディア事業という3つだ。

前述のように海外製品取り扱いの強化はすでに行われており、O2O(Online to Offline)についても技術的にはすでに実施可能な状態にある。O2Oとは、クーポンなどのオンライン情報によって、顧客を実店舗(Offline)に誘導しようという消費者行動の連携。

「O2Oはネットの価値が見直され、各種デバイスが発展した今、伸びが期待できる分野です。海外のシステムをそのまま持ってくるのではなく、日本にあった独自のシステムで実現しようと考えています。また、メディアとのコラボレーションも強化しつつ、独自のメディアも作りたいですね。お客様と重ならない部分で何かできるはずだと考えています」と飯塚氏。自社メディアの構築は年内にもリリースされる予定だ。

また、マーケットポジションも変化させようとしている。現在は比較的付加価値が高く、ハイスペックを要求する大口顧客が多いという状況にあるが、今後は、シンプルなシステムを多くの顧客に提供することで、顧客数を増加させようというのだ。

現在のバリューコマースにおけるサービスごとの売り上げ構成比率では、半分以上を大口顧客が多いコンサルティングサービスが占めている。中小企業でも利用しやすいASP型のサービス(中小規模のECサイトを展開する顧客向けに、バリューコマース・プログラムを用いて、アフィリエイトマーケティングを提供するサービス)は27.6%に留まっているが、これを拡張しようというのだ。

サービスごとの売り上げ構成比率

「中小企業のビジネスをいかに支援するかが課題です。多くの企業は広告費を下げて売り上げを伸ばそうと考えていて、その手段として、1社の広告代理店にすべて任せることで値引きしてもらい、トータルのコストを下げようとしがちです。しかし、ECの分野では我々には蓄積された膨大なデータに裏打ちされた実績とマーケティング能力があります。ぜひ我々を活用していただきたいですね」と飯塚氏は語った。

人が企業の価値

さらに同社では、今後の同社を支える人材の育成にも注力する。バリューコマースでは大量採用を行って数人が残ればよいという考え方はしておらず、育てられるだけの人数を採用し、しっかりと育てるという方針だ。外部研修などにも積極的に参加させ、現場で活躍できる人材を育成している。また、女性管理職の登用にも積極的だ。

「人が企業の価値です。もしバリューコマースから人がいなくなったら、企業価値もなくなります。新入社員の人にはできるだけ長く勤めてもたい、一般的には3年程度といわれる平均在籍年数を6年にしたいですね」と飯塚氏。

同社のこれからの成長に期待できそうだ。