"立ちはだかる者はすべて倒す！"『処刑剣 14BLADES』

　2011年のドニー・イェンイヤーもとうとう四本目！

　明朝に仕える戦闘集団「錦衣衛」。勅命により謀反人を捕らえようとした指揮官の青龍は、宦官の謀略にはまり罪を着せられる。輸送屋を雇い都から逃れた青龍に、親王の刺客脱脱が迫る。都を追放された親王は、宦官と通じて玉璽を手に入れ、それを捺した勅命でもって帰還しようとしていたのだ。輸送屋の娘と共に彼らの陰謀を阻止しようとする青龍だが……。

　『セブンソード』という作品がありましたが、あれは7人で7本の剣でしたな。今作は1人で14本の剣を常に箱に入れて持ち歩いてるという設定。ガンダムエクシアのセブンソードなんぞ余裕で超越してるぜ！と興奮していた。14本のうち、8本は拷問用ということでほとんど使わず、残り6本のうち5本で戦うということで、最初ちょっと騙されたと思ったのだが、他に機能が充実してたからいいとしよう。ワイヤーやら飛び道具やら、ギミック詰込み過ぎだろ！　でも欲しい！　めちゃ重そうな上に、そのサイズにそれだけの武器やら歯車やらは絶対入らないだろうと思うが……。
　背中に背負ってるのが普通の剣じゃなくてこの箱なんで、シルエットがすごく特徴的になっている。馬上のシーンが多く、果てなき中国の大自然を、箱かついで爆走！　このシルエットが繰り返し印象づけられてキャラ立ちに一役も二役も買っているのだけど、これがラストシーンにも効いて来るのだよね。
　ややロードムービーっぽく、最初は都から始まり、山を越え、砂漠を超えてその向こうの郡へ向かう。迷路のような岩場など多彩なロケーションが登場する。
　ビジュアル面において、他のキャラも含めたウェポン戦の華麗さは特筆もの。ドニーさんを差し置いて初日にポストカードが配られていたウーズンも色々ギミックを持っているが、敵役のケイト・ツイが想像以上に強く、ドニーさんを追いつめていく！　これは実力者なんじゃないの？というキャラを次々と仕留め、三段論法で強さを印象づける。衣服を一枚、一枚脱いで幻惑するのは、山田風太郎『江戸忍法帖』の葉月のようですな。クンフーアクションは抑えめで、武器や周囲の建物などを最大限に駆使したアクション作りが為されている。まあ好みもあるだろうが、これはこれでカッコいいぜ。
　クライマックスの大激突も素晴らしい。両者、無言で相対し、いきなり戦い始める。そこまでの話で、目的のために互いの存在を決して無視できない、言わば不倶戴天の間柄となったことが描かれているのだよね。逃すわけにはいかない、もはや戦うのみ、言葉は不要！
　地形、武器、状況、キャラクターの心情、多彩な要素が絡まって、ひとつひとつのバトルに意味付けがなされ、決して同じようなものに終わらないのである。

　ドニーさんは『イップ・マン』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110206/1296983880）の人格者、『孫文の義士団』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110312/1299929052）の汚職警官に対し、今作では原点に回帰し人格破綻気味の殺人マシーン役を演じている。いつ襲いかかって来るかわからん不穏な表情、風呂シーンでは超マッチョ！　喧嘩っ早くて、女にも優しいのか冷たいのか、よくわからん！　チンピラを鶏肉だけで蹴散らすシーンが素晴らしい。
　ヴィッキー・チャオは全然変わらないなあ。『少林サッカー』の時、そのままだよ。顔も、しゃべり方も昔といっしょ。最近はモデルっぽい美女の多いドニーの相手役としては、ちょっと異色なコラボレーションになったが、なかなかいいよ。
　戦うことばかりで愛を知らない殺人機械が、ヒロインや市井の人々との触れ合いで変わって行く、というまあベタベタな話なんだが、権力に裏切られた彼が「尊厳」を取り戻そうとする過程で変化する様を、ドニーさんは実に巧みに演じているのだよね。最後にちょっとニッと笑うところなんかも、ああ良かったなあ、と思えるのである。

　大傑作とは言わんが、創意工夫の光る良い作品。ラストもズバリと決まったぜ。カッコいい！

　先月の『イップ・マン序章』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110424/1303616111）に続き、またも関西映画クラスタ・神戸の誇る、はてなの才女映画ブロガーことid:yosinote女史がいらっしゃったので、終映後に合流してカフェりつつ、延々と映画トークしたのであった。ドニーが……アンソニー・ウォンが……ビッグフィッシュが……黒鳥が……ブルバレが……スコピルが……！