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 ブラウザーごとの挙動の違いを無くすのも、HTML5の本来の目的の一つ。だが、新たな標準を策定している今、皮肉にもブラウザー間の違いは拡大している。その最たる例が、動画の形式をめぐる標準化争いだ。Flashなどのプラグインを使わずに、動画を再生できるvideo要素は、HTML5のウリの一つである。ところが、そのコーデックを何にするかが決まっていない。

 3月末時点で、H.264というコーデックを使えば、Internet Explorer(IE)9やGoogle Chrome、Safari上で動画を再生できる。ところが、FirefoxとOperaがH.264に対応しておらず、その代わりにogg/theoraまたはWebMというコーデックを採用している。つまり、シェア1位であるIEと同2位であるFirefoxの両方で動画を利用できるようにするためには、2種類のファイルを用意しなければならない。

 FirefoxなどがH.264を嫌う理由は、特許である。H.264には、マイクロソフトやアップル、ソニー、パナソニック、東芝などが保有する特許技術が複数使われている。ライセンス費用の可能性を嫌う米Mozillaは、オープンソースのogg/theoraを推し進めた。

 H.264にかかわるライセンス料は、MPEG LAという団体が管理している。MPEG LAは、ネット動画配信用について「2015年まで無償期間」との方針を打ち出し、その後「永久無料化」まで宣言した。これによってライセンス費用の問題は解決するかに見えたが、H.264に収束する動きにはならなかった。

対立する2つの陣営

 一方のogg/theoraにも「性能が遅い」という致命的な弱点があった。そこで、グーグルはogg/theoraを改良したWebMという規格を開発し、これを標準として採用すべく働きかけを始める。theoraのベースとなるVP3というコーデックを開発した米On2 Technologiesをグーグルが買収し、On2が持っていた性能に優れるVP8をオープンソース化した上で、WebMに組み込んだのである。

 このWebMに、ogg/theoraをサポートしていたOperaがいち早く同調する。2010年7月にリリースした「10.60」でWebMをサポートしたのである。Firefoxもこの3月にリリースした「4」で、WebMのサポートを開始した。さらに、WebMの普及に注力するグーグルは、「近い将来、H.264のサポートを打ち切る」と2011年1月に表明している(関連記事)。

 これらの結果、「H.264」vs「WebM(およびOgg Theora)」という構図ができあがった。H.264陣営はIE9とSafari。WebM陣営はFirefox、Google Chrome、Operaである。いずれも強力であり、どちらかが片方を圧倒する状況ではない。マイクロソフトはGoogle Chrome向けにH.264を再生するためのプラグインを用意し、対するグーグルもIE用にWebMのプラグインを提供するなど、標準化に向けて両陣営は一歩も引かない構えだ。既に数年続いている争いであるが、HTML5の最終草案を目前にした今でも先行きが全く見えないというのが、2011年3月末時点の状態である。