2000年問題に立ち向かう少年たち『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』

デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』をレンタルDVDで鑑賞。

2000年の春休み。突如ネット上に出現した新種デジモンがありとあらゆる機関に侵入し、さまざまなデーターを食い荒らしはじめた。最初はレジの金額表示や信号くらいのトラブルだったが、次第にコンピューターで制御されていた各機関が暴走をしはじめる。部屋の中にいながら、いち早くその危機を察知した主人公は、友人と二人で孤独な戦いを始める……というのがあらすじ。

押井守の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』は、もしこの日本でテロが起きたら、犯人は誰で、動機はどういうものになるだろう?というのを丁寧にシュミレートした作品だったが、『ぼくらのウォーゲーム』も杞憂に終わった2000年問題を取り扱い、もしアレが本当に全世界で大問題を起こしていたら?をシュミレートしていく。仮に2000年問題が同時多発的に起きてしまったら、人々は軽い混乱を起こし、プログラマーや社員はその問題に立ち向かうべく、オフィスの一画や自宅でパソコンをカタカタするだろう。実際映画は「その感じ」が良く出ている。

作品内では『インセプション』のように、ネット上で起きていることと、現実に起きていることの乖離が激しく、緊迫感と牧歌的な雰囲気のギャップで笑いを誘う――――例えば、主人公たちは本当に世界の危機に立ち向かっているのに、母親は呑気に「○○くん、お昼食べていくでしょぉ」なんて言ったり、誕生会に呼ばれた主人公の妹は「今から帰ってくるなんて無理だよぉ、ババ抜きが盛り上がってるんだからぁ」とか言ったりする。さらに春休みで島根の実家に行ってしまった仲間とのやりとりや、ケンカしてしまった恋人とのやりとりが、映画に軽いスパイスを効かせることに成功している。

この現実とネット内の世界の乖離が、この作品においては重要なファクターだ。実際「なんで家の中で問題が起きて、なんでそれが家の中で解決してしまうのか?」という、プロット上においてまったく意味がないことをしていた『サマーウォーズ』に比べると、本作は2000年問題に落し込んだことで重要な意味が出た。結局なんでネットにモンスターが現れたのか?は明らかにされないが、それでいいのである。だって、2000年問題がそうだったし、実際あの時はみんな各機関で起こるであろう問題に対処すべく、会社に缶詰にされていたのだから。

デジモン」と聞くと、それこそ突拍子もない、現実離れした世界が待っていると思うだろうが、主人公たちがデジモンを操ってるシーン以外は現実の地続きが展開され、固有名詞も飛び出し、出て来るガジェットも本格的でドラマとしてはリアリティがある。特にWindowsの画面をあれだけ克明に描きあげたのは賞賛に値すべきではないか。

部屋の中でなにがしという描写が多いため、画に動きはないのだが、メビウスばりの描き込みと松本大洋調の構図/空間の歪みでそれをコミック的に表現し、さらにカットのスピードを段違いに早くすることで、飽きさせないようにするなど工夫が随所に見られる。

40分で終わってしまう本作だが、これを下敷きにしたのが、同監督の『サマーウォーズ』と言われている。ただ、確かにその要素はあれど、本作と『サマーウォーズ』は抱えてる問題と、その本質がまるで違うので、実のところそこまで似ているわけでもない。ただ、どちらかというと『ぼくらのウォーゲーム』の方が現実の地続きなので、物語に入っていきやすく、皮肉なことにブラッシュアップして実写とみまごう写実感を表現した『サマーウォーズ』よりも、リアリティは上なのだ。

というわけで、評判の高さも頷ける噂通りの快作。『サマーウォーズ』を見て、あれれ?と思った人もこちらを見ると納得するかもしれない。あういぇ。

サマーウォーズ [DVD]

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