『孫文の義士団』

昨日の日記に『イップ・マン 序章』のことを書いた流れがあるので、幸いにも近所のシネコンで上映されたので、すんなり観ることができた『孫文の義士団』について書いてみます。映画を観るときは“泣ける”ポイント(“泣ける”って表現もなんだかね)は求めないのですが、とにかくもう熱くて、涙が出てしまうわ、喉は鳴るわ、大変でした。
思想が人の生死を左右する時代。フランス革命大正デモクラシー大逆事件レジスタンスみたいなものをイメージするけど、この映画もまさにそのような苦闘と激動の時代が舞台。思想のために人生を捧げる、今は苦難を得ようともこの先の国の未来(子孫)のために自分の命を捧げる。…自分のようにぼんやりした人間が、安易に想像して「あぁ分かるような気がする」と思うことすら憚られるような苛烈さ。この映画は“自由”“平等”を語る政治家の話しを、きらっきらした目で見ている若者の目の前で、彼が暗殺されるところから始まる。ストーリーのキーとなる要素は冒頭で示されてる。思想を単なる理想やideaに終わらせまいとする活動家(及びその支持者)と暗殺者たちの物語(英題:Bodyguards and Assassins)。
日本の群像劇:『忠臣蔵』は、討ち入りまでの駆け引きや策略、四十七士それぞれの人生やドラマを掬い取ることで、最後の討ち入りがクライマックスの盛り上がりを見せる。冒頭では顔だけ見ても、なんとも思わなかったような(言い方は悪いけど)雑魚キャラ、なのに、クライマックスの討ち入りで斬られる姿を見ただけでもう泣けてくる。…これがドラマ、伏線、フラグ立て。ベタでもそれが丁寧にされていたら、もう盛り上がる、というかそのフラグ立てだけで泣けてしまう。『孫文の義士団』においては前半の伏線をぱりぱり張っていく時点から、もうヤバかった。明日ミッション決行なのに、明後日の約束するとかさ、もうアカンやん。
さて、そのミッションとは。日本からやってくる孫文先生を無事に会合の場所へ連れてゆき、革命を成すための会議の1時間、孫文先生を守り抜くこと。
十三人の刺客』でも命を投げ出す覚悟でミッションに臨む男たちの姿が描かれてたな、と思い出す。「みなごろし」とか、燃えるポイントはたくさんあったけど、なんといっても説得力があったのは、吾郎ちゃんのキチ演技で、「こんなキチガイが幕府の重要ポストに就いたら、この世の中エライことになるよ」という危機感でしょう。吾郎さんが登場する度にキチ度がアップしていくから、観ている方も「こ、これはイカン…」という思いを深くして、どんどん役所さんたちに肩入れしていく。そういう意味でも吾郎さんの演技はよかった。これがダメならもう全然説得力ないものな。キチガイ君主を重要ポストに就けようとしている主人をたしなめることはできない。でも国を憂慮すれば、主人の意に反してまでもこのミッション(吾郎暗殺)を秘密裡にぜひとも成し遂げねばならない…こんな切迫した動機があるからこそ、現代に生きる自分が観ても共感して肩入れしてしまうわけです。
孫文の義士団』で描かれている、“自分の生きている間に成し遂げることは無理だとしても、いま革命を起こさねばこの国は腐敗の一途をたどってしまうから、政治を自分たちの手で成す体制へと変革をなさねば!”という思いは近代以降〜現代にも通じる普遍性があるから、響くし説得力あるな、と思った。その思想は今回のミッションに参加した者みんなが共有してたわけじゃない。けれど物語の求心力である孫文に体現させている理想と信奉へのブレないから、そのあとに追随する者たちのドラマ部分もしっかりしてたな、と思う。車引きのアスー(ニコラス・ツェー)なんて、孫文の思想は分からんけれど、自分が慕っている、恩義を感じている主人が命を賭けることならば、なんとしても助けたい、という思いだけであんなふうに衝き動かされていると思うと、ああ、もうアカンですよ、この時点で。
あと、キャラがイチイチ立ってた。孫文上陸からの最初の見せ場はメンケ・バータル演じる臭豆腐売り。弁慶状態。でもやるんだよ!うわぁ、たまらん、涙ダラーッ…。「オレの名前はワン・フーミンなんだよぉぉぉ」命が尽きる前、自分を覚えておいて、忘れないで、ってやっぱり思うのだな、その心の奥底からの声に震える。続いてクリス・リー演じるファン・ホン。めちゃかっこいい!決して美人じゃないけど、目力とその存在感が印象的でした。前半の見せ場、父親役のサイモン・ヤムとのくだりが生きてる。サイモン・ヤムもかっこよかったなぁ、いい役。…この二人は“あの父にしてこの娘有り”と思わせる嵌っているキャスティングでしたよ。レオン・ライ演じる物乞いのユーバイは、ラストファイトを前に髪を洗ってさらさらヘアにして、鉄扇アクションとなびく長髪がいいあんばい。ワン・ポーチエ演じるリー・チョングァンも「ええとこの息子」でありながらその身を理想に捧ぐさまを熱演。フー・ジュン演じる暗殺団のラスボスも役柄にふさわしい、いい顔。
群像劇としてよくできてたし、アクションにもワクワク。映像もきれいでした。孫文の顔もちゃんと映したしね。…あ、忘れちゃいけないドニーさん。苦悩してたなぁ。ダメ男だったなぁ。前日に『イップ・マン 序章』観てたんで、そのキャラとの差を補正するのにちょっと時間かかった、かも。でも、ダメ男なりに忠義を尽くす様は壮絶でした。まさかの最後…ひやぁ…。
熱い、あっつい物語。その熱さを冷笑しない人とは友達になれそう、とちょっと思ったのでした。

孫文の義士団』(2009/中国=香港)監督:テディ・チャン 出演:ドニー・イェンレオン・ライニコラス・ツェーファン・ビンビンほか
http://sonbun.gaga.ne.jp/index2.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17813/

ファン・ビンビンをずっと“娘”だと思ってたので、“ヨメ”とわかったときは相当驚いた
エリック・ツァン、大物オーラ。
※自分のはなし。昔は冷静沈着と言われがちだったのですが、ここ数年で、ちょっと熱いんちゃう、といわれるようになり…熱いの上等じゃん!だからこの映画も大好きですよ。