「TIGER & BUNNY」のシナリオ力とタレント性への目線 - ピテカンバブーの逆襲

 

 
春アニメで、一番ハートを持っていかれた作品TIGER & BUNNY
 
まだまだスタートを切ったばかりの春の新作群。アレやコレやと語るのは、若干時期尚早な感もあるのですが、本作の「語りたくなる欲」を刺激してくれるエネルギーが凄まじいので、やっぱりアレやコレやと感想文を。とりあえず、今回は序盤の時点で自分が感じたシナリオ力についての感想を書いてみたいと思います!
 
 

■「TIGER & BUNNY」第一話。鮮やかなストーリーのスタートライン

「ヒーローが企業のスポンサードを受け、ロゴを背負って悪と戦う」というアイデアが何ともインパクト大な本作。第一話では、そんなコマーシャリズム溢れるヒーロー達の活躍を中継するテレビ番組「HERO TV」のライブ放送という体を使って、物語の導入部をクリエイトしていました。
 
「ヒーローとスポンサー」「正義と視聴率優先のテレビショー」という相反する二つの要素を物語に組み込むことで、"ファンタジー"と"リアル"の境界線を複雑に行き来する「TIGER & BUNNY」の世界ではありますが、このストーリーのスタートラインは本当に鮮やかで印象的なものでしたよね。
 

 
何が凄いって、強盗犯の一味を追掛けるヒーローたちの姿を「テレビの中継」というワンギミックを使って描くことで、極々短い時間に各ヒーローとビジュアルと特殊能力を明快にまとめあげたこと。そしてヒーローを使ったショービズに関わる人々やヒーローに熱狂するテレビの前のファンの姿も同時に映して、このユニークだけれども、ややシニカルで毒の効いたメタフィクショナルな世界を非常にスマートに描き切ってみせた
 
こういうヒーローもののアニメって、第一話では主人公がヒーローになる過程であるとか、ヒーローを目指そうとするモチベーション、「ヒーローになるまで」を出発点に持ってくるのが定石だと思うんですけど、TIGER & BUNNY」では登場人物が全員ヒーローなんですよね、最初から。本来なら第一話に持ってくるべき、「ヒーローの誕生」を斬新な設定を提示しつつ大胆にショートカットすることで生まれる独特のニュアンス。
 

 
そして、そんな中で主軸になっていたのが「ワイルドタイガー」こと鏑木虎徹の姿。ピークを過ぎたロートル・ヒーローの奮闘すれども上手くいかない「ヒーロー」としての活動と、そんな彼の前に現れる若く、華麗なニューヒーロー、バーナビーの眩しいまでの威光。
ヒーローたちによる華麗なショービジネスによる"正義"と並行して描かれる、中年ヒーローのショッパイ現実。そのアンビバレンツが生み出す、強烈なブルーズ。もう、こんなんを初っ端に見せられて、このアニメに期待をするなという方が無理ですし、虎鉄に感情移入するなというのは余りにも酷な話。…いやはや、何とも凄いシナリオだったと思います。
 
 

■「TIGER & BUNNY」の脚本家、西田征史ピテカンバブー

そんな凄いシナリオを書いた西田征史さんという脚本家さんの出自も調べてみると非常におもしろい。コレ、twitter「Subculic」のtatsu2さんがツイートをされていたんですが…。
 
 
実は、「TIGER & BUNNY」の脚本家さんは元お笑い芸人だった!
 
調べてみれば、西田さんはホリプロに所属していたお笑い芸人ピテカンバブーの片割れ。ピテカンバブーといえば、自分みたいな所謂「第4次お笑いブーム」…当時の人気バラエティ番組タモリボキャブラ天国が巻き起こしたお笑いブーム直撃世代の人間だったら、その名前が記憶の片隅にある方も多いはず。
 
爆笑問題ネプチューンつぶやきシローといった人気芸人の飛躍のきっかけとなり、かつて日本のテレビ、芸能界に独特の大ブームを巻き起こした「ボキャブラ天国」。ピテカンバブーは、まさにそのブームの狂騒の中で活動をしていたコンビで、同時代に、同事務所の所属であったフォークダンスDE成子坂坂道コロコロマイマイカブリといったコンビと共に"ホリプロ"のお笑いコンビとしてお笑い雑誌なんかでよく名前を目にしていた記憶があります。…ただ、ピテカンバブーって、つぶやきシローフォークダンスDE成子坂坂道コロコロに比べると、正直かなり地味だった印象があるんですが…
 
そんな西田さんがコンビ解散後に脚本家に転身して、今期の話題作を手掛けているというこういう巡り合せのおもしろさですよね。で、そんな知識を得た後で、「TIGER & BUNNY」を見てみると、また違ったフィーリングが見えてきます。
 
ここからは、かなり個人的かつこじつけ気味な感想になってしまうんですが…まず、「ヒーローをタレントとして描く」っていうこのアイデアですよね。キャラクターの"タレント性"に注視した上で、ヒーローアニメの脚本を書くアイデアとセンス。それっていうのは、脚本家さん自身が元タレントっていう出自に大きく関係しているんじゃないかな、なんて自分は勝手に思い込んだりするわけです。
 
で、そのタレント性への目線っていうのが、この「TIGER & BUNNY」の世界で…とりわけ、虎徹という主人公を取り巻く環境の中で非常に大きな意味を持ってくる。
 

 
例えば、人気が落ち目であるワイルドタイガーは犯人を捕まえてもカメラは自分に回ってこないのに、若くて人気のあるヒーロー(タレント)は、少し活躍しただけでスポットライトとヒーローとしてのポイントが与えられる。あるいは、グッズの売り上げによって自身の人気と活躍が可視化されてしまう。
虎徹は…ワイルドタイガーは決して弱いヒーローではありません。不器用で正義の為なら見境がなくなってしまうところはあるけれど、それでも立派に正義のヒーローを務めようと、街の平和を守ろうと努力を続けている。
 
そんなヒーローとしてのアイデンティティーとアティチュードとは別の次元…人気やビジュアルで"ヒーロー"として価値観が計られてしまうのが、「TIGER & BUNNY」の世界であり、ヒーローものとして異端でありながらユニークなところ。こういう目線っていうのを考えた時に、脚本家さんが元お笑い芸人っていうのは、個人的にかなり興味深い事実だと思うんですよ。
 
中でも、特に「これ凄いな…」と思ったのが…。
 

 
困っていた子どもを助けるんだけど、その子が別のヒーローのファンであることが分かるシークエンス。一見すると、コミカルさもありつつ、コレ相当にキツいシーンですよ。
 
実は、自分、有名企業とのコラボレーションや、キャラクターを使うことでアニメ本編とCMがシームレスになった構成よりも、コッチのシビアな"芸能界"の描写に衝撃を覚えたんですよね。コレは凄いと思った。で、後日、脚本・構成作家さんの出自を知って、妙に納得をした次第。この辺の描写には、今後も注目をしていきたいと思います!
 
 

■まとめ

「ヒーローとは何か?」という根源的な問いを作品の主軸に据えながらも、ユニークなギミックや異色の脚本家さんの存在も気になる「TIGER & BUNNY」。
果たして、ストーリー自体もどのような方向に進んでいくのかまだまだ未知数な部分もありますが…。今後の展開からも目が離せそうにないです!
 
 
 
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