"現実と戯画の狭間で彷徨う空手ファンタジー"『KG』
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かつて伝説の空手家と呼ばれた紅宗次郎……その黒帯を継承者する紅道場が襲われ、道場主は殺され、黒帯は奪われ、幼い二人の娘のうち、妹の方がかどわかされてしまう。だが、道場主は死の間際、残った長女に全てを託していた。奪われた偽物ではなく、本物の黒帯と共に紅の技と名を……。それから十年。横浜ブルク13において、ひったくりを空手で捕らえる少女の姿があった。それこそ、かつて生き残った娘……紅家の長女にして継承者、紅彩夏であった。
さて、未見の方はこの映画を見る前に、そうでない方もぜひ、今作の製作者・西冬彦の前作である、『黒帯』の公式サイト(http://kuro-obi.cinemacafe.net/)を見て欲しい。ご注目いただきたいのは、「黒帯誕生まで」の項だ。そこを読めば、なぜ『黒帯』であり『KG』(カラテガール)なのか、なぜ今「空手」なのか、その疑問が氷解するのではと思う。
チャウ・シンチーがなぜカンフーにこだわるのか。なぜトニー・ジャーがムエタイの映画を撮り続けるのか。それと同じ動機が、西冬彦にはある。空手でなければならない。そうでなくては意味がないのだ……。
で、その前作『黒帯』だが……ごめん! 観てない! いやね、ずっとamazonの欲しいものリストには入れてるんですけど、なかなか安くならないんで……。そのうち観るから! 飯田譲治・梓河人のノベライズ版は読んだから、それで勘弁して下さい!
全体のストーリー(とその突っ込みどころ)に関してはこちらの小覇王さんの記事(http://d.hatena.ne.jp/susahadeth52623/20110306/1299398120)が詳しいのでご参照下さい(手抜きではない! ネットというのは集合知なのだ! しかしこのこっちとの公開の時間差は一体……)。
妹の方がドラマが濃く、主人公に葛藤とブレイクスルーがないのがもったいない。妹は、組織に引き込まれアイデンティティを喪失し、それが姉との再会によって再生する変化が描かれているのだが、主人公である姉の方はそういう揺らぎがないのだよねえ。もっと挫折や敗北、あるいは空手やっているということを隠している序盤に、そのことに対するもどかしさを抱いている描写等入れたら、もっと濃密になったと思う。
本来、ダブル主人公と言っていい構成なんだろうが、妹役の子が超地味だからなあ。技の切れは武田梨奈以上かとも思えたが……。まあ女の子って変わるし、こ、これから化けるかなあ……。
「空手」、特に「型」を見せることに重点を置いたアクション演出は素晴らしい。ノースタント、ノーワイヤーが売りだが、やはり目を奪うのは「型」の美しさだ。武田梨奈はきっちり鍛えている人間らしく、太ももの充実ぶりが印象的。女性特有の伸びやかさ、しなやかさを重点的に見せ、姉妹による呼吸と動きの合致によって「型」の重要性を説く。妹が紅流の構えを取ると急に強くなるのだが、あれはさほど非現実的なことでもない。キックボクシングでも、構え方一つで攻撃も防御も効率性が大きく変わる。さように「型」というのは重要なのである。
姉妹が型を決めるシーンには、『グリーン・デスティニー』におけるチャン・ツィイーとミシェル・ヨーの対決シーンにも通じる、様式美の可能性を感じたなあ。
木刀男との対決を前に、なぜか脈絡なくヌンチャクを持ち出した奴がでくの坊のように倒され、そのヌンチャクが主人公の手に「偶然にも」渡ってしまうところとか、思わず「いいぞいいぞ」と拍手してしまう。本当はもっと自然にやってほしいけどね。
空手道場が殴り込みに合い、門下生が全員蹴り倒された後で武田梨奈との対決を迎える……のだが、この対決シーンになった途端、倒されてそこらへんでうんうん言ってるはずの門下生達が全員消滅するのだ! 倒したゾンビが消えてしまう『バイオハザード』のようなゲームを連想。クライマックスは地下施設からいきなり雨の屋上に出て対決、しかし仕切り直した頃には雨も上がり、地面はもう乾いている……どんな時間経過なんだ! 演出としてありかなしかと言うと、もちろん「なし」だが、撮影スケジュールの問題などの「大人の事情」を大袈裟に戯画化するあたりの開き直りとも取れる。後者はかの『LOVERS』でもっとすごいのがあったからなあ(夏に戦ってたはずなのに雪が降り出す)。古い特撮もので、ヒーローと怪人が街中で戦っているのだが、組み合ってえいやっと飛んだ先はいつもの石切り場、というあの呼吸に近いものを感じるのだ。
ドラマ部分の演出が全体的にもっさりしてて説明台詞も多いんだが、少年マンガチックな「強い……!」とか「紅の血が目覚めたか」とか、大仰さを煽るようなものはそんなに嫌いじゃない。
型だけでいいから、ちょっと空手を習いたくなった。傑作とはお世辞にも呼べないがやりたかったことはわかるし、その気持ちに対しては好感を持つ。
しかしなぜ「空手」なのか、ということでその「空手」と「黒帯」を権威化したファンタジー世界を設定したことに対しては、その戯画性に妙な「照れ」を感じたことも事実である。「空手」とは何か、というテーマ性を語りたかったのはわかるが、ここまでマンガチックな設定が必要だったのだろうか。冒頭の、映画館で空手が炸裂する日常の中の非日常性が、言うなれば『キック・アス』的なシュールさを帯びていたのに対し、後半は閉じた世界に逃げ込んで行くように感じられる。そこに、いざ批判を受ければ「いや〜、これはこういう設定なんで」「空手ファンタジーなんで」と逃げを打つような不誠実さを感じる、というのは厳しいだろうか。特撮作品でも「子供向けなんで」と逃げては批判を受ける時代だ。もう少し考えて欲しいところ。アクションの完成度、型のリアルさによって本物としての説得力を生むだけでなく、敢えて日常の中に「空手」を配置する……そうすることで、その尊さが見えて来る……そうあるべきではなかろうか。
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