プロマネブログ

とあるSIerでプロマネやっているオッサンです。主にシステム開発ネタや仕事ネタ、気になった三面記事ネタの解説なんかしてたりします。

米国IT業界に過去あった多重下請構造、それが破壊された理由

日本のIT業界を「SIガラパゴス」と言う前に知っておきたい海外ベンダ事情 - プロマネブログ

 

 前回の記事を書いたあと、うっかりしていたことに気づいたので、追記です。

ユーザ企業とベンダ企業との関係については、他国との比較を色々書いたのですが、多重構造について深堀り書くのを忘れてました。

 

米国の事情についてもうちょい書きます。

 

下請構造が崩壊したアメリカ

端的にいうと、米国にも日本と同様の下請構造は過去ありました。

 

日本と同様に、元請けが大規模な案件を受注し、それを2次3次請けにシステム開発再委託するという構造です。

 

政府調達元請けの平均60.4%が下請け及び補給品に再投資され、それらのさらに平均83.2%が3次へ再投資、さらにその83.2%が再々投資、と繰り返される事により、初期調達額$369M(元請けのみ)は、上記再投資の構造より算出される係数2.06を乗ずる事により、$759Mと推計される。これは、中小ソフトウェア企業の売上高総計の2.3%にあたる。

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上記の資料にあるように、米国でも元請けが受けた仕事の過半数を2次請け、3次請け、4次請け・・・という形で複数の企業に再委託している姿が伺えます。

前回の記事に書いたように、一時的な技術者需要を有期雇用契約でまかなっていた米国。これは、丁度日本のIT派遣のような役割を果たしている形となります。

つまり、過去米国での開発は、多重請負構造+有期雇用(契約社員)により、システムを開発していた形となります。

 

おおよそ20年前、つまり、90年台半ばまでは、派遣か契約社員の違いはあれど、アメリカも日本と全く同じで多重請負構造だったというオチとなります。

まあ、よくよく考えて見れば、日本のIT業界は米国IT業界を追随しているとよく言われているわけで、業界構造も真似ているワケですね。

 

その構造は、90年代後半より急激に崩れることとなります。

 

IT産業でのアメリカの下位企業の業績の悪化のペースはまことにすさまじい。97年頃から急速に悪くなり、しかも、大きな赤字のまま、2004年まできてしまっている。

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米国IT産業 「利益率格差」の衝撃 : プレジデント(プレジデント社)

 

上記の引用元のプレジデントの記事では、米国中小IT企業の低迷を原因不明としてますが、オッサンは一つ仮定を持ってます。

丁度時期を同じくして、90年台半ばより、米国の元請けを行うような大企業(IBMやHPなど)は、本格的なインドオフショアを開始してます。IBMが1992年にIBMインドを設立。オフショア拠点として育成を開始してます。

この時期、オフショアは急激に開発能力を向上させてきました。下流工程をただ請け負うだけでなく、上流工程の設計などにも手を伸ばせるようになってきました。

これにより、従来米国の下請ベンダーの担当領域にオフショアが食い込んできたのではないか、と思われます。

結果、元々は日本と同じように米国下請け企業に仕事を流していた元請けが、仕事の委託先をオフショアに切り替えたことで、急激に業績が悪化したのではないか、と思われます。

 

※実際、この時期のアメリカIT関連のメディアには「オフショアに仕事を奪われるIT企業」「オフショア:痛み無くして収益なし?」みたいな記事が踊る形となります。

 

※とはいえ、完全に中小ベンダがなくなったわけではないようなので、ほそぼそと多重下請け構造が残っているのかもしれません。ニッチな開発を主体にしているのかも。

 

 

 

とまあ、このような形で、米国における多重請負構造は、オフショアの台頭により中小ベンダにダメージを与える形で縮小したと考えられます。

 

本当に日本のIT事情は特殊なのか

さて、上記の内容をまとめると

  • 米国も過去多重請負構造があった
  • 多重請負構造を破壊したのは、オフショアの台頭と開発力の向上
  • 多重請負構造の破壊の結果、中小ベンダが大打撃を受けた

みたいな感じですね。

 

というわけで、

世界で類を見ない日本SIビジネス、そしてそれを支えるIT業界の多重下請け構造を「SIガラパゴス」と名付けて、その問題点を指摘してきた

木村岳史の極言暴論! - SIガラパゴス、多重下請け構造の終焉の始まり:ITpro

という元々記事に対する指摘ですが、

  • 前回記事に書いた世界中の国でのベンダーとユーザ企業の関係。他国だってベンダにお任せは当たり前にある。
  • 今回記事に書いた多重請負構造。アメリカもオフショアが本格的に利用されるまでは多重構造だった。

と言った理由から、いずれをとっても日本をガラパゴスと呼ぶのは違うだろう、というのがオッサンの考えとなります。

 

 

まとめ

とまあ、色々書いたわけですが、「では、日本がアメリカと同じように多重下請構造が破壊される時は来るのか」という問題があるわけですね。。。

 

ココらへんのオフショア事情については、過去記事にもちょろっと書きました。

 

フルスタックエンジニアもオフショアに脅かされる未来 - プロマネブログ

2014年近年のオフショア事情 - プロマネブログ

 

正直なこと言うと、体感としてオフショアの開発力はかなり向上してきており、丁度アメリカの多重下請構造が破壊された状況と近づいてきているのでは、と言うのは少し感じます(皮肉なことに、元々記事の内容とこの認識は一致してしまいました)。

 

これによりアメリカと同様、委託先が大打撃を食らうのが嫌なので、

所謂上流工程については、文化的な面、言語的な面、法律など周辺知識の面で、オフショア側ではタッチできない領域です。ユーザとのコミュニーケーションも日本人がまだまだ有利です。こういったオフショアが手を出せない部分で日本人エンジニアが活躍する領域はまだまだあります。この部分を攻めるのもひとつの戦略でしょう。 

 と言った感じでオフショアと競合しない部位でエンジニア仕事ができるよう、調整しているのですが。。。

まあ、オッサン一人の調整でどこまで出来るか。。。心配に感じる部分はありますね。

 

※とはいえ、業界全体で見ればオフショアをきちんとコントロールできる元請けプロマネがどれだけいるのか、という問題もあるのでそこまで問題化しない気も。。。

 

以上