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西 健一氏と大渕善久氏が放つAndroid用無料ゲーム「コビッツ」。そのコンセプトとAndroidプラットフォームに思うこととは?
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印刷2011/06/28 15:15

インタビュー

西 健一氏と大渕善久氏が放つAndroid用無料ゲーム「コビッツ」。そのコンセプトとAndroidプラットフォームに思うこととは?

 5月24日,NTTドコモのAndroid端末向け(Android 2.2以降)に,「コビッツ」と名付けられた農園系のソーシャルゲームが無料でリリースされた。

画像集#002のサムネイル/西 健一氏と大渕善久氏が放つAndroid用無料ゲーム「コビッツ」。そのコンセプトとAndroidプラットフォームに思うこととは?

 この作品は,「moon」「ちびロボ!」など個性的な作品で知られる西 健一氏と,西氏が監督した「PostPetDS 夢見るモモと不思議のペン」のプロデューサー,大渕善久氏の2名が中心となって開発されたタイトルだ。
 これまで長年にわたってコンシューマタイトルを多く手がけてきた両氏が,Android向けにゲームを開発したのはなぜだろうか? 今回,両氏に直接インタビューする機会を得たので,コビッツの見どころとともに,変化の著しいスマートフォン市場について思うことなどを聞いてきた。

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Android Market「コビッツ」



エネルギーを生み出す不思議な生き物“コビッツ”を

農園ゲーム感覚で育て,売っていこう


 まずは,コビッツの内容を簡単に紹介していこう。
 ゲームの舞台は,現代の地球によく似た環境と文化を持つ,とある星。この星では,惑星探査船が宇宙から持ち帰ってきた謎の種子から産まれた,エネルギーを放出する生き物“コビッツ”によって,あらゆるエネルギー需要を満たしている。
 そんな星で暮らすプレイヤーは,“コビッツプロバイダー”として,南の島でコビッツを育成,収穫する役割を担うのだ。
 ゲームの流れとしては,コビッツのもととなる種を植えて,それが育つまで一定時間待ち,成長したコビッツを収穫して売ることでお金を貯める――というもので,ソーシャルゲームの中でも一大勢力を誇る,いわゆる農園系のシステムが採用されている。

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 ただし,本作がほかの農園系ゲームと一線を画しているのは,「コビッツがエネルギーを生む」という設定にある。
 というのもコビッツは,それぞれ1体あたりの放出エネルギー量が決まっていて,この値が多ければ多いほど,コビッツ売却時に得られる“マネ”という通貨の額も増えるのだ。だが,実はエネルギーは売るためだけのものではなく,種子を植える土壌を整えるための“マシン”や,島を装飾するための“電飾ボード”などを動かすためにも,必要不可欠。
 つまり,何をするにもエネルギー=コビッツありきの世界観と,実際のゲームシステムが密接に関わっているのである。

 また,エネルギーを放出し切ったコビッツは“デスコビッツ”と呼ばれる亡骸となり,島の片隅に溜まっていく。これを片付けずに放置していると,海から“デビルコビッツ”なる巨大な生物が現れ,コビッツ達の成長をストップさせてしまう。これを追い払うには,デビルコビッツの苦手なガムラン音楽(!)を流すスピーカーを設置しなくてはならないのだが,これにももちろんコビッツのエネルギーが必要だ。
 このほかにも,成長したコビッツを収穫しないまま放置していると“野良コビッツ”として勝手に動き出してしまったり,友達から贈られた“レイ”(花輪)を島に鎮座するコビッツの像にかけることでデビルコビッツのやって来る確率を下げたりなど,さまざまな仕掛けが用意されている。

 ――と,このように,一見するとよくある農園系のようでありながらも,西氏らしいメタファーやテーマ性が詰め込まれた,個性的な作品に仕上がっている。
 そんな本作の開発は,どのようにして行われたのだろうか? 次段からのインタビューで,その経緯からAndroid用ゲーム開発の実情まで詳しく探っていこう。

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メッセージは分かる人だけ分かってくれればいい

カジュアルに遊べるゲームとして「コビッツ」を作った


4Gamer:
 「コビッツ」のリリース,おめでとうございます。
 まずは,どういった経緯でこの作品を作ることになったのかを教えてください。

西 健一氏。「コビッツ」ではディレクターとゲームデザイナーを務める。本文でも触れている「moon」や「ちびロボ!」のほか,最近では「天外魔境JIPANG7」なども手がけている
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西 健一氏(以下,西氏):
 ちょっと話が長くなっちゃうんですけど,「PostPetDS」でプロデューサーだった大渕が,昨年マーベラスエンターテイメントを退社したんですね。

大渕善久氏(以下,大渕氏):
 それで「2010年中はゆっくりしていたいな」と思っていたんですが,西に「それならちょっと手伝ってくれないか」と声をかけられまして。

西氏:
 何か一緒にやろうよ,と。

大渕氏:
 で,いろいろなパブリッシャへ企画のプレゼンをしに行っていたんです。そして最初に決まったのが,このコビッツだったんですよ。

4Gamer:
 NTTドコモのAndroid端末向けにリリースすることは,その時点で決まったんですね。

西氏:
 ええ。僕の中には,「エネルギーを生み出す生物を育てる」というアイデアが以前からあったんですが,それをコンシューマ用にするか,オンラインゲームにするか,それともソーシャルゲームにするかで悩んでいたんです。同じネタでも,どこにどうアプローチして持っていくかで,展開が変わりますしね。
 結果としては,クライアントにこのネタを持っていった際に,ソーシャルゲームでやりましょうということに決まりました。

4Gamer:
 世界観はかなり独特ですが,基本となるゲームシステムに関しては,ソーシャルゲームでよく見かけるものになっていますよね。この狙いを教えてください。

西氏:
 まあ,よくありますよね(笑)。ざっくり言うと,農園系の「どんどん大きくしていきましょう」「どんどん稼いでいきましょう」っていうゲームですから。
 スマートフォンでゲームを遊ぼうという人にどんな人が多いかを考えると,とにかく遊びやすいものにするべきだろうということで,こういうシステムを採用しました。

4Gamer:
 少しでも間口を広くしておこうということですね。
 海からやって来る“デビルコビッツ”は,言ってしまえば産業廃棄物のメタファーっぽく感じられるなど,世界観に独自色はありますよね。

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西氏:
 産業廃棄物や原発の問題を,微妙に絡めているんだかいないんだか……という感じですね。エネルギーをガンガン使って,コビッツの亡骸を野晒しにしていると,そういうのが来ちゃうよと。

大渕氏:
 こういう時期にこういう内容がぶつかってしまったんですが,別に「電気が足りない」という状況になってから作り始めたのではないんですよ。タイミング的には,本当にたまたまなんです。なので,特別「反●●」というメッセージを込めているわけではありません。

西氏:
 具体的に原発をイメージしているわけではありません。大きなテーマとしては「感謝の気持ちをもって世界と向き合いましょう」みたいなつもりでいるんです。それを表現するために,エネルギーを無駄にしたり亡骸をないがしろにすると海から悪いものを呼び寄せちゃうよ,という仕組みを入れただけで。
 ただ,セリフがあってストーリーがあって……というゲームではないので,そういうバックボーンの設定については,感じる人が感じてくれれば,それでいいんです。基本的には,ちょこちょこと遊べるゲームですから。

4Gamer:
 世界観やテーマを特別意識しなくても楽しめるようになっているわけですね。

「コビッツ」でプロデューサーを務めた大渕善久氏。マーベラスエンターテイメント在籍時には「PostPetDS 夢見るモモと不思議のペン」や「ヴァルハラナイツ」シリーズなどをプロデュースしてきた
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大渕氏:
 ええ。世界観に関して付け加えて言うと,南の島でコビッツを栽培するというのは,ゲームの世界の中では“第1部”みたいな位置付けなんです。まあ,その後の話をゲームでやれるかどうかは,まだ分からないんですが……。

4Gamer:
 ということは,すでに続編の構想が?

大渕氏:
 続編というか――本来四つのパートからなる作品の,第1パートとして作ったのが,今回のコビッツなんです。

西氏:
 実は“コビッツサーガ”なんですよ(笑)。前日譚も後日譚も構想にはありますし。

4Gamer:
 場合によっては,そういったものがアップデートで追加されていくということでしょうか?

西氏:
 まだ具体的には決まってないんですけどね。
 クライアントとも「壮大に膨らませて作っていきたいですね」というところから始まってますので,反応が良ければ続いていくでしょうし,反応が悪ければここで打ち止めです。だから評判がいいと嬉しいんですが(笑)。

4Gamer:
 プレイヤーの反応次第で,今後の展開が変わるわけですね。

西氏:
 はい。コンシューマゲームの場合,「作り終わったら,それで終わり」という仕事で,それはそれで面白さはあるんですけど,状況を踏まえながらいろいろとアレンジして追加していけるというのは,こういうプラットフォームの面白さだったりするんだな,と思っています。

4Gamer:
 何とかコビッツサーガを完結させられるといいですね。

西氏:
 ですね。作りたいネタ自体は,けっこう貯まってますから。島が舞台じゃなくて,ロケットをどかんと打ち上げてほかの星に行って,違うコビッツを見つけるとか。そもそも,「何で惑星探査船がコビッツを見つけてきたのか」という謎を解明したりとか。

4Gamer:
 では次回作があるとした場合,ゲームシステム自体もまるで違うものになるんでしょうか?

大渕氏:
 新しいシステムを採用したり,見た目もドラスティックに変わるかもしれませんが,やらなきゃいけないことや基本ルールは一緒ですね。エネルギーを作っていかなければならないというのが世界観の軸ですから,そこは変わりません。ただ,友達と一緒に協力しないとできないことは増やしていきたいですね。

西氏:
 例えばRPGで,「バトルで敵を倒して強くなる」という設定があれば,未来でもSFでもファンタジーでも,いかようにでもアレンジできますよね。それと同じ感じで,「育てて売りましょう」「エネルギーを産出して世界を動かしていきましょう」ということを軸にしているので,この部分をどう発展させていくかですよね。

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カジュアルなゲームが増えていったからといって

ハイエンドなゲームがなくなるわけではない


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4Gamer:
 ちなみに今回,西さんと大渕さんは,どういう役割分担をされていたんですか?

大渕氏:
 西は基本的にゲームデザイナー,ディレクターという役割で,自分はプロデューサーですね。ドコモさん側にもプロデューサーはいるんですけど,自分はクリエイティブ部分をまとめていくラインプロデューサー的なものをやっています。

4Gamer:
 クレジット上は,開発「コビッツ制作委員会」となっていますよね。これはなぜですか?

西氏:
 単純に,僕らだけで作ったわけじゃないからです。
 クライアントと最初に会って,開発が決まったのが2010年のクリスマス頃だったんですよ。普通はそこから双方の事務手続きなどに1か月ぐらいかかるものなんですが,今回はとにかく「急いでくれ」と言われまして,すぐに作り始めました。

大渕氏:
 そもそもAndroid 2.2以降の端末に対応したゲームを作るというのは,当時,多くの会社が,手をつけたかつけないかという状態だったんですよね。それもあって,開発は経験があり,気心の知れたチームで行いました。

西氏:
 そうそう,企画やアートワークはプレゼン段階ですでに固まっていたんですが,それ以外のパートは馴染みのスタッフが参加しています。
 サウンドは僕と昔からつきあいのあるバンプールの安達(昌宣)さんが,オープニングのムービーは「ちびロボ!」などもやってくれたhikarinが担当しています。アニメーションも勝手知ったるデザイナーが,プログラムチームは大渕が良く知るチームです。

4Gamer:
 お話をうかがっていると,開発期間はかなり短かったようですが。

大渕氏:
 実際に開発を行っていたのは今年の2〜4月で,5月にデバッグですね。

4Gamer:
 コンシューマゲームの開発では,あり得ないスピードですね。

大渕氏:
 無料コンテンツなのでボリュームもカジュアルですから,そんなに無茶なスピードではありません……いや,初めてのOSでの開発だったから,多少は無茶だったかな(笑)。


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4Gamer:
 ちょっと話題を変えます。
 ここ最近,コンシューマゲームメーカーを独立した方が,カジュアルゲームやソーシャルゲームを作っているという印象を受けますが,皆さん一体,何に惹かれているのでしょうか?

大渕氏:
 僕が感じていることとしては,西と開発したPostPetDSもそうですし,マーベラス時代に関わった「リヴリーガーデン」や「牧場物語」もそうなんですが,ライト層に向けた中堅どころのゲームというのが,商売になりにくい時代なんですよね。
 コンシューマのような売り切りの市場だと,新規IPに対して最初から何億円という投資はしにくいですし,多大な宣伝費を投入するわけにもいきません。

4Gamer:
 リスクの大きな賭になってしまうわけですよね。どこの会社も,そのあたりで苦しんでいる様子はうかがえます。

大渕氏:
 一方,スマートフォンなどのカジュアルゲーム市場は,基本無料が前提なので,手にとってもらいやすいんですよ。そこに魅力を感じました。
 確かにハイエンドなゲームを作るのであれば,コンシューマでやるべきでしょう。でも,カジュアルな層に“ある程度ちゃんとした”ゲームを提供しようとするならば,Androidスマートフォンという選択肢はかなりポテンシャルがあるんじゃないかと思っているんです。

4Gamer:
 なるほど。開発の規模が小さくても,ほかと比べて見劣りしないゲームを作りやすいのが,Androidであると。

大渕氏:
 ええ。今回の開発は短期勝負だったので,プログラムのある部分などは,信頼性を高くするために原始的な作りなんですが,きちんと遊べるものになっています。
 今後,もう少しビジネスとして大きめなところを狙っていこうとするならば,より洗練したエンジンを作ることもできますし,最近では,コンシューマとスマートフォンの垣根を越えてマルチ対応しているミドルウェアも増えてきています。

4Gamer:
 海外製のエンジンを使ったほうがいいとなると,それはそれで障壁に感じてしまう開発者もいそうですが。

大渕氏:
 いや,何でもかんでもハイエンドなエンジンを使わなければならないわけではないと思っています。技術的に高い物を作らないのであれば,それに適したもので良いですし。ただ……やはり洗練されたゲームを作ろうとするならば,今後は海外製のミドルウェアを活用していくのが効率的なのかな,とは思いますね。

4Gamer:
 一方,受け取る側の評価や,ゲームに対する姿勢などは,プラットフォームごとに大きく異なっているんじゃないかとも思うのですが。

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西氏:
 確かにそれはありますね。
 でも時代って,良くも悪くも変わるものじゃないですか。コンシューマでガチガチに作ってきた僕からすると,携帯とかスマートフォンでちゃちゃっと遊ぶゲームに対して,どこか「けしからん!」みたいな気持ちも少しはあったんですよ。
 でも,実際に自分もテレビの前に座って据え置き機を動かして……っていう機会が減ってきて,寝る前に横になりながらスマートフォンでゲームを遊ぶことが実際に多くなってきたんです。


4Gamer:
 あ,それは分かります。ゲームで遊ぶための時間を作ることであったり,心構えであったりというものがそれほど必要にならないんですよね。スマートフォンの軽いゲームなんかだと。

西氏:
 そうなんですよ。この感じって,レコードからCDに切り替わったときに,「デジタルは冷たい」「CDのジャケットはちっちゃくてつまらないけど,レコードのジャケットのほうが大きくって良い」みたいに言われていたのに近いと思うんです。僕もレコードからCDへの転換を経験しているので,CDに替わった時は「なんか随分ちゃっちくなったな」という気持ちもあったんですよ。でも,時代ってそうやって変わっていくわけで。淘汰されてレコード自体が消滅してしまったかというと,決してそうではなくて,ニーズのあるところでは今でも使われています。
 だから,ハイエンドなゲームが無くなっていくはずはないですし,だけど「そこまでゲームをやりたくはないけど,ちょっとは遊びたい」という人もいっぱいいると思うんです。これからさらにそういう人は増えていくんじゃないでしょうか。


ソーシャルゲームは“サービス業”

コンシューマゲームは“お祭りの出店”


4Gamer:
 そうした時代の移り変わりを,ゲームの作り手として寂しく感じたりはしませんか?

西氏:
 むしろ面白くなってきたと思いますよ。いろいろなアプローチがあるという点で。

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大渕氏:
 もう一つ,コンシューマゲームと違うのは――ソーシャルゲームって,基本的には商品や作品というより“サービス”だと思うんです。
 なので,お客さんがいないと成立しないし,ずっと続けてもらうための努力も必要ですし,コンセプトがぼやけていると,遊び続けてもくれないでしょう。そういう意味では,いかにプレイヤーに無理強いをさせず,心地よくゲームのコンセプトなどを楽しんでもらえるか? という部分が大事になってくると思うんですよ。

西氏:
 言ってみればソーシャルゲームって,お店を経営することに近いんですよ。お客さんの入り方を見て「ランチタイムをやりましょう」「雨の日サービスをやりましょう」みたいな工夫があるじゃないですか。
 コンシューマゲームは,でっかいお祭りのときに出店をボーンと出して「遊んでくれー!」ということをやる。そういうスペシャルなお祭りっぽさというのは,コンシューマゲームの面白いところです。ソーシャルゲームは,ずっとアップデートをしながら,人気のあるメニューはどんどん展開していくし,人気のないメニューは下げたり改良したりする。それこそ,お店の内装は一緒でもメニュー構成が月によって変わっていったりとか,そういう感じが面白いんですよね。
 これは,どちらが良いとか悪いとかではなく,そういう違いをそれぞれ楽しめたほうが,ハッピーだなということで。

4Gamer:
 ゲームの作り方も,プレイスタイルも,いわば非日常と日常の違いのような部分はありますね。

西氏:
 そうですね。コンシューマのほうは作り込んだ世界にドーンと入ってもらって遊ぶ形ですけど,ソーシャルゲームは日常の延長線としてちょっとやってもらう感じで。

4Gamer:
 作り方という意味で,今回とくに心がけたことはありますか?

大渕氏:
 ゲームをよく遊ぶプレイヤーを念頭に置いて,「プレイヤーは絶対にこう思うでしょう」という風に作っていくと,どうしても袋小路にはまり込んでしまう気がしています。カジュアルなゲームというのは,「多くの人にプレイしてもらえるか」ということが大事ですから。
 その点で今回非常に苦労したのは,入力インタフェースの部分ですね。タッチパネルメインの端末向けなので,ゲーム性をとにかくシンプルにしていく必要があると思いました。個人的には,アクション性が高く複雑なものは,あまり向いてないかなと思いますね。逆に,西がこれまで作ってきたようなジャンルのゲームは,非常にマッチするのかなと思っています。

西氏:
 大渕は「サービスの運営をするんだ」という意識が凄く強いんです。だからとにかく,「誰でも遊べるようにしなきゃ」と言い続けていました。
 その話で思い出すのは――僕はどうしてもコンシューマの手癖で,アメとムチでいうところのムチにあたる謎を置こうとすると,「気持ち良く遊んでいった延長線上に全部が繋がっていくように作らないと駄目だ」なんて言われたことですね。
 「イヤなことが起きない,ネガティブインセンティブがゼロのゲームにしよう」というのをキーワードにして,僕もそのつもりで作っているんですけど,大渕にはよく「また意地悪い感じになった」みたいなことを言われて,そこをずっと直していました(笑)。

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大渕氏:
 エネルギー問題がテーマで,「生物がエネルギーになる?」といった,そもそものコンセプトやルール自体が,すでに難しいものだと思っているんです。そういったコンセプトを理解してもらう前に,「ゲームも難しいし,何だかよく分からない」と思われたくないですから。
 実際にあった事例ですと,「“野良コビッツ”を収穫するときには,植物の状態で収穫しなかったペナルティとして,通常の倍の行動力を消費する」という仕様があったんですが,そこは「プレイヤーにとっては,野良コビッツを収穫しようが通常に収穫しようが,収穫するという行為自体は同じなわけだから,消費する行動力も同じにしましょう」という形で変更しました。というのも“動いているものをタッチして収穫する”というアクション性が入った時点で,場合によってはペナルティに感じてしまうんですよね。

西氏:
 そういうところは,意見が割れましたね。最終的には,今回は大渕の言うことを信じて作ろうと決めました。
 例えば野良コビッツの場合,三つ連続で取れたらコンボで倍の経験値が入るようにして,「苦労しているんだけど,良いこともある」作り方にしようとしたら,大渕は「苦労させない作り方が大事なんだ」というのを言い続けていて……。
 そう言われて自分で遊んでみると,次第に「ああ,自動で収穫してくれるマシンをもう1個追加したほうが良いな」みたいになっていくんですよね。

大渕氏:
 だから「コビッツは“ゲーム”なのか?」って聞かれると,今までゲームを作ってきた人間としては「ゲームではあるんだけど,異なるもの」と答えざるを得ないですね。ただ,ゲームというものの幅が凄く広がってきているという解釈をしたほうが,適しているのかなと思います。

4Gamer:
 何をもってして“ゲーム”であるととらえるという基準は,ここ数年で大きく変わってきていますよね。本質が変わったというより,幅が広くなってきたというか。

大渕氏:
 よくZyngaさんのソーシャルゲームなどが,「こんなのゲームじゃない」みたいにやり玉に挙げられますし,自分もその意見は凄く分かるんです。でも,遊んでみると楽しめちゃうのも事実なんですよ。そして遊び続けてしまうということは,そこには何かしら引き寄せる魅力があるわけじゃないですか。結局,ゲームってそういうものじゃないかなという気がしますね。

西氏:
 実際,ソーシャルゲームに対しては,賛否両論がありますよね。でも,悪いことばかりを見ていても仕方ないので,肯定的に捉えようっていう気分でいるんです。実際,僕もプレイヤーとしてそういうものを遊ぶようになってきているという事実もありますから。

大渕氏:
 西は本来,自分の感性に忠実に作っていくタイプのクリエイターなんですが,今回は多くののソーシャルゲームを試してもらいました。それらをただ真似るのではなく,そういうものがあるという事実を知ることで,そこからまた違う発想が生まれてくるものだと思いますから。

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西氏:
 FacebookでZyngaのゲームは相当やりましたからね(笑)。
 あと,今回の仕事でAndroidを手にする前はiPhoneユーザーだったので,iPhone用のゲームもかなり遊んでみました。そうやっていくうちに,アクション性の高いものからカジュアルなものに嗜好も変わってきたんですよ。
 最初のうちは,決まった場所をポンポン押してるだけのことだから,何が面白いのかなぁ? っていうのを理屈で理解できなかったりもしたんですが,理屈よりも感覚に近い部分で凄く気持ちのいい瞬間があったりしたんです。

4Gamer:
 ヒットしているゲームは,その気持ち良さがうまく作り上げられている傾向がありますよね。
 またちょっと話題を変えますが,ゲームを供給するプラットフォームとして,Androidをどう感じていますか? 端末の種類が豊富で,性能もまちまちだったりしますよね。

西氏:
 そうなんです。画面の大きさから全部違いますからね。iPhoneであれば日本の場合,iPhone 3GとiPhone 3GSとiPhone 4だけですけど,Androidは本当に端末ごとに何から何まで違うんですよ。そういう意味では,Androidのほうが圧倒的にフリーダムなので,そこに面白さも感じています。ただ,フリーダム過ぎる分,洗練はされていないですけどね(笑)。
 元々はAppleのフリーダムさが好きでApple製品を使っていたんですが,「知らない間に管理下に置かれていたな」というのが,Androidを使っていると分かりますね。これもやっぱり,どっちが良い悪いという話ではなく,違うものに触れることで見えてくるものが変わるということで。

4Gamer:
 AndroidはOSのアップデートも早いですよね。その様子を見ていると常に過渡期で,OS自体が成熟する日が来ないような気すらします。そこに向けてゲームを作っていくのは,しんどくないですか?

西氏:
 しんどいです(笑)。でもそこに追いつこうと頑張るのも楽しいものなんですよ。おっさんになってしまうと,なかなか新しいものに挑戦する意欲が沸かなくなるものなんですけど,そうも言ってられなくなる喜びがありますから。

4Gamer:
 iPhoneもそうですが,Androidでもコンテンツ自体は世界中に向けて配信できますよね。とはいえ,こと日本市場で受けるものが,そのまま世界中で受け入れられるかという部分は,なかなか難しいケースも見受けられます。それについては,どのように考えていますか?

大渕氏:
 基本的には,ゲームのジャンルであったり,ゲームを作るコンセプトであったりが,日本向けなのかそうじゃないのか,ということに尽きると思うんですよ。
 ただ,ワールドワイドなAndroid Marketを通すことで,コンシューマよりも海外に拡げられる方法はあるんじゃないかという気はしています。規制も少ないですから,いろいろな可能性は見えていますよ。

4Gamer:
 ジャンルやコンセプトを,どのように打ち立てていくかが,何よりも肝心であるということですね。今後の展開を楽しみにしています。


 インタビューの中ではコビッツの次回作構想にまで話が及んだが,現在リリース中のにものついてもアップデートは随時行っていくとのこと。とくにゲーム開始時のチュートリアルの改良は,近々行われるとのことだ。
 なお,コビッツはNTTドコモのAndroid 2.2以上の端末が対象だが,現在は非対応の機種であっても,OSのアップデートによってプレイ可能となる可能性がある。今すぐにはプレイできないという人も,コビッツというタイトルを心に留めておくと良いだろう。
 そして,実際にプレイして「コビッツの世界をもっと楽しみたい」と思った人はぜひ,Android Marketのユーザーレビューなどに熱い要望を投稿し,“コビッツサーガ”の完成を後押してみよう。

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