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著者インタビュー 畑中章宏 『天災と日本人 地震・洪水・噴火の民俗学』

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災害と付き合いながら生きる日本人の心のありようを見つめる

◆『天災と日本人 地震・洪水・噴火の民俗学』畑中章宏・著(ちくま新書/税別820円)

 洪水、地震、津波、噴火、大雪……。四季のある自然豊かな日本は、同時に災害列島でもある。日本人は古くから災害と付き合って生きてきた。畑中章宏さんは、これまでの著書でも日本人と災害との関係を論じてきたが、『天災と日本人』はその集大成的な一冊だ。

「3・11以降、社会学や歴史学、工学などさまざまな見地から災害は語られてきましたが、日本人の心のありようを考察する民俗学的なアプローチこそ必要ではないかと思ったんです。民俗学を創始した柳田国男にとって、少年時代に過ごした利根川の水害を見聞きしたことが原点になっています。私はこれまでの民俗学の成果をもとに、いわば『災害民俗学』に取り組んできました」

 水害についての章では水害の予防から復興まで、民衆の知恵や技術がどのように受け継がれてきたかを論じる。

「2014年に広島市で豪雨により斜面崩壊と土石流が発生し、74人の死者を出しました。この辺りは歴史的に水害が多く、土砂の流出を表す地名が残っていたり、治水の神様である十一面観音が祀(まつ)られていたりします。そのようなかたちで、災害の記憶が継承されているのです」

 畑中さんは少年のころから神社や仏閣に参るのが好きで、文筆業をスタートさせてからは「神仏習合」についての著書を発表してきた。東日本大震災のあと、三陸を訪れて地元の人の話を聞くことで多くの発見があったという。

「復興については、防潮堤か高台移転か、浜ごとに意見が分かれる。決してひとくくりにはできないんです。三陸ではこれまでの共同体がかろうじて残っていたことで、津波への適切な判断ができた地域もあります。ハレ(非日常)とケ(日常)は民俗学の重要な概念ですが、災害もまたハレのひとつです。時代は変わっても、そういった民俗的な感性は共有されていると思うんです」

 本書には、菅江真澄や宮本常一ら、畑中さんの先輩にあたる民俗学者が登場する。

「彼らは全国各地を歩きながら、地域の生活を記録しています。その中には、近代化によっていまでは失われてしまった防災や減災の知恵も多くありました。また、本書では災害の経験を持つ作家も紹介しています。幸田文は、しばしば洪水を起こした隅田川のほとりで、幼少時を過ごしています。彼女は70代で、日本各地の山体崩壊の現場をめぐり『崩れ』を書きますが、あの迫真の描写は災害を直接見た人だから書けたのだと思います」

 東日本大震災から6年が経過し、災害への関心が次第に薄れていることに危機感を持ち、畑中さんは本書を執筆した。

「避難生活や病気などを原因とする震災関連死は、いまでも増えています。また、執筆中の昨年4月には熊本地震があり、10月には鳥取県中部地震がありました。自分だっていつ災害に遭うかもしれない。人ごとではないんです。日本人は今後も、災害とともに生きていくしかないのですから、過去の防災・減災の知恵を見なおし、将来に備える必要があるのではないでしょうか」

(構成・南陀楼綾繁)

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畑中章宏(はたなか・あきひろ)

 1962年、大阪府生まれ。作家、民俗学者、編集者。著書に『柳田国男と今和次郎』『災害と妖怪』『ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか』『津波と観音』『先祖と日本人』『「日本残酷物語」を読む』『蚕』など

<サンデー毎日 2017年4月9日増大号より>

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