今後5年のあいだにIT業界に大きなインパクトを与えそうな5つの動向

2011年2月23日

先週の水曜日に、IBMのビジネスパートナーの方々が中心となって設立された団体「Open Source協議会 System i」のセミナーで「IT大変革。今、何にどう取り組むべきか! ~知っておきたい技術動向とキャリアの描き方~」というセッションのスピーカーを、アイティメディアの藤村厚夫取締役と一緒に務めてきました。

藤村さんからはセッションのテーマとして「お互いに、今後5年のあいだにインパクトがあると思われる動向を5つ挙げて説明しよう」という提案をいただいていたので、僕としては少し考えて次のような5項目を挙げることにしました。

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セミナーでこの5つについて話したことを、せっかくなのでこのブログでも紹介したいと思います。

業務の定型化の波

1つ目の動向は「非コア業務、 バックオフィス業務の定型化の波」です。これによってこれまで以上に業務のパッケージソフトやサービスへの置き換えが進むと考えています。

いま多くの企業が「事業の選択と集中」に取り組んでいるのはみなさんご存じと思います。選択と集中などと大げさにいわなくても、間接部門のアウトソースは多くの企業が行っているところでしょうし、アウトソースしなくとも、限られたリソースで業務をいかに効率化するかはつねに検討されています。

効率化やアウトソース化でカギになるのは定型化です。型にはめてマニュアル化しなければ、効率化やアウトソース化は難しいでしょう。

別の面からのビジネスの定型化も進んでいます。10年前なら、顧客とのつながりをどう管理していくかは企業によってばらばらだったはずです。しかしCRMやSFAという考え方が登場し、それが広まることで、多くの企業のあいだで「CRM/SFAというのはこういうものだ」というラフなコンセンサスができあがります。そうするとそれはパッケージソフトやサービスで実現しやすくなるわけです。

またIFRSのような国際会計基準が登場することも、「会計とはこういうものだ」という定型化を後押しすることになるでしょう。

こうした定型化は、今後さらに厳しくなるビジネス環境によって加速するはずです。それが今まで以上にパッケージソフトやサービスの導入を増やし、非コア業務における個別開発の案件を減らしていくことになるでしょう。

スピードの価値の高まり

2つ目に挙げたのは「ビジネスにおける「スピード」の価値の高まり」でした。これは動向というより願望を込めて挙げたといっていいかもしれません。

かつて大手ERPベンダのセールストークは「このパッケージに組み込まれた優れたノウハウを御社にも取り入れることができます」といったものでした。世界中の優れた企業の経営ノウハウがパッケージソフトウェアにフィードバックされており、これから導入する企業はそれを取り入れることができる、というのです。

しかしいまのセールストークは変わっています。「短期間ですぐに導入できます」というのが大事なポイントになっています。優れた機能を実現できるのは当たり前で、それをいかに速く実現できるのかが重視すべき価値になっているわけです。

これまで顧客に対してベンダやSIerは利益相反がありました。顧客の「こういうシステムがほしい、早く安く作ってほしい」という願いに対し、ベンダやSIerは開発に時間をかけ、期間を長くして人を投入するほど儲かる、という構造だったのです。売り上げを人月で計算するかぎり、顧客とベンダの信頼関係を築くのは構造的に困難なのです。

しかしERPベンダが「短期間でできます」とセールストークが変わったように、スピードの価値が高まることによって「短期間でできる」ことを顧客が重視し、ベンダやSIerにとって「早く作るから高く売れる」となれば、顧客との利益相反は解消されていくでしょう。スピードの価値の高まりというのは、そうなってほしいという願望を込めた動向です。

規模の経済の台頭

3つ目は「クラウドによる「規模の経済」のITにおける台頭」です。クラウドがIT業界を揺るがすほどのトレンドであることは多くの場所で語られているので、ここではもう少し突っ込んだ見方を紹介しようと思います。

多くの企業にとってITにかかるコストは商品やサービスの原価の一部ですから、安ければ安いほどよいのは当然のことです。クラウドは、サーバ、回線、電力といったコストを大規模に調達することでスケールメリットを発揮し、その結果ITサービスを安く提供できるというメリットがあります。

しかし多くの企業はすでに自社のシステムと情報部門や情報子会社を抱えており、それを捨ててパブリッククラウドをすぐに採用することは現実的には難しいため、まずはプライベートクラウドの構築によって自社のリソースを効率化し、コストを下げようとするでしょう。そして手短に言えば、その先にある有力なシナリオの1つは「同様のプライベートクラウドを持つであろう競合他社とクラウドを合併してさらに規模を拡大し、さらに原価を下げる」です。

規模の経済を追求していくと、いずれ企業の枠を超えざるを得ません。自社がやらなくても競合他者同士が協力されてしまえばコストダウン競争で負けるからです。それは情報システムと情報子会社の合従連衡を引き起こし、そこから本体企業への合従連衡へと続いていくかもしれません。

Web標準

4つ目は、Publickeyでずっと動向を追っているWeb標準「HTML/CSS/JavaScript」です。

これから5年程度先を考えた場合、業務アプリケーションのフロントエンドはWebブラウザとモバイルデバイスが主役になることは明らかでしょう。そしてそれらを開発するときにもっとも効率的な技術がHTMLとCSSとJavaScriptです。Webブラウザ対応はもちろん、iOSにもAndroidにもタブレットにもスマートフォンにも対応するクロスプラットフォームなモバイルアプリケーションが開発可能であり、これらすべてを実現する唯一の選択肢がHTML/CSS/JavaScriptです。

ですから業務アプリケーションの企画、設計、実装、テストなど担当業務にかかわらず、業務アプリケーション開発に関係するあらゆる人はHTML/CSS/JavaScriptの知識をこれから必要とするはずです。

これだけ広範なOSとデバイスに対応する技術はITの歴史上初めてで、Javaも、Flashも、SilverlightもWindowsも成し遂げられなかったことをHTML/CSS/JavaScriptは実現しているという点でも重要な意味を持つと思います。

勉強会

5つ目は少しカジュアルに「勉強会」をあげました。

これまでの実態として、多くのIT系企業社員は企業の中で学習しスキルを伸ばしてきました。その多くは仕事を通してOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)として先輩から学んだり、自分で学んだり、あるいは研修によって学びました。

しかしいまは多くのイノベーションが企業の守備範囲外から突然やってきます。クラウドしかり、Web標準しかり、HadoopのようなNoSQLデータベースしかり、モバイル対応開発しかり、です。これらをOJTで学べる企業がどれだけあるでしょうか。間違いなく少数でしょう。

そうしたイノベーションを学ぶ場としていまもっとも機能しているのが勉強会です。もしも社外での勉強会の出席を禁止している企業があるとすれば、イノベーションに取り残されていくか、あるいはイノベーションを学ぼうという意欲ある社員を失うかのいずれかになるでしょう。

そして勉強会は会社の外で自分の能力を伸ばす機会を得ると同時に、エンジニアが会社以外の価値観とエンジニア同士の連係を経験する場でもあります。社外の価値観を知ったエンジニアが、それでもいまの会社にとどまっていたい、そう思えるほど魅力のある企業にならなければ企業は生き残ることが難しくなります。勉強会の普及は、IT系企業の存在にまで影響を与えるだろうと思いますし、そうなってほしいと思っています。

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Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
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