TEDトークのウェブ公開から5周年

TEDはちょうど1週間前の6/27に、TEDトークをウェブで公開し始めてから5年が経ったと発表しました(TED Blogより)*1。当初は6つのスピーチで始まったウェブ上TEDトークも、今ではほぼ1,000に達し、またこの5年で合計5億回の視聴があったそうです。

これまでに最もよく見られたTEDトークのデータも紹介されています(こちら)。TEDのサイト、YouTube, iTunes, 貼り付けやダウンロードの回数などを集計したものだそうです(2011年6月27日時点)。自分の知る限りでは、TEDが公式にこのようなデータを発表するのは初めてではないかと思います。ここでは上位20のトークが紹介されていますが、トップ5は以下の通りです。

1.ケン・ロビンソン「学校教育は創造性を殺してしまっている」 (2006): 8,660,010 views
2.ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作 (2008): 8,087,935 views
3.プラナフ・ミストリー :次なる可能性を秘めたSixthSenseテクノロジー (2009): 6,747,410 views
4.パティ・マースによる 「第六感」デバイス のデモ。ゲームの流れを変える着用可能な技術です (2009): 6,731,153 views
5.水中の驚き by デイビッド・ガロ (2007): 6,411,705 views

上位のトークで数年前のものが目立つのは、短期間に視聴が集中するのではなく、継続的に視聴され続けるトークが多いということなのでしょう。

最もよく見られたトークで860万回あまりというのは、こうした真面目なコンテンツにしてはすごい回数だとも思えますし、もっともっと見られてもいいのに、という気もします。ただ、この話題を紹介するGigaomの記事(こちら)によると、TEDトーク全体の視聴回数は公開を始めた2006年には200万回、2009年末までに2億回、そしてそこから1年半の間で5億回にまで増えているということですから、広がりに加速度がついてきていることが伺えます。

「TEDトーク公開5周年」に関してもう一つ面白かったのが、Mashableの記事(こちら)に載っていた、TEDのメディア部門を担当するExecutive Producerで、TEDトークの立ち上げを指揮したJune Cohenの言葉です。それによると、当初TED側は講演の動画を用いてテレビ番組を作ろうとBBCに持ちかけたところ、断られたというのです。彼女のコメントを引用します。

TEDトークBBCで流すには知性的過ぎる(too intellectual)と言われて、戦略を変える潮時だと思ったの。

確かにTEDの動画は、番組MCのような聞き手・進行役がいる訳でもなく、スタジオトークのようなものがあるわけでもなく、驚きや感動を演出するような仕掛けもない、言わば地味なコンテンツです。同じ題材やスピーカーをテレビ番組で取り上げる場合、それがドキュメンタリーなどの真面目な番組だとしても、アプローチはかなり異なったものになるでしょう。だからBBCの発言は、ある意味でTEDトークとテレビ番組の違いをしっかりと見抜いたものだと言えます。とは言え、「知性的過ぎるから」という断りの文句からは、メディアとしてのテレビの限界のようなものも感じてしまいました。ともあれ、それがきっかけとなり、ウェブ上で世界に向けて無料公開されるという今の形のTEDトークが出来たのですから、BBCがTEDからのオファーを断ってくれたことには感謝すべきなのかもしれません*2

TEDは、「アイデアを広める」というミッションをさらに広めていくため、英語以外のスピーチをTEDトークとしてサイトに公開したり(第一陣スペイン語トークに英字幕をつけたものです)、各地で独自開催されるTEDxイベントの動画も検索性を高めたページ(こちら)を新設したり、といった取り組みをしています。TEDの掲げる「徹底的なオープン性(radical openness)」がこれからどんな方向に向かうのか、引き続き注目していきたいと思います。

*1:このブログでは最近TED関連の話題が多いのですが、いま自分が一番注目している分野であり、日本語での紹介もあまりされていないようなので、この話を取り上げることにしました。

*2:ちなみに、TEDは2010年にThe TED Open TV Projectを立ち上げ、テレビ局が一定のルールに基づきTEDトークをテレビで流せるようにしています。