ソーシャルメディアのコミュニケーションは衆人環視下で行なわれる

インターネットは多対多の会話を無限にかつ自由に、そして安価に実現してくれる画期的なメディアでありインフラであるのですが、さらに重要なのはその会話を多数が見てる (見れる)ということです。

しかも、それは必ずしもリアルタイムに限ったじゃなく、インターネットでは会話の記録が蓄積(アーカイブ)されますので、10年後に見るかもしれません。
メールのように1対1のコミュニケーションもありますが、とりわけソーシャルメディアではこの傾向が強くなっています。

こうした衆人環視下の同期性・非同期性が混在したコミュニケーションがソーシャルメディアでのコミュニケーションを考える上で最大の特長です。

衆人環視下のコミュニケーションとは?

では、衆人環視下のコミュニケーションとはどんなものでしょうか。

たとえば記者会見を想像してください。

あなたは壇上に座っています。前列の記者が質問をしました。あなたはその質問に答えます。他の記者がそのやり取りをじっと見ています。

これが衆人環視下のコミュニケーションです。
あなたは記者と1対1の会話をしているわけですが、周囲の全員がそれを見聞きしているわけです。

さらにその記者会見は夜のニュースで映像とともに紹介されます。いろんな番組で。もしかすると週末のニュースやワイドショーでも紹介されるかもしれません。

こうして同じやり取りが何度も何度も紹介されるのが、アーカイブを前提とした非同期の視聴です。さすがにそれを見た視聴者が質問することはできないので「視聴」と書きましたが、インターネットの場合はそこで質問することもできます。まさにコミュニケーションに終わりがないんですね。

そしてリアルな社会でも衆人環視下で誰かと会話するというのはかなり特殊なケースだということがわかります。

もちろん電車の中で友だちと話しているのを、周囲の人が聞いているということはありますが、これは興味がない人がたまたま居合わせたために聞いているだけですし、ネットの場合も検索エンジン経由でたまたま辿り着いた人はいますが、すぐに直帰されるので今回は無視してもいいでしょう。

ここで考えるべきは、興味を持った人があなたと誰かのやり取りを見聞きし、そこに感想を抱き、場合によっては質問を投げかけてくるというケースです。

リアクションへの不安

これまでも企業は1対1のコミュニケーションならやってきています。サポートセンターで電話やメールに答えたり、営業マンが訪問先で話したり、小売店の販売員が店頭で案内するなど、それぞれが目の前のひとり(もしくは数人)とコミュニケーションを取ることは(限られた部署のみではありますが)自然に行なわれてきました。

一方、衆人環視下でのコミュニケーションと言えば、せいぜい先ほどの記者会見の例のように社長や広報が取材に応対するくらいで、ほとんどの社員は顧客と直接対話する経験もなければ、そのやり取りが衆人環視下で行なわれる経験などなかったのです。

それが昨今のマーケティングのネット化、さらにはソーシャル化によって、未経験の社員が顧客や消費者と衆人環視下のコミュニケーションを取る必要が出てきました。
たとえばブログを始めた途端に衆人環視下でのやり取りが始まるのです。

企業がブログを始めとするソーシャルメディアへの参加に二の足を踏んでしまうのは「何を書いていいのかわからない」というアクションに対する不安よりも、「どんな反応があるか(またそれにどう答えればいいのか)がわからない」というリアクションに対する不安でしょう。
意味があるかはさておき、誰も読んでないのが前提ならなんだって書けるわけですしね。

ブログの場合はコメント欄を閉じるというような防御策(?)もありますが、ツイッターの場合はそれもできませんし、SNSや掲示場ではむしろそのやり取りが主目的だったりします。
そもそもこうした会話をしないなら、ソーシャルメディアマーケティングの可能性を半分以上放棄しているようなものですけどね。

自覚すれば大丈夫

たしかに衆人環視下のコミュニケーションは難しいです。
ただ失敗をするケースはやり取りが衆人環視下であることを「自覚していない」からで、これを読んだ時点でかなり失敗する確率は下がっています。

そして自覚すればオンラインでもオフラインでも取るべき対応は同じです。
いきなり店頭に応援スタッフを頼まれたとき、いきなり記者会見で受け答えしなければならないとき、いきなりブログ担当者としてデビューすることになったとき、いずれの場合も気をつけることは同じです。

あなたの一挙手一投足は他の大勢の人に見られています。あなたの発言はけっして「ここだけの話」ではなく、みんなが聞いてますし、記録され何度も繰り返し再生されます。
当然、慎重な言動が求められますし、フェアな対応を取らなければあっという間に全員に知れ渡ります。

たとえば、ブログについた誰かのコメントに腹を立てて「お前なんかに売る商品はない。もう買わないでいいよ」とコメントするとどうなります?
それをみんなが見ているわけですから「なんだこの会社は」ってなりますね。最悪の場合は不買運動に繋がるかもしれません。

リスクばかりじゃない

衆人環視下のコミュニケーションというのはそのくらいリスクを伴うものですが、逆のケースにも目を向けてほしいです。
つまりきちんと対応することで、それを読む人に好印象を与えることもできます。

誤解があれば訂正しましょう。理不尽な要求には毅然とした態度で接しましょう。透明性公平性を常に意識していれば何も恐れることはありません。

大多数の消費者はコメントを残すことはありませんが、彼らは見ています。そうしたサイレントマジョリティの目を忘れないようにしましょう。
あなたが残したコメントは、数人から数百人の読者の目に止まります。彼らの信頼を裏切らないようにしましょう。そうればそのうちの何人かがメールで誰かに伝えたり、ツイッターで紹介してくれるかもしれません。

ソーシャルメディアのいいところはポジティブなメッセージも伝播していくということです。
たしかにネットには誤解が流布する怖さがありますが、中長期的には正しい情報にきちんと収斂していきます。ネットを信じましょう。コミュニティを信じましょう。そのためには消費者と共生することを意識してください。

衆人環視下であることはリスクばかりではありません。彼らはあなたの味方でもあるのです。

河野

当メディア編集長。コミュニケーション・デザイナー。企画屋。1997年、ニフティ入社。2001年にニフティ退職後、フリーターとして数年過ごし、2004年から2005年までオンライン書店ビーケーワンの専務取締役兼COOを務める。ECサイト初となるトラックバックを導入し、また「入荷お知らせメール」などを考案した。また、はてな社との協業による商品の人力検索サービス等をプロデュース。2005年から2007年までシックス・アパート株式会社のマーケティング担当執行役員を務める。2007年から2010年までブックオフオンライン株式会社取締役を務め、サービスの立ち上げ全般のサポートに加え、「オトナ買い」や「デマチメール」などの独自機能を考案した。その後、フリーランスに。2014年から株式会社クラシコムに勤務。現在に至る。「アクティブサポート」や「最愛戦略」の提唱者。個人として「攻城団」と「まんがseek」を企画運営。個人のサイトはsmashmedia

シェアする

コメントを残す