運と成功を呼び込む5条件 ラッキーは必然
人間にはラッキーな人と、そうでない人がいる。「お前ってラッキーだよな」「あいつはついている」「あなたって運を持っているよね」「俺は持っている」。誰もが聞いたことのあるフレーズである。そういう私も、良く妻には、「あなたって何だか知らないけど運が良いよね」と言われる。「運も実力のうちさ」と答える一方で、確かに世の中に運の良さそうな人とそうではない人が存在するのは、なぜだろうと考えていた。
■キャリアは偶然の積み重ねで決まる
そんな時に、スタンフォード大学のクランボルツ教授の提唱する『Planned Happenstance Theory (計画的偶発性理論)』という考え方が、ヒントになった。
これは、キャリア形成に関する理論で、自分のキャリアを意識的に計画的に立ててゆこうとする従来の考え方に対し、『人のキャリア(職業)は計画して決まるわけでなく、予期しない偶然の積み重ねで決まってゆく。よって、予期せぬ出来事をいかに自分にとってチャンスにするかが大事。』という考え方である。
少し演えき的に解釈すると……
(1)人生の成功は予期しない偶然や出会いによって大きく影響される
(2)つまり、その偶然や出会いが起きやすくなるように行動し、そのチャンスを察知することが大事
(3)よって、偶然を運命にかえて成功する人と、偶然がただの偶然で通り過ぎてしまう人の違いは、その人の心構えしだい
というわけだ。では、その『心構え』とは具体的にどのような心のあり方を言うのだろうか? ラッキーになるための心構えについて簡単にまとめてみたい。
■心構えその1:好奇心(Curiosity)
端的に言えば、面白いと思ったこと、やりたいと思ったこと、今ひらめいたこと。とにかく、興味がわいたことに対してちゅうちょせずに"やってみる"姿勢である。さらには、知らない分野に対しては興味を持つ探究心でもある。子供が良い例だ。感性が感じるままに行動して、その充足を感じている。身の回りで起こるあらゆる事象に対して"Why?"と反応する。
大人は論理的に考えすぎて、なかなか行動に移せない。羞恥心や失敗への恐怖、プライドが心の邪魔をする。ただ、興味を広げることはいくつになっても可能だ。変化の早い世の中になったからこそ、我々は好奇心のアンテナを広げ生涯学び続けなくてはならないはずだ。
私が日々出会う経営者は好奇心の固まりだ。起業家が24時間7日間目を輝かせながら働ける根源には、物事を探求するこの好奇心があると感じている。好奇心無きところには、変化も進歩も成功も無い。
■心構えその2:粘り強さ(Persistence)
先日4回起業して、すべてのベンチャーを上場させた経験者に、何が成功の秘訣であったかと聞いた。「どんな失敗や壁にぶつかってもあきらめずに粘ったことだ」と話していた。意外かもしれないが、技術力や営業力といったビジネスに直結する要素よりも、経営の心の強さを重要視していた。
彼が言うには、多くのベンチャーは同じような壁にぶつかるが、その多くは早くにあきらめすぎることで、成功を逸しているという。その差は僅かだ。ベンチャーでいえば、失敗しても資金が尽きるその瞬間まで挑戦し続ける持続力、執着心が勝者と敗者を分ける要因なのだ。
確かに、ベンチャーキャピタル(VC)でも成功していると言われている人は、異常なほどまでに粘り強いし、あきらめないことを是としている。特に、ベンチャーのように不確実性の大きい市場で競争する場合、想定外のトラブルは日常茶飯事で、その都度あきらめていたら経営は成り立たない。支援する側も、いかなる逆風に対しても最後まで粘る姿勢が求められるのである。
■心構えその3:柔軟性(Flexibility)
ベンチャー経営では、よくピボットという言葉が使われる。これは、創業当初の理念や目標にはこだわり続けながらも、その道筋は柔軟に変えてゆくという考え方である。ピボットが、軸足を動かさずに、方向を変えるという動きであることに由来して、多用されるのである。
何かうまくいかない時には、猪突(ちょとつ)猛進して一億玉砕するのではなく、ちょっと見方を変えたり、それこそ外から物事をとらえてみたら、意外と解があったりする。我々VCも、投資先のベンチャーが抱える問題を解決するために、業種の異なるベンチャー経営者を交流させることで、他業種でのベストプラクティスから解法のヒントを得られるようなきっかけ作りには余念がない。
■心構えその4:楽観主義(Optimism)
どんな世界の成功者も、おおよそ楽観主義である。ベンチャーだけでなく、スポーツの世界でも成功者の裏には、人並み以上の失敗と苦労があり、そのすべてに悲観していては、成功には近づけない。実際に、VCとして大成している友人の口癖は、「僕はいつでも超ポジティブですよ」。私は、彼がどれだけ苦労して、しんどかった時期があったかを知っている。
ただ、悲観を楽観に変換する回路を身につけることで、今では人生を素直に楽しみ、周囲の人間をもポジティブにするエネルギーに満ちている。
欧米のスポーツの場では、ジュニア時代からポジティブ思考の実践により、オプチミスト(楽観主義者)をうまく生み出している。気合と根性で練習を繰り返す以上に、頭の中で成功しているイメージトレーニングを繰り返すことで、体に良い暗示をかけ成功確率を上げるのである。
また、成功の結果に対しては、大げさに自分を褒めて、悪い結果に対しては、さらに良くなるための試練だというふうに、外的な要因にすり替えることで、すべての事象をプラスに転化してゆく。対人とのやりとりでも、相手のネガティブな話を、ポジティブに変換して投げ返す(例えば、相手が「最近忙しいんだよね」と言えば、「忙しいのは幸せなことだよ」という具合である)ということを実践し、楽観思考回路を定着させている。この徹底ぶりには感心する。成功しているベンチャー経営者の心のあり方にも、同じことが言えよう。
■心構えその5:冒険心(Risk Taking)
最後は、積極的に挑戦する心、リスクを取る姿勢である。私はこれを「えいやの精神」と言っている。往々にして、経営判断にしても、キャリア判断にしても、大きな決断を必要とされる場合に、論理的な分析を重ねれば重ねるほど、行動がとりにくくなる。つまり、分析や論評は、やらない理由や失敗する理由ばかりが先行するため、判断が先延ばしにされ、結局大きな意思決定が出来なくなるのである。
その点、私が平素付き合いのある、IT企業やベンチャーの経営者たちは、この「考えてから動く」タイプではなく、「動いてから考える」タイプである。直感と感性に従い、善かれと思ったことには「えいやの精神」で飛び込んでゆく勇気と強い心を持つものだけが、成功のチャンスに巡り会えるのだという。チャンスは挑戦者のみに与えられる。
■誰もがラッキーに
この理論で推奨している行動は、起業家に求められている精神そのものである。私が本コラムで読者の皆様に伝えようとしている、誰もが本源的に持っているはずの起業家精神を呼び起こすには、極めて有効な5つの行動指針のはずだ。
今、日本では明らかに閉塞感が広がり、正直効果的な打開策もない。ただ、悲観して、他人任せに何かを待っていても、ラッキーなことは起きるはずもない。我々が個人レベルで上記5つの行動指針を意識して、実践し、偶然をチャンスにする力を身につけなければならない。そんな姿勢を根付かせることができたら、誰もがラッキーにあふれた毎日を送れるに違いない。