【猫のなぞに迫る!】〜麻布大学 獣医学研究科 [後編]

Nov 6, 2012 / Topics

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photo:Kazuho Maruo,Text:Sawako Akune

「猫は死を理解している?」
「首輪の鈴は猫にとって不快な音なの?」
「袋や箱に入りたがるのはなぜ?」

猫と暮らしていると、さまざまな疑問がでてきます。そこで、twitterFacebookに寄せられた猫にまつわるたくさんのなぞを、猫の行動学を研究している、麻布大学 獣医学研究科 動物応用科介在動物学研究室・大谷伸代先生、獣医学科 微生物第一研究室・宮地一樹先生におうかがいしました。

「猫は夢を見るの?」といった質問が寄せられた、前編はこちら

4.猫社会のなぞ

―猫は一匹でいるのと、何匹かで一緒にいるのとではどっちが好きなんですか?
元々は単独で行動してきた動物。でも個体差や小さい頃からの環境など、色々なファクターが関わってくるのでいちがいには言えません。

―猫集会なるものは実在するんでしょうか。猫に社会性はありますか?
猫集会は社会的接触のひとつとして考えられていますが、何をやっているのかはまだ分かっていません。エサが豊富にあると猫同士の距離がぐっと近くなったりと、関わり方も変わってくるようです。

―猫は外で自由に生きるのと、人間に飼われるのはどちらが幸せなのでしょうか?
何を「幸せ」とするかは意見が分かれるところだと思いますが、寿命の面からみると、圧倒的に人に飼われている猫の方が長生きですね。動物にとって最大のストレスはエサをどう獲るか、ですから、エサの心配がまるでないという意味でも飼い猫の方が楽。ただし逆に言うとそれはストレスがなくてつまらないということにもつながるかもしれないのですが……。だから室内飼いだとしても、刺激を与えるよう考えてあげることいいでしょうね。爪研ぎ、おもちゃ、上下運動ができるような仕掛けなどを整えてあげることで猫にとってはすごくいい環境になってきます。

実はエサも、いっぺんにどさっと出されるよりは、家の中の色々なところに隠してあって探しながら少しずつ食べたり、穴の中に隠してあって手で掘り出しながら食べたりするようなスタイルが、猫の元々の習性に近かったりもするんですよ。でもよく考えたらそれは人間も一緒。決まった時間に食べ物が出てくるけど、何もすることのできない人生なんてすぐに飽きてしまいそうじゃないですか? 

5.猫の習慣のなぞ

―袋や箱に入りたがるのはなぜですか?
小さな箱や袋に入っていくのは、木のくぼみや地面の小さな穴など、身を守れる場所に住んでいた昔の習慣の名残りだと思います。ビール箱に突進していく猫の「まる」が人気になりましたが、あれはエサを獲っていた狩猟本能の名残ですね。

―うちの猫は布を食べます。お母さんの服とか毛のもの(毛布とか毛皮)をちゅうちゅう吸ったり舐めたりする子もいます。原因があるのでしょうか?
これは“ウールサッキング”という問題行動のひとつです。布を食べてしまって、腸閉塞を起こしてしまうのが心配です。行動治療を行ってくれる獣医に相談して、薬を処方してもらった方がよさそうです。

―おもちゃで遊んであげようとすると、いつもまずは爪を研ぎ始めます。あれは何のためなのでしょうか。我が家では「溢れる戦意を調節している」と勝手に話していますが。
確かにやる猫はいますが、理由はよく分かりません。おそらくはカーミングでしょうね。“溢れる戦意を調節している”というのは正しそうです(笑)

―我が家の猫は髪の毛(束)をみると瞳孔が開き飛びかかって来たり、爪を立てたり、噛んだりします。毛繕いとは違うかんじです。なぜでしょう? 遊んでるだけでしょうか?
瞳孔が開いたりしているのならば過剰なグルーミングで、これも問題行動のひとつです。エスカレートすると頭を噛まれたりしかねないので、これも獣医になるべく早く相談してみてください。

―妹の体操着(着ていたもの)の匂いを嗅いでは、その上でゴロゴロしたり、服を噛んだり両手で挟んで猫キックをして興奮しています。フェロモンの影響ですか? 猫は女の子です。
性的なことではなく、妹さんのことが元々好きで、自分に妹さんの匂いをつけたり、逆に自分の匂いをつけたりといった情報交換、マーキングを行っているのだと思います。これは自分の家という慣れた環境で好きな匂いがするからこういう行動になっているケース。動物病院など知らない場所へ行くときに、家でいつも使っているタオルを持っていくと慣れた匂いがあって安心するという風に応用ができるでしょう。

―生後4ヶ月ぐらいなのですが、最近私の指を吸います。吸いたくて指を探すほどです。このまま吸わせててもいいのでしょうか。
可愛いのでそのままにさせてしまう飼い主さんが多いのでしょうが、生後4ヶ月というと完全に離乳もしていますので、これは絶対にやめさせた方がいいです。噛み癖になってしまったり、歯が生えて力が強くなって人にケガをさせたり、あるいは吸ってはいけないものまで吸ってしまったりしかねません。本来は、生後1~2ヶ月で離乳が進んで吸う行為は減り、母親も歯が生えて痛いので吸うことを拒否して吸わなくなるのが自然な流れなんです。離乳が上手くいかなかったのでしょうが、猫のためにも、飼い主さんが意識して突き放すようにして、やったらダメだということを分からせてあげてください。

―9歳になるうちの猫は赤ちゃんの頃からお気に入りのタオルケットを前足で揉みながら吸うのが好きです。小さい時にお母さんと離れた子にある、お母さんのおっぱいを吸う行為だと思いますが、大人になっても続けさせていても問題はないでしょうか? また最中に触ってあげたり近くで見ていると、さらに興奮して吸っているのですがそういうものなのでしょうか?
揉むだけだったら全く心配ないので心ゆくまでやらせてあげてください(笑)。過剰にならない限りは問題ありませんが、タオルケットを食べたり吸ったりしていたら要注意です。

6.猫の感情のなぞ


―ネコが本気で怒るとき、悲しむ時はどんな行動をしますか? うちで飼っていた猫は怒った時は技の切れ味が全然違いました。あと悲しい時は隠れていたような気がします。
猫にも感情はあって、怒っているときのボディランゲージなどはその例。でも“悲しいとき”と言っているときに猫が本当に悲しいのかどうかは分からなくて、人間が自分の喜怒哀楽を猫に投映しているケースが多いように感じます。

―多頭飼いの猫は、仲間の猫が死んでしまったりしたとき、そのことを理解して、悲しんだり落ち込んだりしてしまうんでしょうか? 特に仲がよい場合など、心配です。
元気がなくなることはありますし、食欲がなくなることもあるのですが、それが悲しいからなのか、というのは分かりません。今までいたものがいなくなったり、飼い主さんの様子が違ったりといった環境の変化は、とても些細なことであっても確実に敏感にとらえますから、それが行動に結びつくというのはあるでしょうね。

―室内飼いの猫です。窓の外をじっと見ていますが、何を考えているのでしょうか。
これも外の音を聞いているのだと思います。もちろん、その様子を見て猫の感情を想像するのは自由です(笑)。

―あまり人間になつかない猫は、猫の友達がいないと鬱になることはありますか?
あまり人間になつかないということは、社会性の低い猫なので、他の猫がいたら逆にストレスになるでしょうね。だからいなくても心配することはありませんが、他の猫がきたら意外と上手くいくというケースもありますから、いちがいには言えませんけどね。一匹だけで飼っている猫が家に帰ったらあちこちに粗相をしていたり、物を壊したりしているとすれば、それは一匹なのがストレスになっているのでしょうが、ただ寝ているだけだったら心配はありません。「友達がいないと寂しいかな」というのは人間側の勝手な理解。ともすれば「かまわなくていいからエサだけちょうだい」という猫もいますから、その辺りは見きわめてください。

7.猫の飼い方のなぞ


―猫は自分の生の期限を感じると姿を消すと一般的に言われていますがなぜなのでしょうか? 以前一緒に暮らしていたうちの猫がそうでした。まだ12歳くらいだったので死期を悟ったとは思えません。もちろん時間をかけて探しましたが見つかりませんでした。
死ぬときに姿を消すのではなく、体調が悪いときに、体調を回復するために静かな隠れた場所に行くのです。野性の時からの名残ですね。体調が悪いときに敵が大勢いる場所では休めませんから。「猫は自分の生の期限を感じると姿を消す」というのは、やはり具合が悪くて隠れにいってそのまま命が尽きてしまったのが、こういう風に信じられているのだと思います。

―首輪の鈴は猫にとって不快、と聞いたことがありますが本当ですか? たまに脱走するので分かるようになるべくつけてたいのですが……。
最初は嫌がるかもしれませんが、よほど大きな鈴でなければ慣れるので全く問題ないでしょう。それよりテレビの音や電話の音など人間の生活音のほうが音としてはずっと大きいのでストレスになることがあります。また、鈴はともかく、飼い猫であるならば首輪自体はつけておいた方がいいでしょうね。

―ドッグフードをあげても大丈夫ですか?
ダメです。キャットフードにはタウリンが含まれていますが、これは猫が食物からしか摂取することのできない必須栄養素。犬は自分で合成できるので入っていないのですが、猫はこれができない。欠乏すると様々な病気につながりますので猫には猫のエサをあげてください。逆にキャットフードを犬に食べさせることはできなくないのですが、キャットフードはカロリーが高く肥満につながります。やはり犬も犬のエサがいいんです(笑)。

手づくり食が流行っているようですが、タウリンを必ず入れなくてはならないこともあって猫のエサを作るのは相当難しく、栄養士さんでも困難なほど。可愛いあまりごはんも作っているつもりで、猫の健康を損なうこともありえます。最近ではペットフード安全法も施行され、エサの情報がきちんと開示されるようにもなってきていますから、安全なフードを選ぶことが賢明だと思いますね。それから、猫は偏食も強いので、小さいときに色々なフードをあげておいた方がいいというのはあります。それの弊害が年をとったときに出てきかねないですから。

―ハムスターや犬など、「仲が悪い」とされている動物と一緒に飼うことはできますか?
上手に会わせてあげられれば、どんな動物とでも一緒で大丈夫ですよ。犬と遊ぶ猫もいますしね。

―地震など災害への備えはありますか?
首輪をつけてマイクロチップは入れておいた方がいいですよ。見た目と情報で飼い猫であることが分かるようにしておくことで、もしはぐれても帰ってくる確率はぐっと高くなります。避難生活では、エサもトイレもままならないことが多いので、いろいろな物を試しておくのはひとつの方策かもしれません。