えー、杉江松恋です。2月5日に、第1回「Twitter文学賞 ツイートで選ぶ2010年ホントに面白かった小説」の座談会に出席してきました。
みなさんUstreamの配信は、観ましたかーっ。
賞については、前回の記事を参照のこと。全員、復習! 文字通り、twitterの投票で2010年にいちばんおもしろかった作品を選ぶもので、ノースポンサー・手弁当の完全家内制手工業の賞である。ちなみにUsteamの配信もノーギャラかつすべて自前。賞の発起人であるトヨザキ社長こと豊崎由美氏、事務局スタッフを務めた石井千湖氏の他、評論家代表として大森望、佐々木敦の両氏、そして私・杉江松恋が座談会には出席した。

Ustreamで発表があった10位までの結果は以下のとおり。
なお同点の作品が複数あった場合は同じ順位として扱うという方針である。

まずは海外作品から。投票総数は335。
1位:28票
ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』新潮社
2位:18票
トマス・ピンチョン『逆光』新潮社
3位:15票
エリザベス・ストラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』早川書房
デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』早川書房
4位:14票
ジョルジュ・ペレック『煙滅』水声社
ボストン・テラン『音もなく少女は』文藝春秋
5位:11票
ロベルト・ボラーニョ『野生の探偵たち』白水社
6位:10票
マックス ・ブルックス『WORLD WAR Z』文藝春秋
トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』新潮社
7位:9票
タチアナ・ド ロネ『サラの鍵』新潮社
8位:8票
ウィリアム・トレヴァー『アイルランド・ストーリーズ』国書刊行会
ヴィクトル・ペレーヴィン『宇宙飛行士 オモン・ラー』群像社
サンティアーゴ・パハーレス『螺旋』ヴィレッジブックス
フェリクス・J・パルマ『時の地図』ハヤカワ文庫
9位:6票
ウェルズ・タワー『奪い尽くされ、焼き尽くされ』新潮社
トマス・H・クック『沼地の記憶』文藝春秋
10位:5票
ポール・オースター『オラクル・ナイト』新潮社
ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』岩波書店
ダニイル・ハルムス『ハルムスの世界』ヴィレッジブックス
ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』早川書房
ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』武田ランダムハウスジャパン
リディア・ディヴィス『話の終わり』作品社

1位の『いちばんここに似合う人』は紀伊国屋書店の全従業員が選ぶキノベスでも首位を獲得しており、これで二冠になった。同作は、孤独のあまり不思議な行動に出てしまう人、意中の人の目を向けさせるために突飛な振る舞いに出てしまう人などを描いた短篇集で、友人に妹を紹介してもらえると聞いて心を躍らせる70代も間近の老人(!)の話「妹」がとにかく傑作。まさかのとんでもない結末にびっくり仰天させられる。


この他の作品も、地球規模でゾンビ・ウィルスが蔓延し、人類滅亡の危機に瀕した後の世界を描く『WORLD WAR Z』や「い」段の文字を訳文で一切使わないという難業に訳者が挑み(元のフランス語では「e」が使われていない)、かつ内容も『八つ墓村』のような皆殺しミステリーで迫力のある『煙滅』、晦渋な文学作品の外見ではあるが、その実は飛行船のクルーが世界中を駆け巡ってさまざまな危機に遭遇するという『ワンピース』のような冒険物語である『逆光』など、バラエティに飛んだものが揃った。重厚長大作から短篇集まで、バラエティに富んでいるところがいいね。私のお薦めは、第二次世界大戦中のスターリングラードで童貞とスケコマシ野郎のコンビが活躍する『卵をめぐる祖父の戦争』だ。悲惨な戦争の場面を描いた小説なのに、おなかがよじれるほど笑えるなんて素敵だ。

そして国内作品。投票総数は560だった。


1位:27票
盛田隆二『二人静』光文社
2位:22票
和重『ピストルズ』講談社
3位:19票
星野智幸『俺俺』新潮社
樋口毅宏『民宿雪国』祥伝社
4位:18票
上田早夕里『華竜の宮』早川書房
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』角川書店
5位:17票
柴崎友香『寝ても覚めても』河出書房新社
6位:14票
樋口毅宏『日本のセックス』双葉社
7位:13票
窪美澄『ふがいない僕は空を見た』新潮社
8位:11票
宮部みゆき『小暮写眞館』講談社
奥泉光『シューマンの指』
講談社
伊坂幸太郎『マリアビートル』角川書店
9位:10票
佐藤亜紀『醜聞の作法』講談社
北野勇作『どろんころんど』福音館書店
10位:9票
米澤穂信『折れた竜骨』東京創元社
福永信『星座から見た地球』新潮社

『二人静』は、認知症となった父親を介護施設への入所させた主人公が、同い年の介護士の女性に出会い、好意を抱いたことから始まる物語である。しかしその女性には不幸な結婚経験があり、その影響からか彼女の娘は、場面かん黙症という心の病を患ってしまっていた。ゆっくりとページを繰りながら味わうのに向いた、真摯な態度で現実と向き合った作品である。

この他、海面が現在より260メートルも上昇した未来の世界で、したたかに適応しながら生きる人類の姿を描いたSF『華竜の宮』や、自分と同じ心を持った「俺」が世界に増殖していくという奇妙な小説『俺俺』など、ぜひこの機会にぜひ読んでもらいたい。後者はあのミシュランガイドで三ツ星をつけられたことのある行楽地・高尾山が、凄まじい惨劇の舞台に使われている。高尾山こえー! あ、SFでは日本SF大賞受賞作『ペンギン・ハイウェイ』もあったか。
ある日街に無数のペンギンが現れるという奇妙な事件が起き、科学を探究する心を持った少年がその謎を解こうとがんばるお話だ。この小説で少年があこがれるお姉さん(おっぱい大きい)と、『小暮写真館』に登場するヤンデレお姉さんが、2010年を代表する2大お姉さんである(勝手に認定)。あと、『卵をめぐる祖父の戦争』の男装狙撃手美少女を入れて、3大ヒロインと呼んでもいいだろう。私が認めます。

上記の結果を受けて、2月5日には海外・国内の1位の表彰が行われた。正賞はイラストレーター・アルマジロひだか氏製作の「あみぐるみトロフィー」。
また、『いちばんここに似合う人』の版元である新潮社、『二人静』の作者である盛田隆二氏に対し、twitter投票に参加した方各1名に1万円分の「お薦め図書詰め合わせ」を贈呈してくださるよう、事務局が打診したところ快諾された。受賞者が持ち出しになる賞(1万円分だけど)というのも、手作りのイベントらしい。なお、作家別の得票数を見ると、海外ではトマス・ピンチョン(全作品を刊行しようとしている新潮社は本当に偉い。拍手!)、国内では樋口毅宏がそれぞれMVPということになった。

2月5日に配信されたUstream(ユニーク視聴者数7930人、合計視聴者数14,190人を達成)は、見逃した方も過去のアーカイブで視聴可能だ。また、投票の全結果は「書評王の島」で発表されている。
自分が投票した作品が何位になったか気になる人は、そちらをチェックしよう。
 今回は初めて尽くしだったtwitter文学賞は、2012年にも開催が予定されている。今回の反省を踏まえて、賞の形態の改善も事務局は検討しているとのことなので、twitterでどんどん意見を言ってみよう。このイベントが定着し、読書家たちの貴重な遊びの場となることを、心より願うものなのである。(杉江松恋)