"身体は酔っても心は酔うな"『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』


 ユエン・ウーピン監督作!


 戦場で輝かしい武功を立てた戦士スー。だが、武術を志す彼は将軍の地位を義兄ユアンに譲り、妻シャオインと幼い息子フォンと共に、故郷で平和に暮らすことを選んだ。だが、五年後、ユアンが故郷に現れる。実の父がかつて操った五毒邪拳を極め、その父を殺した男……スーの父親に復讐するために……。父を殺され、妻子を奪われたスーは、怒りに任せ戦いを挑むのだが……。


 予告編からCG全開、ジェイ・チョウが「武神」役っていったい……という感じであった。こりゃあ破裂したセンスな映画かな。ウーピン監督だからと言って、このキャラクターが後のジャッキー『酔拳』のユエン・シャオティンの役になるのじゃ!といった整合性を求めるのはどうも違うような気がしたまま鑑賞開始。


 主人公と義理の兄との因縁を、序盤に丁寧に見せる。乳兄弟で、妻の兄であり、戦場においては将同士。妹への歪んだ愛情もあり、自分より先に出世し武術の腕も立つ義弟を許せなくなる。最初、主人公が軍を去ることで、その関係も和解へ至るのかと思われたのだが……。『大地無限』なんかもそうだったが、こういう義兄弟の反目って良く描かれる題材ですね。多くの映画で善きものとして描かれる反面、家族関係よりもやわで、男同士のコンプレックスに陥る壊れやすいものとしても描かれる。
 再会した義兄は、復讐と権力に取り憑かれ、別人のように変わっていた。先の別れのシーンで、わりと分かりやすい豪放なとこもある人のように見えただけに、この変貌ぶりが逆に恐ろしい。両腕に毒を宿し、全身の皮膚に黄金の鎧を縫い付ける……「五毒邪拳」!
 主人公はここでまさに惨敗を喫するのですな。父を殺され、剣も拳法も全て破られ、腕の腱を切られ毒に侵され、妻を危険に晒し息子を奪われる……。


 辛うじて命を拾い、薬草の先生のミシェル・ヨーと嫁の永作博美(似のジョウ・シュンという女優さん)に支えられて再起を計るのですが……。腕痛めて修行できない時期にミシェル・ヨーの作ってる酒を飲み過ぎたせいで、アル中になっていた! ある時まではどん底に落ち込んでいたのが、急に張り切って特訓し出す。ヨー先生の見立てでは「動悸が早い、目が血走ってる」……血圧上がり過ぎな上に、躁鬱っぽい状態に! 敗北のショックは大きく、その上で酒かっくらってばかりだったのだから当然の症状……なんですけど、微妙にリアルだな……。
 アル中の主人公はそのまま妄想に取り憑かれ、誰もいない崖でヒゲの仙人と武神相手に修行!


ヨー先生「この山には私らしか住んでいない。気の毒だけど旦那はもう頭が……


永作博美「いえ、私は夫を信じます! 武神も仙人も実在します!」


 しかし独り言を言いながら飛び回る夫を見てしまった永作はショックを受け、ヨー先生の酒造りを手伝ってるのが災いし、自らもキッチンドリンカーに! 依存症は依存症を呼ぶのだ!
 い、いや〜、すごいね、このリアルさ……「酔拳」を習得するためにはアル中になり、そのリスクすべてを背負わねばならないと言う厳しさ! しかし何か割に合わないというか、他の拳法やった方がこういう余計な社会的ハンデを背負わずに済むような気がするんだが……それでもやはり酔拳じゃないといけないのか? 酔拳こそが最強なのか?
 特訓はしてるんだけど不安要素だらけで、果たしてこれで五毒邪拳に勝てるの!?と疑わしいままクライマックスに突入。しかし、本当の驚きは、この後に待ち構えていたのであった……。まさかの武神再登場の後半には愕然としたよ!


 チウ・マンチェクさんの技の切れはさすがで、ファイトシーンも素晴らしい。相変わらず顔は地味というか、かつて「顔の下半身に中村玉緒が入っており、おまけにカリスマ性のなさが致命的」と誰かが書いていたが、今や若手ではなくナイスミドルな年代に達し、達人の風格もなんとなく備えつつある。攻撃と防御にわかりやすく卑怯技を盛り込んだ五毒邪拳に対し、いかに素手で対抗するか、という工夫も見られて面白かった。
 心配してたCGの使い方もそこそこ自然だった。基本、背景と壊れるものの描写にしか使ってないからな。


 驚きの二回目のクライマックスと合わせ、一本の映画としてはちょっと欲張り過ぎで、終盤だけ別の話になってるが、まあ続編撮る余裕もないしまとめてやっちゃえ、という感じか。例えるなら『イップ・マン 序章』のエンディング直後にいきなり外国人と戦うような感じで、歪と言えば歪。しかし、義兄との対決は、己自身を乗り越えることなくただ敵だけを倒しても無意味と言う、武術に関する基本のテーマの表現でもある。
 相変わらず色んな要素がごった煮になった、やっぱり香港映画らしいカルトな香りのする良い作品。『イップ・マン』シリーズを見てカンフー映画すげえ!と思って観に来た人も、ぜひポカーンとなりつつ今作の面白さに目覚めてほしいものである。
 そうそう、ラスト前にデビッド・キャラダインそっくりの人が出てて、いかにもな役だな〜と思ってたのですけど、まさかの本物でした。これが遺作だったらしい! そこらへんも含めて必見! 

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