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「ありえない」と語っていた未来が現実に…枝野の決断

新党「立憲民主党」を立ち上げた枝野幸男さん。前原さんと争った代表選のときに、すでに現れていた分裂の予兆とは?

「立憲主義を守り、民主主義を根付かせたい。安倍政権と戦う集団になる」

10月2日、民進党の枝野幸男・代表代行が新党「立憲民主党」を立ち上げた。

前原誠司代表が約束した「誰も排除せず、望む人全員の『希望の党』合流」が実現されなかったためだ。そのことについて「残念」と硬い表情で語った。

前原さんの説明は実現されなかった

解散が決まった9月28日のことだった。

民進党を事実上解党し、小池百合子代表率いる希望の党と合流する理由を、前原誠司さんは枝野氏ら民進党の議員にこう説明していた。

「安保法、憲法違反の法律はダメでしょう?」

「名を捨てて実をとる決断だ。安倍政権をなんとしても終わらせる」

「皆さん方と一緒に進む。誰かを排除するというこというではない」

望む人全員の公認を求めていく、と説明した。

これも目前の選挙に勝利するためなら……。満場一致で賛同した民進党議員からは、そんな声も漏れた。

しかし、前原さんの説明は、翌29日に小池氏によってあっさりと否定される。

「リベラル派は排除する」

枝野氏の決断

決意を固めたのは、10月1日だったという。

前原さんが両院議員総会で語った「民進党の理念・政策を新しい器で実現する」という説明と、合流の実態は違っていた。

安保法に賛成する希望の党と、「違憲の疑いがあり」反対とする民進党では、そもそも立ち位置が違う。

小池氏の「排除」発言で望む人全員が合流という話も立ち消えになった。

枝野氏は「(希望の党側の)発言は状況によって変わっている。全体として、理念・政策は違う」と説明し、自身の新党を「民進党を発展させる、前に進めるため」の政党であると位置付けた。

肝心の政策は?

会見で述べた新党の政策は、自身が代表選で訴えたこととほぼ同じだ。

  • 憲法:違憲の疑いがある安保法をもとに自衛隊の存在を憲法に書き込む安倍改憲案に反対。
  • 原発:なるべく早い原発ゼロを目指し、リアルな行程表を示す。
  • 消費税:将来的な負担増からは逃げない。しかし、いまの経済状況での引き上げは反対する。

枝野氏が目指した民進党の路線を、よりはっきりと示した政党になる。

言い換えると、自民党政権に反対で、かつ、共産党支持ではない有権者の受け皿になりたい、ということだ。

本人の弁ではこうなる。

《もう保守やリベラルといったイデオロギーで区分けする時代ではないでしょう。

上からの強権的な政治か、下からのボトムアップによる政治かが対立軸。

安倍政権は上からで、私たちは下からの民主主義を掲げる。》

支援、連携は?

参院選で野党共闘を実現させた市民連合との連携、そして、民進党最大の支援組織だった連合にも支援を依頼し、「支援いただけるものと私は理解している」と踏み込んだ。

労組と市民運動を軸に、他の野党とも協力できるところを協力し、政権交代を目指す。

野党が結束すれば、小選挙区で自民党の議席を減らすことはできるーーこれは昨年の参院選で、民進党がとっていた立場だった。

分裂の予兆は代表選にあった

この日の会見で、新党立ち上げの高揚感とは無縁の浮かない表情だったのは、かつての民進党への思いからかもしれない。

枝野氏と前原氏が分裂する予兆は、お盆休み明けの議員会館でのBuzzFeed Newsの単独インタビューの時にはもうあった。

枝野さんは、こう話していた。

《新たな風が起こりそうだということで、党内に若干、浮き足立っている人がいることは事実です。浮き足立つ人がいるのは、ある意味でやむを得ない。だけど、浮き足立っちゃいけないんです。

浮き足だったら、かえってうまくいかないよということを、きちっと徹底させる。その発信をするのが、リーダーの責任だと思っています。

民進党を壊したくてしかたないんですよ。反対勢力は……。その土俵に乗るっていうことは利敵行為ですよ。》

浮き足立った党内の空気に流されて、民進党は分裂した。

当時、一問一答で語っていたことを再現する。

ありえない風頼みの選挙


——積み上がっているものを解党的に壊せば良いんだっていう話は……

ありえない。利敵行為ですよ。自民党を喜ばせる行為です。

——今回の選挙は、かなり大きい代表選になる……?

前原さんも、そこについては、同じ事を考えてくれていると期待していますけども。

ただ、この代表選挙を通じて、しっかりと党内で共有させないといけないことは、地域の基盤が大事なんだということ。永田町で右往左往してはいけない。

——リアルに選挙を考えたら、地方組織も足場が大事、風を頼みになんていうのは……

ありえないですよ。


繰り返した「ありえない」は現実に……

枝野さんが「ありえない」と語っていたことは、結果的に、民進党の最後の姿と重なる。

安倍政権ではないとして、では、どういう政治を目指すのか。

枝野さんの言葉ーー。

《キーワードは「多様性」です。安倍さんは多様性に対してネガティブですよね。国民はみな同じ方向を向くべきだという価値観だと思う。

僕は明らかに違う。みんな違ってみんないいという立場です。ここは明確な立ち位置の違いです。

僕は、安倍さん的な、みんなが同じ方向を向くべきだというのは、保守だと思わない。それは保守だと思わない。

保守も本来は、みんな違ってみんないい、のはずだと思っています。政治が第二自民党と自民党しかないのは悲惨としか言いようがない。》

悲惨としか言いようのない状況

前原さんは、結果的に風と勢いを重視し、理念・政策の一致からの合流という道を選べなかった。

事実上の解党という賭けが成功に終われば良かったが、賭けに負ければ「悲惨」な状況になることは明白だった。

前原さんが率いた民進党は、枝野氏の懸念通りの道を自ら選び取ったとも言える。

枝野さんが離党して、新党立ち上げというのは必然の流れだった。

枝野新党が立ち上がったことで、選挙の構図は大きく変わった。

政権与党の自民党、「改革保守」を掲げる希望の党、規模は読めないが両党とは立場の異なる議員を集める立憲民主党——。

「私は呼びかけに応じてくれる仲間は排除しない」と枝野さんは強調した。

次の焦点は、各党が10月10日の公示を前にどれだけの勢力を集められるかに移る。