「厚生労働省からの連絡です。千葉県及び近隣圏に在住の方。コスモ石油の爆発により有害物質が雲などに付着し、雨等と一緒に降るので万一に備え、外出の際は傘かカッパ等を持ち歩き、身体が雨に接触しないようにして下さい」

 僕のツイッターのタイムライン上にこんなリツイートが流れたのは東日本大震災の直後、3月11日の夜のことだった。東日本大震災で電車が止まってオフィスに缶詰めになっていた時だ。

 同じ内容のリツイートを読んだ、あるいは人づてにこのことを聞いた読者もけっこういると思う。僕の所にはメールでもこの内容が届いていた。

 個人的には一瞬ドキリとした。確かに千葉の製油所で火災が起こっているとのニュースが、火を噴くタンクの映像とともにテレビで流れていた。その製油所は千葉県の東京湾に面する場所に位置している。けっこう自宅に近いのだ。

 しかし慌てて厚労省のホームページを開いてみたものの、上述のようなメッセージは見つからない。この時点でデマだということはおおかた察しがついてほっと胸をなでおろした。

 それでもツイッター上では相変わらずリツイートが増殖していたし、同じ内容のチェーンメールを受け取った知人から慌てふためいたようなメールが2通、3通と届いた。高校生の長女からも、クラスメートから受け取ったけど、どうしようというメールが来た。こんなデマがこれ以上拡大しないようにと思い、一つひとつ「こんなデマ、恥ずかしいから間違っても転送するな」と返信しておいた。

 ちなみにこのツイートで取りざたされた石油会社からは、後に「タンクに貯蔵されていたのはLPガスであり、燃焼により発生した物質が人体へ及ぼす影響は非常に少ない」という趣旨のリリースが発信されている。

 この製油所火災のデマ情報の場合、実際に製油所で火災が起きていて、炎を上げて燃える映像がかなりセンセーショナルに伝えられていたから、いっそう面倒なことになった。もうもうと立ち上るあの黒い煙を見れば有害物質が東京湾岸に撒き散らされるというデマに踊らされても仕方ない。

 一片の事実に絡めて語られた嘘ほど厄介なものはないのである。