「Evernote Peek」人気を支えた、日本の寿司とお茶の話EvernoteのCEOが語る(1/4 ページ)

» 2011年06月16日 15時22分 公開
[林信行,ITmedia]
カリフォルニア州マウンテンビューにあるEvernote本社

 Evernoteは6月9日、何の前触れもなく「Evernote Peek」という新作アプリケーションをリリースした。それまでのEvernoteとは毛色が異なる、スマートカバー付き「iPad 2」専用のアプリケーションだ。

 この突然の発表はなんだったのか。Peekリリースの2日後、たまたまEvernoteへの訪問をスケジュールしていた筆者が、同社のフィル・リービンCEOを直撃した。わずか30分のインタビューだが、同氏は気前よく「WWDC 2011」の感想や、今シリコンバレーでブームになりつつある伊藤園の「お〜い、お茶」についても熱弁してくれた(聞き手:林信行)。

出発点は「面白そう」だから

―― 「Evernote Peek」、リリースされるや大人気みたいですね。

「お〜い、お茶」を1日に4〜5本は飲むというEvernote社CEO、フィル・リービン氏(注:写真は「お〜い、お茶」のプロップを使用。リービン氏がペットボトルより小さいわけではありません)

リービン うん。リリース後すぐに、米国AppStoreの教育分野でナンバー1に輝くことができたんだ。アップルがこのアプリを「注目のアプリ」にフィーチャーしてくれたのはリリース2日目なので、最初の1日半は、たいした周知活動もできなかった。それにも関わらず、Twitterで全世界のトレンディングトピックの4番目に入り、すぐにApp Store教育分野の1位になれた。我が社でもこれまでこんなことはなかった。

 これは日本でも同様で、AppStoreが正式に取り上げてくれる前から、「Macお宝鑑定団」などのサイトが取り上げてくれたおかげで、すぐに教育部門の1位、さらには無料アプリケーションの4位を獲得できた。まったく驚くべきで、うれしいことだ。

―― 開発のきっかけはなんだったのでしょう?

リービン Evernote Peek開発のきっかけは、iPad 2の発売初日にまでさかのぼるんだ。私と社員のアンドリュー・シンコフは、行列に並んで発売初日にiPad 2とスマートカバーを手に入れた後、テキサス州オースティンで開催されるSxSW(サウスバイサウスウェスト)というイベントへ飛行機で向かった。

 機内でとなりあわせに座りながらアンドリューがスマートカバーの一折り目の部分をパタパタ開け閉めし、こう言ったんだ――「これってすごい。なんだか気持ちがいいし、音もいい。この動きって身体的にも非常に自然だし、これで何か操作できるモノが作れないかな」――そこから、何ができるかなという話になった。

 ちょうどページをめくる動作に似ているから、記憶を補助するフリップカード(めくって答えをみるカード型の単語帳)のような使い方がいいんじゃないか、という話になったんだ。フタを閉じるとiPad 2がスリープ状態になるから、そこから起動したタイミングで何かをしかけるというアイデアで、2人で盛り上がっていた。

―― ということは構想3カ月のアプリケーションなんですね。

リービン いや、実はそうではないんだ。確かに、アイデアが出たのはiPad 2発売初日だったんだけど、初日にすぐ思いついたアイデアだし、1週間もしたらいろいろな開発者がそんなアプリケーションを出してくるだろうと勝手に思い込んでいた。だから、アイデアはそのままお蔵入りさせてしまい、2カ月ほど放ったらかしにしていたんだ。

 その後、何かのきっかけでアップルで働く友人に、このアイデアを話したら「それって最高にクールだよ! そんなアプリケーション、これまでに見たことないし、絶対にやるべきだ」って説得されたんだ。そこで初めて本当に開発することを決めたんだ。

 緊急でスタッフを集めてホワイトボードにアイデアを書き出した。いろいろ話し合った結果、どうせ出すならWWDC 2011の最中のほうが話題作りにもなっていい、ということになった。

 残り期間は3週間ちょっとになっていたが、なんとか、この短期間でリリースまでこぎ着けることを絶対的なゴールの1つにした。そう、実はとても短期間で作ったアプリケーションなんだ。

―― なんと、わずか3週間で! スタッフのみなさんはすごく機動力があるんですね。

リービン いや、実はそれもちょっと違って……確かにアプリケーションそのもののデザインは我々のスタッフが手掛けたんだけど、いざ開発をしようにも、手の空いているスタッフがいなかった。

 そこで我々は「Egretlist」というアプリケーションを開発したプエルトリコの開発者仲間に連絡をし、相談を持ちかけたんだ。彼らはすぐに快諾し、2時間後には飛行機でEvernote本社に向かっていた。そこから約1週間半かけて、彼らは地元とここを往復しながら基礎部分の開発を行った。

 実はサンプルとして添付したノートが完成したのもリリース前の晩だったし、プロモーション用のムービーが仕上がったのも前日で、Peekが形になったのは、本当にリリース直前のことだった。非常にあわただしいスケジュールで作ったアプリケーションなんだ。

 この製品を今後どう展開していくかというミーティングも、リリースから2日後、つまり、今日このインタビューが終わってから2時間後に開くことになっている(笑)。「さあ、とりあえず先にアプリケーションだけ出しちゃったけれど、これ一体、どうやって事業化していく?」ってね。

 Peekをリリースした当日、フランスのビジネススクールの人たちが会社見学に来て「この商品の開発に当たっては、どんなマーケティングリサーチをされたんでしょう?」って聞かれた時には答えに困ったよ。だって、我々のマーケティングリサーチの実態は「これって最高にクールじゃん?」「OK、じゃあ、それやろう」だけだったんだから(笑)。

Evernote本社の入り口では、Evernoteについて書かれた3つのノボリと、そこに見事にとけ込んだ「お〜い、お茶」の巨大プロップが飾られている(写真=左)。Evernoteが、今や世界的人気となったことで、CEOのフィル・リービン氏は出張が多い。出張先の海外のホテルからでも社内の様子に目を配れるように、テレプレゼンス製品「Anybot」を導入した。「実はこれを作っている会社がすぐ裏にあって、テストしてくれって頼まれただけなんだけど、それは書かなくていい」と外村CFO(写真=中央)。Anybotは、PCから遠隔操作が可能な直立型ロボットだ。頭にあるモニタには遠隔操作している人の顔と声が現れ、目の部分にあるカメラの映像は遠隔操作しているPCに届く(写真=右)

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