北海道でもめったにお目にかかれないシャケのフルコース

北海道の代表的な魚のひとつであるシャケ。旬の季節はもちろん、オールシーズン北海道のどこに行っても食すことができる大衆魚で、道民にとっては日常の味だ。しかし、道民にとってさえ非常になじみが薄く、激レアな食べ方といっても過言ではないのが鮭(さけ)づくしの「シャケのフルコース」。いったいどんな料理で構成されているのか?

北の漁師の定番メニュー

生まれも育ちも札幌の筆者にとって、最も身近な食卓の魚はシャケだった。本州以南でも決して珍しい魚ではないだろう。しかし2012年の夏に訪問した東北では、「身がボソボソしているから、あまりここらでは好まれない」との言葉を聞き、かなり驚いた。北海道のシャケはひと味違う。旬である秋に食べる、脂ののったシャケのおいしさときたらたまらない。

先日、なじみの居酒屋で偶然隣り合わせた男性と食の話になった。男性は会社経営者で御年72歳。「今までいろいろおいしいものを食べてきたけれど、一番おいしかったのは22歳の時に食べたシャケ」と言う。なんでも、石狩で漁師を営む友人の実家に招かれた際、友人の祖母が1本のシャケをフルに使い、あらゆる味付けに仕立てて振る舞ってくれたらしい。

いわゆるシャケのフルコースである。会社経営者として全国のあらゆる宴席を経験した男性に、No.1といわしめるなんて……。その話を聞いて以来、シャケのフルコースのことが頭から離れなくなった。

一般家庭ではめったに食べないかぶと煮

珍味中の珍味も含めた15品

早速、シャケのフルコースを食べられる店を探してみた。北海道ならどこでも食べられるだろうと思っていたけれど、これが意外に見つからないのである。やっと見つけたのが、道東の標津町(しべつちょう)にある「郷土料理 武田」だ。

フルコースは合計15品で構成。ルイベやイクラ、軟骨のスライス、メフン(鮭の腎臓の塩辛)、ちゅう塩辛(鮭の胃腸の塩辛)、肝串焼き(鮭の心臓)、白子ポン酢醤油、かぶと煮、あら汁など。

イクラや切り身、せいぜい刺し身ぐらいしか食べなれていない一般的道民にとっては、非常に珍しい品もふんだんに盛り込まれている。くだんの会社経営者は、「最後に出てきたあら汁が特に最高だった」と遠くを見るような目つきで教えてくれたが、武田のフルコースにもしっかりと組み込まれている。

メフンは存在自体知らない人も多いのでは?

歯ごたえも楽しめる軟骨

「あら汁」代わりに自慢の「石狩鍋」を出す「金大亭」

道内で、他にもシャケのフルコースを食すことができる店はないのか。大変少ないが、実は他にもある。札幌近郊の石狩市にある「元祖鮭鱒料理 割烹 金大亭」だ。創業はなんと明治13年(1880)。

石狩にある「金大亭」は明治から続く老舗

シャケの切り身を入れてみそ仕立てで食べる「石狩鍋」が有名なお店で、過去に数回訪れたことがある。ここの石狩鍋は臭みを取った非常に上品な味で、札幌周辺でも評判が高い。過去に訪れた時は石狩鍋に目がくらんでいたため、まさか貴重なシャケのフルコースも提供しているとは思いもよらなかった。

シャケのコース料理は品数によって様々で、7品3,000円から用意がある。コース料理には「あら汁」ではなく、この店自慢の石狩鍋が付いてくるというから、ボリュームも満点だろう。

●information
元祖鮭鱒料理 割烹 金大亭
北海道石狩市新町1

道民にとっても珍しい品々がそろう、幻の北海道グルメ「シャケのフルコース」。ここで紹介した2軒の他にも食べられる店があったら、何とぞご一報いただきたい。