ITproは、米Amazon Web ServicesのIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)サービス「Amazon EC2」の利用を2010年8月をもって止める。仮想マシンを必要に応じて使い、不要になったら捨てられる心地よさ。この体験を約2年間の歴史を振り返りながら語りたい。

 Amazon EC2との出会いは、2008年の夏にさかのぼる。2006年に登場し、2007年に参入企業が増え、2008年にはバズワードの域を越えつつあった「クラウドコンピューティング」。その勃興を前に、当時のITproは「ネットメディアとして何をすべきか」という議論を重ねていた。

 出た結論は「自ら使ってみる」というシンプルなもの。ただし当時も今も、外部サービスに預けられるデータは限られている。そこで公開が前提の「記事」に着目し、関連記事を自動で推薦(レコメンド)するシステムを、クラウド実験の舞台に決めた。プリファードインフラストラクチャーのレコメンドエンジン「Hotate」をEC2の仮想マシンに展開する、ユーザー側担当者兼サーバー管理者というのが記者の役割だ。

2年前から決まっていた

 ITproの関連記事レコメンドシステムは、2008年夏に導入を決めてから約2カ月後の2008年10月15日に、ITpro EXPO 2008をお披露目の場として本稼働した。詳細は「ITproレコメンド」開発記をご覧いただきたい。

 「ITproレコメンド」開発記では、EC2導入当初からHotateの全社展開を視野に入れていたことに言及している。ITproでの効果測定を経て、日経BP社のデータセンターにあるオンプレミスのシステムに移行する算段だった。リーマンショックを間に挟み、ハードウエア選定と調達、システム構築、セキュリティテスト、という枯れた段取りを経て、2010年8月中には全社システムが本稼働する予定だ。

 振り返れば2008年10月からの約2年間で、EC2は負荷分散や運用自動化に関する機能強化(関連記事)や、仮想マシンの仕様強化などを実施してきた。サービスブランドであるAmazon Web Servicesは、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)に相当する「Amazon Elastic MapReduce」をラインアップに加えた。サイトも日本語化され始め、2010年内には国内データセンターが稼働する。

 この間、ITproでの使い方は、それほど変わっていない。レコメンドに特化した単機能のシステムであるため、新たに加わった上位仮想マシンの処理能力は不要だった。負荷に応じて仮想マシン数を増減させる「Auto Scaling」の追加費用に見合うほどのトラフィック変動もない。せいぜい、余裕をもって選択したLarge仕様(米東海岸EC2で0.34ドル/時)からHigh-CPU Medium仕様(同0.17ドル/時)にスペックダウンし、アクセスが集中する正午前後だけ2台で負荷分散するコスト削減を図った程度である。

 ただEC2の仕様として、Largeは64ビット、High-CPU Mediumは32ビットと命令セットアーキテクチャが異なるため、仮想マシンのイメージを作り直す手間はかかった(関連記事)。

プロジェクトの目的を達成

 全社システムが本稼働した後も、しばらくは全社システムのバックアップとして仮想マシンイメージを残しておく。EC2は物理ハードウエアを仮想化したIaaSサービスなので、仮想マシンイメージの寿命は長い。物理デバイスの変化以上に変わることはないからだ。

 アプリケーションの実行環境を提供するPaaSは仕様変更がしばしあり、アプリケーションそのものを提供するSaaSは改善のスピードが速い。利用を再開する際の手間は、IaaSの方が少ないだろう。

 EC2の利用を止めるには、仮想マシンをシャットダウンすればいい。それで課金は止まる。手元に残る所有物は、自作のシェルスクリプトと認証用のワンタイムパスワード生成器だけ。プロジェクトの目的は完全に達成した。心地よいはずだが、何だか寂しい。