Q 私の部下のSE,T氏(24歳,男性独身)が,最近わけの分からないことを口走ります。「NHKのアナウンサが私を見て微笑んだ。僕に気があるのではないか」など,とても現実にはあり得ないことを真顔で言うのです。どう対応すればいいのでしょうか。(40歳,男性,管理職)

 このような部下を持った場合,対応に苦慮する管理職やリーダーは多いと思います。部下に以下のような症状や行動上の障害があれば,「統合失調症」の可能性があります。

(1)妄想:まったく根拠のない主観的な想像や信念

(2)幻覚:実際にあり得ないのに物が見えたり,音が聞こえたりする

(3)まとまりのない会話:話が飛んだり,急に会話が途切れたりする

(4)緊張病性の行動:意味不明の行動をとったり,緊張から身動きできなくなる

(5)陰性症状:喜怒哀楽の感情がなくなり,能面のような表情になる。思考も貧困になり,同じことを何度も言ったり,短絡的な会話が多い。意欲も欠如し何もやる気がなくなる

 これらの症状が2つ以上,1カ月間ほとんどいつも続いていると,「統合失調症」の可能性は高まります。

 統合失調症にかかると,社会生活や職場に適応するのが困難になります。特に仕事ではミスやエラーが目立ち,生産性が低下します。もちろん人間関係やコミュニケーションにも支障を来し,意思疎通もできません。

 統合失調症は多くの場合,初期症状として感情が鈍くなる,思考が貧困になる,家に閉じこもりがちになる,などの症状があり,時間の経過とともに妄想や幻覚,緊張病性の行動などの症状が現れるようになります。また,統合失調症には主に「妄想型」,「解体型」,「緊張型」という3つの型があります。妄想型は,妄想を中心とする症状が多かったり,幻聴や幻視,幻嗅,幻味などの幻覚症状が多く出る型です。「解体型」は,まとまりのない会話や行動,感情の麻痺,不適切な感情(悲しいときに笑うなど)が多く見られます。「緊張型」は,急に動きが止まったり,硬直して姿勢が元に戻らなかったりするほか,同じことを何べんも繰り返す「常同行為」,奇妙で怪しげな言動,他人の動作や言葉をマネする「反響症状」が多い型です。この3つに分類できない混合型もあります。

 いずれにしても,統合失調症が疑われる症状や行動上の障害が一定期間続く場合は,会社の産業保健スタッフに,対応を速やかに依頼する必要があります。もし産業保健スタッフが手薄であれば,外部の精神科(神経科)に連れて行く必要があります。その際,本人への説得が重要になりますが,本人には病識(自分が病気であることの認識)がないことが多く,思い通りにならないことがよくあります。時には激しく抵抗したり暴れ出したりします。そういう場合は,家族の協力を求めたり,何人かのスタッフの援助が必要です。

 統合失調症の原因は,脳内神経伝達物質のドーパミンの異常など様々な仮説がありますが,まだはっきりとは分かっていません。治療は,薬物療法と休養が中心です。完全に治癒する人は少なく,ほとんどの場合「寛解」(病気そのものは完全に治癒していないが,症状がある程度軽減したり消失すること)状態が続くので,周りの協力が必要不可欠です。個人差もありますが,約6~7割の人が職場復帰や社会復帰を果たしています。

武藤清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など