Kaseyaを利用して、クライアントPCの運用管理を省力化しようとしているのが東京大学だ。学生が授業で利用するPC、1,321台を統合運用すべくKaseyaの導入を決定している。

NetBootのシンクライアントからPC管理への転換

東京大学 駒場キャンパス

東大では、教養学部前期課程を中心に全学で授業に利用する「教育用計算機システム」がある。同システムは、情報基盤センターが管理運用を担当。対象となるPC約1,400台は、Mac OSとWindowsとも、それぞれのネットワークブートシステムで管理していた。同システムでは、サーバに格納されたディスクイメージを利用してクライアントを起動する。したがって、管理者がサーバ上にあるマスターのディスクイメージを最新のものに保っておけば、そのイメージを利用して起動する各クライアントも最新の状態で起動できるのだ。しかし、2012年2月に機器のリース期限を迎えるにあたって、新たな管理ソリューションの導入が必要になった。

東京大学 情報基盤センター 情報メディア教育研究部門 助教 丸山一貴博士

「大学では、特に理系の教員からUnixベースのOSマシンを要求されるため、Macを数多く導入していますが、一方で文系教員からはMicrosoft Officeを利用することからWindowsマシンが要求されます。また、Windows上でCADを利用するためにはネイティブでWindowsが動くマシンも必要でした。混在環境を適切に管理するために、従来はそれぞれにネットワークブートを採用していたのですが、Apple社がXserveの新製品をリリースしないと決定したことで、別の対処方法を考えなければならなくなりました。また、『少ないスタッフで管理運用しなければならない』という運用側の事情もありました」と語るのは、東京大学 情報基盤センター 情報メディア教育研究部門の助教である丸山一貴博士だ。

代替機として推奨されているのはMac Proだが、「少ないスタッフで効率的に管理運用しなければならない」という原点に立ち返り、「現実的なソリューションがあるのであれば、NetBootにはこだわらない」との方針を決定。新たに管理ソリューションの導入が検討されたのだ。   

Kaseyaを利用して1,321台の混在環境をスムーズに管理

2012年3月から導入される予定の新環境では、ハードウェアはiMacに統一し、BootCampを活用してMacとWindowsのデュアルブート環境を実現する。これまでのネットワークからのブートはなくなり、起動ディスクはマシンごとの管理となる。そのため、1,321台のマシンを同一環境に保つ環境復元ツールとしてDeep Freezeを採用する。

「新たな管理ソリューションでは、MacとWindowsの混在環境でOSや導入アプリケーションのパッチのチェックや実行、そしてその実行結果を簡便に把握できることが条件でした。また、Deep Freezeと併用するにあたって、パッチ適用時に一度Deep Freezeの設定を解除して実行し、パッチ適用後に再起動してからDeep Freezeを再適用するというステップの管理も必要です」と丸山氏は、新ソリューションへの要件を説明する。

丸山氏は入札条件のために下調べを行ったが、頻繁なOSパッチの適用とWindowsとMacの混在環境に対応しつつ、1,000台を超える大量のクライアントを管理できるソリューションは事前調査ではカバーできなかった。しかし、既存のソリューションに追加の開発を施せば実現可能であると判断し、入札の仕様を決定して公開した。

その結果、落札したNECの提案はKaseyaによる集中管理だった。Kaseyaは、Macの集中管理ソリューションに関する追加開発を担当するキヤノンITソリューションズ(キヤノンマーケティングジャパングループ)のパートナーだったのである。

従来は、「少人数で実現可能な集中管理」を優先し、ローカル起動より動作が多少遅いものの、NetBootを使っていた。しかし、Kaseyaは、マルチOS環境での統合管理機能や、パッチを当てる際の複雑な条件を制御できるステップ管理機能を標準搭載しているほか、クライアントPCに搭載されたエージェントが差分だけをサーバから受信して、集中管理を行う。このため、少人数での運用が可能となる見込みで、なおかつ、ローカル起動が実現でき、クライアントPCの動作が軽快になるのも魅力だったという。

パッチ適用は手動で実行指示

実際のシステム運用開始は2012年3月1日から行われる予定だ。3月中に実運用環境での動作確認を行い、4月の授業開始に合わせた本稼働に備える。

NetBootで運用していた頃は、1カ月程度の間隔で各種パッチを適用したOSの新イメージを作成していた。これに対して、Kaseyaが導入された後はパッチが随時適用できるようになる。

「従来はイメージを作ってブートサーバに配るだけで済んでいたので、これまでに比べ手間は増えますが、適用のタイムラグが減ります。また、学期内に新アプリケーション導入のリクエストが出た場合にも、従来より迅速に対応できる可能性があると期待しています」(丸山氏)

また、Macを用いたNetBootで大量クライアントPCを管理している事例が少ないため、トラブルが出ても原因究明に時間がかかっていた。しかし、Kaseyaを導入することで、NetBoot特有のトラブルから解放されるという期待もある。

「管理コストは逆に増えるかもしれませんが、ブートサーバが以前のXserve 33台からKaseya導入後はMac mini server 12台になる予定で、ハードウェアへの投資が少なくなるのはメリットですね」(丸山氏)

ただ、運用上、逐次アップデートの繰り返しではなく固定したOSイメージの一括配信体勢も残しておきたいという希望があり、この機能を含めて独自オペレーションとなる部分は、以前から対応していたキヤノンITソリューションズが追加開発を行う。周辺ソリューションとあわせての統合運用はNECの担当だ。

大量クライアントの頻繁なアップデートを要求

「夜間にパッチを実行する場合、大量クライアントの中でどのマシンにエラーが出ているのかがすぐわからないのでは翌朝の授業に障害が出ます。このため、パッチ単位にアップデートできる集中管理ツールを探していましたが、Kaseyaは頻繁なアップデートをしつつ、実行の成否を容易に確認できますので、運用する我々にとって助かります」。丸山氏はこう語る。

Windowsが主流の企業が多い中、今回のような事例は少ないのかもしれないが、そういった企業にとって、KaseyaのようなマルチOS対応やステップ管理機能を搭載したツールは貴重な存在といえるだろう。