木走日記

場末の時事評論

憲法改正「国民の意識と大きなズレがある」と詭弁を弄する朝日新聞社説

 17日付けの朝日新聞社説は自民党憲法改正推進本部の議論再開に、「改憲ありきの姿勢は厳に慎むべき」と異議を唱えています。

(社説)憲法70年 改憲ありきの姿勢では
2017年11月17日05時00分
http://www.asahi.com/articles/DA3S13231476.html?ref=editorial_backnumber

 社説は冒頭、「与野党を問わず、国会議員の改憲志向は強まっている」と指摘します。

 自民党憲法改正推進本部の会合を開き、改憲に向けた議論を再開した。

 衆院選自民党は、自衛隊の明記▽教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参院の合区解消の4項目を公約にうたった。公明党とあわせた与党で、改憲発議に必要な3分の2を上回る議席を獲得した。

 与野党を問わず、国会議員の改憲志向は強まっている。本紙と東大の調査では、当選者の82%が改憲に賛成姿勢だった。

 しかしそれは「国民の意識と大きなズレがある」と指摘します。

 一方で、国民の意識と大きなズレがあるのも確かだ。

 本紙の今月の世論調査で「首相に一番力を入れてほしい政策」を聞くと、社会保障32%、景気・雇用20%、教育15%などが高く、憲法改正は6%にとどまった。

 「自民、公明両党にも温度差がある」と公明党山口那津男代表の最近の発言を取り上げます。

 自民、公明両党にも温度差がある。公明党山口那津男代表は最近、こう指摘した。

 「発議は、国会内の多数派工作で可能な場合もあるが、国民投票でぎりぎりの過半数では大きな反対勢力が残ってしまう。国民の憲法としては不幸な誕生になる。発議の3分の2の背景には、それ以上の国民の支持があるくらいの状況が望ましい」

 見識だろう。

 社説は「国民投票の結果がどうあれ、国民の間に深刻な分断をもたらす恐れさえある」と危惧します。

 国会による発議にこぎつけたとしても、最終的に改憲の是非を決めるのは主権者である国民による投票だ。

 国民の納得が不十分なまま強引に発議に持ち込めば、国民投票の結果がどうあれ、国民の間に深刻な分断をもたらす恐れさえある。

 さらに、「野党第1党の賛成」は必須であると主張します。

 憲法のどこに、どんな問題があるのか。その問題は憲法を改めなければ解消できないのか。他の政策課題より先に、いま改憲を急ぐ必要性はあるのか。

 まず衆参両院の憲法審査会での超党派の議論が重要だ。

 少数意見を排除せず、丁寧な議論を積み重ねる。少なくとも野党第1党の賛成をえる。

 手順をふんだ合意づくりの努力を尽くすことしか、国民の幅広い納得をえる道はない。

 社説は「改憲ありきの姿勢は厳に慎むべき」と主張、最後に「安倍氏自身の首相在任中の施行を視野に、期限を区切るようなやり方では、国民の合意は広がらない」と結ばれています。

 安倍首相は5月に憲法への自衛隊明記を訴え、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と意欲を示したが、夏以降は「スケジュールありきではない」と述べている。

 当然の姿勢だろう。

 何よりも大事なのは、国民の多くがその改憲は必要だと理解し、同意することである。

 改憲ありきの姿勢は厳に慎むべきだ。

 ましてや安倍氏自身の首相在任中の施行を視野に、期限を区切るようなやり方では、国民の合意は広がらない。

 しかしメディアとしてはずいぶん横暴な論説なのであります。

 改憲発議は「主権者である国民による投票」で賛否が決しますが、憲法では「その過半数の賛成を必要とする」と明記されているにもかかわらず、朝日社説は勝手に「国民投票の結果がどうあれ、国民の間に深刻な分断をもたらす恐れさえある」と、勝手にハードルを揚げています。

 大多数の国民の支持がなければ発議するなといっているわけです、朝日社説の横柄な主張には閉口いたします。

(参考)

第九十六条
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 さらには、「少数意見を排除せず、丁寧な議論を積み重ねる。少なくとも野党第1党の賛成をえる」と、どんどん細かいハードルをこさえ、これではあたかも改憲の発議にまで持っていくことを不可能にしようとしているかのごとくです。

 特にひどい非論理的な理屈をこねているのは、この部分です。

 与野党を問わず、国会議員の改憲志向は強まっている。本紙と東大の調査では、当選者の82%が改憲に賛成姿勢だった。

 一方で、国民の意識と大きなズレがあるのも確かだ。

 本紙の今月の世論調査で「首相に一番力を入れてほしい政策」を聞くと、社会保障32%、景気・雇用20%、教育15%などが高く、憲法改正は6%にとどまった。

 「国会議員の改憲志向」と「国民の意識」とに「大きなズレがある」との説明箇所なのですが、これがひどい詭弁です。

 「国会議員の改憲志向」では「改憲に賛成か否か」の質問だから「82%が改憲に賛成」だったわけですが、「国民の意識」では質問がぜんぜん違うわけです、「首相に一番力を入れてほしい政策」と聞いて「憲法改正は6%にとどまった」と違う質問の違う回答結果を指して「大きなズレがある」と嘘をついているわけです。

 小さな詭弁です。

 当たり前ですが「首相に一番力を入れてほしい政策」と尋ねられれば、国民は100%いつでも、「社会保障・景気・雇用・教育」と日々の生活に影響する政策を望むはずです。

 たとえ国民の多くが憲法改正に賛成していたとしても、「首相に一番力を入れてほしい政策」の上位になるかは、まったく別の問題です。

 それをもって「国民の意識と大きなズレがある」との結論は、論点のきれいなすり替えであり、詭弁以外の何者でもありません。

 こんな世論調査で、つまり「首相に一番力を入れてほしい政策」で「改憲」が選ばれなければならないとすれば、憲法改正は永遠に不可能となりましょう。

 朝日社説が憲法改正に反対なのは勝手です。

 好きに論ずればいい。

 しかし詭弁を弄してまで読者を誘導することはなりません。

 小さい指摘かもしれませんが、これは日本を代表する(と自認している)メディアの社説なのです。

 繰り返し指摘します。

 憲法改正賛成議員が多数派であることを、朝日社説は「国民の意識と大きなズレがある」と決め付けていますが、その論法は非論理的であり、異なる質問を意図的に対比することで読者を誤誘導しております。
 
 小さな詭弁です。

 導入部分が非論理的なので、論説全体の信用性が落ちてしまうのです。

 ふう。



(木走まさみず)