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ワンルームに住む平均年齢91歳夫婦の滞納事件。強制執行はできるか?できないか。

不動産投資全般/社会問題・情勢 ニュース

2018/09/20 配信

家主からご依頼をいただいた時、入居者は70代のご夫婦だと聞かされた。健康状態が気になったが、家主が電話で話す限り元気そうに感じたとのことだった。高齢者の明け渡し訴訟の場合、ポイントは強制執行ができるかどうかだ。

本来、裁判で明け渡しの判決が言い渡され、それでも退去してもらえない場合、強制執行の手続きで部屋から荷物を撤去し鍵を換え、そして滞納者が二度と部屋に入れない状態にして終了となる。

しかし高齢者の場合、執行官の判断で強制執行が不能とされる場合がある。家主からすると、話し合いで解決しないため裁判まで申し立て、勝訴判決をもらい、それでも出て行ってもらえないから強制執行を申し立て、その強制執行が不能で終了となると、滞納者が自ら退去してくれない限り追い出すことはできないことになる。

仮にそのまま家賃が入らないとしても、もはや家主に成す術はないという最悪のシナリオだ。

なぜ不能となるのか。

高齢者になると、部屋から追い出された時に自力で生きていけないでしょう、その彼らから部屋を取り上げてしまうのは、人道的にいかがなるものか……それが執行官の認識らしい。

彼らも100%公務員ではないため、万が一のことがあった時に責任を負いたくないのだろう。しかし行き場のない高齢者の受け入れは、国や行政が負うべきもので、民間の家主が背負うものではない。

教科書には、何歳から強制執行の対象にはならないとは記載されていない。現場でも執行官の性格や、賃借人の状況等で判断されるので、一概に何歳以上は不能となる!とは断言できない。

ただ少なくともその可能性を秘めている以上、高齢者賃借人相手の事件は、こちらも神経を遣うのだ。

住民票から分かった驚愕の事実

まずは現状を把握するために、住民票を取得してみた。すると驚愕の事実が。賃借人は93歳、妻は89歳、なんと平均年齢91歳の夫婦だった。こんな高齢者の二人がまさか賃貸のワンルームで生活しているなんて、それだけでも驚きだった。

しかし賃借人に電話してみると、とてもはっきり受けごたえする。頭の回転も早いし、声も張りがある。確かに70代くらいにしか聞こえない。家主が電話で督促していただけでは、年齢を感じなかったとしても仕方がない。

滞納になったのは、預金不足。年金の額が足りなくて家賃が払えないとのこと。ひとり娘は既に亡くなり、孫は生まれた時から海外。援助も得られそうにない。このままだと滞納額はどんどん加算されていくので、取り急ぎ訴訟を申し立てた。

裁判の日、賃借人は杖をついてやってきた。歩く姿は確かに90代ではあるが、法廷での受けごたえは見事だった。補聴器もなく裁判官の問いに答える姿には、ある意味感動だった。

同時に裁判官も「お元気ですね」とトンチンカンなことを言っていたので、本当に93歳という賃借人は高齢者という概念を覆してくれたと思う。

とはいえ裁判は事務的に、原告の勝訴判決で終わった。いくら元気そうであっても、この年齢。強制執行は不能になることは間違いない。

任意でこの賃借人夫婦の終の住処を探し、そこに連れていくしか部屋を明け渡してもらえる方法はない。乗りかかった船だし、依頼者のことも考えると私も探していくしかなかった。

苦戦する終の住処探し

年齢的にもこの夫婦が、民間の賃貸に住んで生活することはもはや不可能だろう。高齢者施設を探すしかない。ところがこの夫婦、介護認定を受けていなかった。こうなるといくら緊急性があると言っても、施設は受け入れてくれない。まずは介護認定を受けるところから始まった。

連日のように行政ともやり取りをした。とにかく高齢者施設に連絡して、受け入れてくれるようなところも探した。エリアなんて言っていられない。地方の施設にまで連絡した。

探し始めて3週間、奇跡的に、そう奇跡的に夫婦の受け入れてくれる施設が見つかった。栃木県の施設だった。

ひとまず行き先が決まったことに安堵し、行政の人と施設の人がお迎えに来てくれる1時間前に夫婦を訪ねた。身の回りの物しか持っていけないので、残置物の放棄書をもらうためだ。

家主はこの書面を持って、入居者の残置物を処分していいことになる。費用はかかるが、強制執行より数段安い金額で済むから良かったと思ってもらうしかない。

しかしドアを開けてびっくり。夫婦はのんきにまだ寝ていた。朝の10時。すでにお迎えの車も到着していた。身の回りの物も、まとめてもいない。

冷蔵庫の中も台所の流しも、そのままの汚さ。ワンルームなのに仕事場のようなキャビネットと机がぎっしりで、足を伸ばして寝られないくらいの荷物の量にも圧倒された。撤去前 イトーピア浜離宮229号室 (49)

退去当日、こんな状態で出て行ってしまった。寝る場所すらない。
退去当日、こんな状態で出て行ってしまった。寝る場所すらない。

撤去前 イトーピア浜離宮229号室 (23)

夫婦は娘の遺影だけを抱え、着の身着のままで部屋を後にした。残念ながら滞納額も残置物の処分費用も、家主負担しかない。

これからこのような案件が増えることは間違いない。まずは入居者の年齢を確認することから始めて欲しい。

執筆者:太田垣章子(おおたがき あやこ)

【プロフィール】
司法書士・章(あや)司法書士事務所代表
平成14年から主に家主側の訴訟代理人として、悪質賃借人の追い出しを延2000件以上解決してきた賃貸トラブルのエキスパート。徹底した現場主義で、早期解決のためにトラブルある物件には必ず足を運んできた。現場で鍛えられた着眼点から、賃貸トラブルの解決を導く救世主でもある。著書に「賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド」(日本実業出版社)がある。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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