玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第12節

サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
 そらは自分が兄の対性クローンだということを知って涙した。

そら「……ッ。あたし、こんな大事な事、どうして覚えていなかったの……」

レイ「無理もありません。再生直後のそら様は新生児でしたし、6歳までは自我が無かったのですから」
  
  
そら「……。そうよ。あんた、6歳まであたしを放っておいたんでしょ。宇宙人は本当にひどいことするわね」
 妹はキッ!と背後の奴隷の話に顔を振った。
そら「記録も見たし、なんとなく覚えてるわ。あたしは病院のお兄ちゃんと離されて、特殊養護学校にたった一人で入れられていたのよね。あんたのせいで」
レイ「大変申し訳無い事をしました。そら様。しかし、1991年9月20日にそら様と倶雫様の肉体の再構築を完了した時点では、0から7までの奴隷諸国連邦の宿るべき下僕は完全に稼動しておりませんでしたし、我々にもそら様と倶雫様を養育するための知識も経験も能力もありませんでした。
 そのため、倶雫様は事故に遭った行方知れずの少年、そら様は捨て子として病院に預けるしかなかったのです」

そら「そのせいで、お兄ちゃんは先月までずっとあの病院に入院して、あたしは病院から、知的障害者っていうことで養護学校にたらい回しにされたわけよね」
 妹は自分を蘇らせた存在に対して、何の恩義も感じていないようであった。むしろ軽蔑と怨みに満ちた視線である。

レイ「地球に戻られた当初、そら様は重度の自閉症に似た虚脱状態に、倶雫様は現在まで植物状態になっておりましたので。
 この状態の違いについては我々にも解明はできていません。仮説ですが、人間の自我を構成する光体は物質の素粒子よりも極度に軽いため、衝突点に近い倶雫様の自我の方が加速され、そら様の自我よりもはるか遠く、宇宙の果てに移動したためと推測しております」

そら「そう、やっぱり、お兄ちゃんはあたしを守ってくれたのね……。
 もし、あたしの方が近かったら?」

レイ「そら様は当時、新生児でしたので、自我を残さず消滅していたか、倶雫様と共に眠り続けることになっていたでしょう」
そら「……。お兄ちゃんのおかげ……。
 だんだん思い出してきた。ねえ、6歳のあたしが初めてお兄ちゃんに会った話を思い出させてよ、レイ」
 妹は、赤ちゃんの自分が兄に助けられたという話で落ち着いたようで、また兄にベッドの中で抱きつきながら、奴隷を促した。
  
  

 人気のない山あいの杉林の中にあるその学校に向けて、二つの黒い影が顕れた。黒い和服に黒いサングラスと黒い帽子をかけ背が丸い腰曲がりの老人と、黒い長袖長裾ワンピースを着てキャスター付きスーツケース運ぶ若い胸の豊満な女の姿だ。老人に女が付き添うように、ゆっくりと坂道を歩いてから、学校の門の呼び鈴を鳴らした。
レイ「娘を迎えにあがりました。頭令礼一郎です」
理事長「あっ。養子縁組の頭令様!お待ちしておりました!」
 男性職員の手で格子状の鉄扉を横に開かせ、理事長は礼一郎を日に焼けた満面の笑みで迎え、金歯が光った。当時50代の彼は校長ではなく、この養護学校などを含めたいくつかの施設を経営している理事長兼オーナーといった人物で、黄土色に紺のストライプが入ったスーツを着て、今日のために出向いて来ていた。
 その理事長が宇宙人をいそいそと応接室に迎える間の廊下で、遊んでいた知的障害者の生徒が黒服の二人を物珍しそうに見、奇声を上げる者もいたが、黒服は一瞥もしなかった。
 応接室の黒革のソファに礼一郎が座り、ガラス面の机を挟んだソファには理事長が、その後ろには理事長の側近、黒スーツにサングラスの男が二人おり、その一人の前の車椅子に座って、この場で一人だけ白いワンピースを着た、ショートカットの髪のちいさな幼女が静かに居た。
理事長「この子が、頭令様がご指名された田中そらちゃんです」
レイ「存じております」
理事長「煙草は構いませんかな?」
 と、理事長は机上の陶器の灰皿を見やるが、
レイ「私は吸いませんが、どうぞ」
 と、頭令礼一郎の返答。その後ろにスーツケースを持った黒服に銀縁眼鏡をかけたミイコが立っていた。この時はまだメイドのエプロンやカチューシャや付け耳は付けていなかった。
理事長「では失礼して……。すぅーふはぁー。
 しかし、あなたも御奇特な方ですな。こんな子を養子にしたいとは。
 ご覧の通り自分では歩く事も出来ない、食事も流動食しか食べられない、もちろん喋る事も出来ません。先天的に色素が薄いですし体も弱いんじゃないでしょうか。
 毎日、ただ、寝て、起きて、名前の通り空ばかり見ているだけの子だと職員から聞いております。養子にするならもっと他に」

レイ「彼女の身上書は拝見しました。引き取る理由は先日お伝え致しましたし、契約書も交わしました。お構いなさらぬよう願います」
 アルビノで、毛に血が混じるため薄桃色の髪の、6歳のそらの紅い瞳は、その時は虚空ではなく、レイの首に下がったクロムのロザリオを凝視していた。宇宙人の作った完璧な平面をもつクロムのロザリオは黒衣の和服の老人には似つかわしくない光沢であった。が、理事長は真横の幼女の視線には気づきもしなかった。
理事長「すみません。そうですな、養父としての条件さえ満たしていただければ、理由に私どもが口を差し挟む必要は御座いません。そう言えば、頭令様は私と同じ投資家で、しかも私よりも大層な財産をお持ちとか。ええ、そらちゃんは本当に幸せな子だと思いますよ」
 『チンポも立たねえジジィには、こんなクソを垂れるしか能が無い人形みたいなガキが良いのかね』

 下衆な理事長の本心は、宇宙人には関わりない。理事長はどうあれ、職員は普通に業務を行っていたし、セブンセンサーの元になった宇宙人も見守っており、そら自身もクソを垂れるだけの幼児だったので、何をされるでもなく、ともかくも安全に育っていた。
レイ「では、こちらを受け取り下さい」
 頭令礼一郎が手で合図すると、背後のミイコが灰皿をわきにのけ、ジュラルミンケースをテーブルに乗せたので、その脚がギシと軋んだ。
理事長「これは!」
 開かれたケースを見た理事長は一万円札を想像していたが、そこには金塊が並んでいた。素粒子を組み替える技術を持つ宇宙人にとって、偽札よりも金を作る方が楽であり、また、安全かつ倫理的であったからだ。その輝きは理事長の頭に、目の前の女が金塊入りのケースを持ちあげた事の疑問などを思わせもしなかった。黒服の男たちも、ざわ…と息をのんだ。
レイ「純金で約十億円です。無刻印ですが、あなたなら運用できるでしょう」
理事長「本物、、、ですか?」
レイ「ミイコさん」
ミイコ「はい」
 ミイコのもう一つ持っていたカバンの中から取り出だしたるは、ダイヤモンドの刃が先端に付いたハンド・ドリルだった。黒衣の女はためらいなく回転する螺旋の彫られた円柱の刃を金塊の一つに突き立てて削った。
ギュウウギギギギギギギギッ!
キラキラキラキラキラ!
 舞い散る砂金が蛍光灯を反射し、礼一郎の黒メガネにも映り込んだ。
レイ「ご覧の通り中まで、本物の純金です。不服があれば後日ご連絡をください。その場合は、こちらもそれ相応の対応をさせていただきます」
 大金は同時に威圧であった。だが、理事長のような職種の人間にはそれは通常の社交辞令であり、むしろ金塊に喜ぶ思考の方が大きかった。
理事長「ははっ。不服なんてとんでもない。いや、契約の額よりも何倍も多い!
 ……なるほどぉ、口止め料も入っているというわけですね。承りました。
 また、御養子の話が有れば今後も私どもに御相談下さいませ」

 老人のレイも、機材を仕舞ったミイコも、営業トークには耳を貸さない。
レイ「これまでの養育費と、この施設への純然たる寄付金です」
理事長「あはははは!そう、そういうことですな!まことに、ありがとうございます。
 では、こちらが正式な養子縁組の保証書となります。お納めください」

 取引成立、ということで理事長のサインの入った書類と頭令礼一郎の金塊の交換で、田中そらは頭令礼一郎の物になった。ミイコがそらの車椅子を押し、礼一郎の隣に向くように運んだ。廻り込みながら、そらは礼一郎の胸元のロザリオから目を離さないので、頭が1/4回転した。
レイ「ところで、本日は娘の誕生日だと身上書に在りました」
 それは、宇宙人が倶雫とそらの肉体を修復し、病院の前に捨てた日であった。
理事長「ああ、そうですな。その日を選んで、お迎えにいらしたというわけですか。
 たしか、今日は『空の日』だとか。それで『そら』という名前を最初の施設で付けられたそうですよ」

レイ「それも理由の一つです」
 理事長は十億円を手にし上機嫌で饒舌になっていたが、礼一郎はソファから立ち、そらの前にひざまずいた。
レイ「そら(様)……。お誕生日おめでとうございます。
 お父さんからの、初めての誕生日プレゼントです。受け取って下さい」

 養父、頭令礼一郎の皮を被った奴隷の宇宙人は、その首にかけたクロムのロザリオを取り、そらの首に通した。そのロザリオもまた奴隷宇宙人の宿ったモノであった。頭上に掲げられたロザリオを、そらは見上げ、胸元に収まるまでジッと見据え、こうべを垂れた。まだ金粉の輝きが舞っていた。
 頷いたまま胸元で煌めくロザリオを一撫でしてから、そらは顔前の礼一郎に紅い瞳を向けて口を開いた。
そら「お父様。わかった」
理事長「そらちゃんは!しゃべれたのか!」
そら「今しゃべれるようになったよ。理事長さん」
 クロムのロザリオは彼らの輪に、そらの頭をくぐらせる時に、宇宙の果てから集めたそらの自我をその脳にインプットした。
 むしろ、6年間そらの肉体がずっと見上げ凝視していた物、それが宇宙に散った自らの自我であった。そして、クロムのロザリオに収集されて来たそれがその時、宿るべき肉体精神魂を統合した。
 この時であった。
 そらは真に覚醒し、そらの脳に蓄積されていたそれまでの記憶、つまりは周りの人間の会話、テレビやラジオの音声や情景のなどの情報を理解する主体を得て、発話するまでに一気に成長したのだった。
 宇宙人に再構築されたそらの脳は、全体の数割しか使えない地球人のそれよりもシンプルに作られていたため、今やその性能をフルに発揮するものとなっていた。
理事長「頭令さん!どういう手品を使ったんです?!」
 先ほどまで意志薄弱だったそらの表情と反応の鋭さに、理事長は驚き思わず煙草を膝の上の灰皿でもみ消した。
レイ「今はもう私の娘です。娘のことに口出ししないでいただきたい」
そら「これからは、あたしはお父様のところに行くの?」
レイ「そうです」
 ひざまずいたまま、幼女に老人の姿をしたものが答えた。
そら「うしろのあなたがおかあさんになるの?」
ミイコ「私は頭令家のお手伝いさんです。そら様のお世話をさせていただきます」
そら「そう。わかった。じゃあ、行こう」
 すっ
 頭令礼一郎の丸い肩に手をかけ、そらは立ちあがった。
 またしても怪異に理事長はまた驚愕したが、もはや何を言うべきかも思いつかなかった。彼にそらの紅い瞳が向いた。
そら「理事長さん。もうこの車椅子はいらないからおいて行く」
理事長「あ、ありがとう」
そら「このおむつもいらない。ゴミはゴミばこへ」
 ミイコの手を吊り皮代わりにして、そらは部屋の隅までのろくさと歩くと、そらはそのスカートの中に手を入れ、まだ失禁する前で乾いていたおむつを外し、捨てた。それは幼女故の羞恥心の無さではなく、高貴な者が低位の他者に体をさらすことに何の関心も抱かない態度であった。
そら「それじゃ、理事長さん。さようなら」
理事長「さ……さようなら」
 去り際にすっと眼を流して挨拶する幼女の紅い瞳に、理事長は気圧された。
  
  
 車椅子で応接室に入ったそらが、黒服の女に手を引かれて歩いてくれば、廊下を歩いていた養護学校の男性教諭もまた理事長同様に驚いた。
教諭「そらちゃん、どうしたの?」
そら「このおじいさんが、あたしのお父様になったから、そのおうちにいくの。
 先生、さようなら」

 その日、そらが養子に行く事は知っていても、先ほどまで一度もしゃべらなかったそらの口からそれを聞かされれば、さらに驚き、声も出なくなった。いままではずっとぼんやりとしていた紅い瞳に初めて直視された彼も、何を言えばいいのかを見失った。代わりに、応接室に飛び込んで、
教諭「どういうことがあったんですか?」
理事長「わからん!」
教諭「なんです、その金塊!」
理事長「関係ないっ見るなっ」
 その様な騒ぎに、児童たちが教室や、グラウンドからそらの周りに集まってきた。
児童A「そらちゃん!歩けてる!」
 知的障害者の娘は因果関係に拘泥せず気さくに声をかけた。
そら「そうだよ。なんでもできるよ」
児童B「すごーい!」
児童C「……そらちゃん、そのキラキラ……なに?なに?」
 10歳くらいの色白の少年が、そらの胸元に今までなかったクロムのロザリオに敏感に気付き、問うた。
そら「誕生日プレゼントでお父様にもらった。今日はあたしの誕生日だから」
児童B「すごーい!すごーい!」
児童A「じゃあ、おたんじょうびのうたをうたわなくっちゃ!」
  
  
児童達「♪ハッピーバースデー トー ユー はっぴーバースデー トー ユー ハッピーバースデー デア そらちゃーーーん ♪ ハッピー バース デー トー ユー ♪」
 いささか歩調の合わない児童達の、大声での誕生賛美歌に見送られ、黒衣の男女の形の者を連れて白いスカートをはためかせ、6歳の頭令そらは数年間過ごした養護学校から外界に出でた。
 教諭たちや理事長、それから幾人かの児童が、彼女達を見送ろうと、あるいは追おうとして門から出たが、そこからは人影も車も、何ももう、見えなかった。