シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

史上最大の詐欺 核融合 2

前回、核融合研究の目途が狂いっぱなしであることを説明した。そのブレイクスルーは存在するのだろうか。その期待が掛けられたのが、慣性閉じ込め式核融合である。
慣性閉じ込め方式はローソン条件のうち、閉じ込め時間を極端に削り、温度と密度(圧力)を増大させる方式だ。具体的に云うと、含重水素ペレットに周囲から高強度レーザーパルスを入射し、その照射衝撃で高圧・高温状態を発生させ条件を満たさせる、と云うもの。高密度を維持するのは短時間に生じる衝撃でペレット自身の慣性によるため、慣性閉じ込めと呼ばれる。
この方式は日本では大阪大学で研究が進められ、年々より強力なレーザーにして、短パルス化、短波長化、多本数化を進めている。アメリカではエドワード・テラーらによる研究がロスアラモス研で進められている、との事で立花隆が期待しているようだ。そのことは、かつて書いた。


こちらも当初より設備も設備投資も膨らむ一方で一向に先が見えてこない。そして、磁気閉じ込めでも慣性閉じ込めでも、エネルギー源として利用するには大問題を抱えているのである。それは、


・エネルギーの大部分が高速中性子の形で放出されてしまう
・エネルギーの取り出し手段がない
・設備投資費用が嵩みすぎる
・投資に見合う規模で建設すると巨大すぎる


という点である。その点をちょっと述べていこう


1989年、アメリユタ州のユタ大学の研究者フライシュマン、ポンスが驚くべき発表を行った。
常温核融合」である。
方法はシンプル。重水中で電気分解を行うと陰極側パラジウム電極に重水素が蓄えられ、金属結晶格子中で核融合を引き起こす、というのである。当然、発表直後から世界中が騒然となった。なにせ、彼らが核融合に必要だ、といったのは重水とそれを入れる器。パラジウム陰極に電源のみ。大規模化の一歩を辿っていた熱核融合研究に携わる原子力工学者にとっては受け入れられる事の出来ない事だったに違いない。


自分自身にも思い出がある。このトピックが伝えられた直後に大学の核物理学研究の先生達が「常温核融合」は間違いだ、ウソだ、でっち上げだ。と捲し立てたのである。結果としては正しかったのだが、おかしな態度ではあった。まだ、その時点では真偽のハッキリしていない状態だったし、可能性は低いにしても頭から拒否するのは躊躇われる状況だった。二人を罵った教授の一人は、生成物のスペクトルからみて、検出された放射線は核実験降下物の残留成分の影響に違いない、と云った。だが、そもそもフライシュマンもポンスも詳細なデータを出そうとはしなかった。検証するなら、生成物にヘリウムが含まれるか、中性子は検出されたか、を見ることが重要で、実際、そのように検証が進んでいったのだが、教授は根拠に依らず常温核融合を否定して見せたのだった。それは、常温核融合を信じることと同様に問題のある態度だった。


自分たちが、若干でも常温核融合を突き放して見ることがなかったのは、数年前の1986年に発見された高温超伝導が利いているだろう。超伝導はBCS理論によって説明され、絶対温度30度程度が限界だろう、と云われていたのを100度近く限界を押し上げたのだ。あり得ない、と云われる事が起きうる事を高温超伝導は示した。ただし、常温核融合と高温超伝導の違いは明らかだ。高温超伝導は誰でもが追試できたのだ。大学の学生実験で超伝導体上に浮かぶ磁石には感動したものだ。


冷静な反応も感情的な批判も逆巻いた常温核融合騒動当時、面白い批判があった。
「もし、パラジウム電極が熔けたり、重水が煮え立つほどに核反応が起きたなら、実験者は放射線によって即死していたはずだ」
というものであった。
なるほど、重水素核融合、D-D反応、D-T反応は、反応時に高速中性子を放出する。エネルギーの大部分はこの高速中性子が担うのだ*1。云ってみれば、核融合炉とは、高速中性子発生装置と言い換えてもいい。とすれば、ビーカーを過熱する程度のエネルギーであっても人を即死させるエネルギーを持つ核融合を発電レベルまで巨大化した場合、その中性子量は莫大なものになる。中性子は大部分の物質を通過してしまうから遮蔽は難しい。


かつて、レーガン政権時代のアメリカが中性子爆弾の研究開発と配備に踏み切ろうとした。中性子爆弾は建物にはダメージを与えず*2生物だけを殺す、究極の非人道的兵器と云われた*3。その、中性子爆弾とはどういうものか、といえば、ほぼ純粋な水素核融合爆弾の事である。
点火以外には核融合を利用する水素爆弾は、そのエネルギーのほとんどを高速中性子で放出し、熱や爆風はほとんど生じない、と云われた。それを地上で連続的に動かすのが「核融合炉」なのだ。決して、放射能も出ない代物ではない。遮蔽する物質のほとんどを放射化(放射能を帯びさせる)してしまうのである。遮蔽しきれない分があれば、さらに危険だ。かつての「動燃臨界事故」のような事態が常に生じる。バケツ一杯のウランからの核反応でもあれほど問題になったのに、高速中性子の嵐が巻き起こるのである。


核分裂炉は燃料を冷却水で取り囲む事で中性子を減速、遮蔽している。ところが、核融合の場合、これが困難だ。プラズマを保持するためにはプラズマ容器のすぐ周囲を磁場発生コイルで囲む必要がある。プラズマとコイルまでの距離が離れていると磁場密度が低く効果的ではない。従って、容器壁は遮蔽を充分しなくてはならないが、同時に磁場密度が上がるようにしなくてはならない。
これは技術的に困難であり、よってプラズマ容器壁と磁場発生コイルも間断無き中性子照射によってどんどん劣化してしまう。これは、慣性閉じ込め式でも同じである。レーザー照射系が中性子照射に耐える可能性はほとんどない。
そして、核融合エネルギーを取り出す方法も決まっていない。述べたとおり、エネルギーのほとんどは中性子が担う。遮蔽と磁場を考えると難しいが、それでも生じる熱を取り出すとしよう。すると、熱効率は30%を超える事さえ不可能になる。現在の原子炉でも「発電機能付き温水製造器」と揶揄されるほどに効率が悪い。これは、原子力が水を介してしかエネルギーを取り出せないからだが*4効率が低い。それよりも核融合発電効率の低い代物になってしまうのだ。
熱機関は熱源が高温ほど効率が高い。一番良いのは熱媒を介さないことである。それなのに、核分裂核融合も数MeVのエネルギー、つまり数億度に相当する、を水で400℃程度に下げて利用するのである。
これでは、売り文句の「放射能を出さないきれいな無尽蔵のエネルギー」などではない。「放射能を量産し、有効にエネルギーを取り出せない温水発生装置」である。


現在、投入エネルギーと発生エネルギーを釣り合わせるあたりまで来ている、と云われる。しかし、中性子の形でエネルギーが生じる以上、投入エネルギーの最低でも4倍は発生させられないと、定常的に運転できない事は理解できるだろう。放出される中性子はプラズマを再加熱=核融合のため、のエネルギーにはなり得ないからだ。開発の条件がさらに厳しくなるのは間違いない。


これほど利用に耐えないような代物なのに、研究開発費だけで兆のオーダーに載っている。商用利用が可能になる場合、一基あたりの費用が幾らになるのか。現在の開発費用以上になることは間違いない。なぜなら、核融合炉は大量生産によるコスト削減が利くようなものでは無いからだ。連続的な運転に耐え、安全に配慮しなければならないことを考えたら、開発費より安くする事は無理である。


従って、さらに問題が生じる。一基あたりのコストが異様に嵩むとしたら、核融合炉は大規模なものにする必要が生じる。現在の原子炉のコストが数千億。核融合が最低でも10倍以上のコストが掛かるとしたら、発電電力は最低で10倍は無くてはならない。約1000万kw級の発電所だ。廃熱もそれ相応であり、放射化し劣化する材質も多岐に及ぶだろう。放射能源にして巨大熱源。下手をすれば周囲の自然環境さえ変えてしまう可能性さえある。そんなものをどこへ設置するつもりなのか。放射化した廃棄物をどこへ捨てるのか。急速に劣化する部品をいつ交換するのか。運用に対する疑問は膨らむ。

しかも、何かにつけて停止した場合、一気に1000万kwの発電能力が失われることになる。柏崎刈羽原発停止どころの騒ぎではない。予備を用意するとすれば、さらにコストが嵩む。

核融合は実際に運用される状況を考えると、到底利用可能なものではないのだ。開発者は実際の運用状況を無視している。
未来のエネルギーという言葉ばかりが一人歩きしている核融合は、その開発に注ぎ込まれる額を考えると、史上最大の詐欺とよぶにふさわしいものなのだ。

プラズマ物理・核融合

プラズマ物理・核融合

常温核融合の真実―今世紀最大の科学スキャンダル

常温核融合の真実―今世紀最大の科学スキャンダル

*1:正確に言えばニュートリノが持ち出すエネルギーはバカにならない

*2:実際には中性子照射によって放射化が起きる

*3:レーガン政権とそれを支持する者達は中性子爆弾をきれいな爆弾と呼んだ

*4:高温ガス炉という手段があるが、研究は進んでいない